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#主人公最強
しめさば
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──第二層・中央神殿。
私たちは、記録魔法の再生が終わった水晶球の前に立っていた。
「お姉ちゃん……パパ……」
涙をぽろぽろと流しながら、エスト様が呟く。
「パパは、わたしを心配してくれてた……」
「……そうね。あの人は、あなたのことを大切に思ってる」
私は無意識に、エスト様の頭を撫でていた。
「だから、解決策を探しに行ったのよ。きっと今も、どこかで──」
「……魔神……まさか……」
真っ青な顔で辰夫が言った。
その声は、千年の竜王らしからぬほど震えていた。
「うん……そうみたいだね……」
目を伏せながら辰美が言う。
「千年前、我はユズリハ様という主に仕えておりました……
あのお方は──魔神族との戦いの最中、その命を落とされたのです」
「……その相手が……ここにいるっていうの……?」
私が顔をしかめる。
「えっ、ちょっと待って!? 私たち、さっき『そんなヤバい奴を追い返した』って言ったんだよね!?」
ツバキが頭を押さえながらパニックを起こす。
「カニみたいで美味しそうだったのに……」
カエデが呑気に腹を鳴らす。
「次は熱湯かけようとか言ってましたよね?」
ローザが腕を組む。
「……子供の頃に聞いたことあるよ……みんな口を揃えて、絶対に逃げろって……」
辰美が絶望的な声を漏らした。
──その時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
神殿全体が、唐突に震え始めた。
「……え?」
私たちは慌てて辺りを見回す。
天井から細かい石の欠片がパラパラと落ちてくる。
「魔力の乱れです! 大きい!」
──辰夫が叫んだ、その瞬間。
バキバキバキ……ッ!!
天井の一部が崩れ始めた。
ドンッ!!
巨大な岩の塊が落下し、
私たちが通ってきた入り口を完全に塞いでしまった。
「うわっ! 来た道が……塞がれた!?」
辰美が叫ぶ。
コンコン…
私は岩の塊を叩く。びくともしない。
「はぁ……これって封印がヤバいから、建物も崩れてるってこと?」
「……封印の崩壊が進んでおりますな」
辰夫が冷や汗を流す。
「えっ、これ閉じ込められたってことっ!?!?」
ツバキが頭を抱えてしゃがみ込んだ。
胸の奥がじわりと冷たくなる。
だからこそ、強がってでも笑わなきゃ。
「落ち着きなさい」
私は深呼吸をして、さらに奥へと続く通路を見つめた。
「……出口は塞がれた。でも、奥への道はまだ開いてる」
「お姉ちゃん……」
「つまり、進むしかないってことよ」
私は静電気で膨張したアフロをかき上げて、ため息をついた。
「はぁ、最悪ね……エストパパは『無理するな』って言ったのに、無理するしかない状況になってるじゃない」
「サクラ殿……」
「まぁ、ここで止まってても仕方ないわ。
奥に進んで出口を探すか、崩壊を止めるか……
封印だって、まだ終わってないでしょ」
辰夫が力強く頷く。
「承知いたしました。我々も、サクラ殿についていきます」
「わたしもっ、サクラさんと行くっ!」
「わたしも、お姉ちゃんと一緒!」
「私は帰りたい」
「お腹空いた」
「……」(ペンの音)
「……ありがと。一部を除いて」
『「「「「……!?」」」」』
全員がギョッとして私を見た。
「あ、あのサクラが 《ありがと》 って言った……? 死亡フラグだよぉ!?」
ツバキが震える。
「いただきました!『第五百十章:狂王のお礼は死への導き』っと」
ローザがペンを走らせる。
「ヤバいですな……」
辰夫が冷や汗をかく。
みんなの顔に、ぎこちない笑顔が戻った。
(……うん、全員「帰りたい」って顔に書いてある)
私は奥への階段を見上げた。
「……さあ、行きましょう。この先へ」
──閉ざされた道の先に、新たな試練が待っている。
その時──ふと、私は思った。
このままじゃヤバい。ヤバさより、もっとヤバいのは──
──アフロだ。
アフロのまま死んだら、死にきれない。
「……くっ、こうなったら……っ」
走りながら、私はステータスウィンドウのスキル欄を叩き込む。
《ミズミズしさアップ》 発動!!
にゅるん♪ ぷるるん♪
アフロが、しっとりした。
静電気が収まり、ボリュームダウン。つやっとまとまった。
(──ヨシ!! 帰ったら美容院行くわ!!)
「お姉ちゃん!? 髪がなんかつやつやしてる!!」
「えっ、なんか急にシャンプーのいい匂いがする!?」
カエデが鼻をヒクつかせる。
「女ってね? どんな時も美は大事よ? 覚えときなさい」
「こんな死地に赴く時に女子力気にするのあんたくらいだよ!!」
ツバキがツッコんだ、その瞬間だった。
ドゥルルルルルルルッ……!!!
私たちが降りようとしていた階段の奥、そして壁の隙間から、とんでもない地響きのような音が鳴り響いた。
「な、なに!?」
「……えっ、なんか、ぶよぶよしたのが、すごい勢いで……」
カエデが指差した先。
それは──通路を埋め尽くすほどの、巨大なスライムの濁流(津波)だった。
「ひぃぃぃっ!? スライムの波!?」
ツバキが悲鳴を上げる。
そして、スライムの濁流は一直線に──私を目指して突っ込んできた。
「ミズミズしさアップのせいだぁぁぁぁぁ!!」
ドバァァァァァァァァァァァァッ!!
「サ、サクラ殿ーッ!?」
「お姉ちゃん、走ってー!!」
私は髪を振り乱しながら、
背後に迫るスライムの濁流から全速力で逃げた。
女子力を上げた結果がスライムにモテモテ(物理)だなんて、こんな理不尽な話があるか!!
「あんたたち、早く下の扉開けてぇぇぇ!!!」
階段を転がるように駆け下り、
最下層にあった重厚な石の扉へ飛び込む。
全員が部屋に入った瞬間、辰夫とカエデが全力で扉を閉めた。
バァァァンッ!!!
ビチャァァァンッ!!(扉の向こうでスライムが激突する音)
「はぁ……はぁ……っ」
私は膝に手をつき、荒い息を吐いた。
「……ふぅ……なんとか、撒いたわね……。マジで死ぬかと思った……」
「サクラ、スライムの粘液まみれだよ……」
ツバキが少し引いた目で私を見ている。
「うるさい! 後でお風呂入るからいいの! それより、ここは──」
「……お姉ちゃん」
私の袖を、エスト様がぎゅっと掴んで震えていた。
「……前、見て……」
「え?」
私が顔を上げた瞬間──空気が、変わった。
*
──第三層・奈落の封印室。
「……うっ……!」
ただ重いとか、息苦しいとかじゃない。
まるで水の底にいるような──いや、それよりも酷い。
存在そのものが圧迫されている感覚。
「これが……魔神族の……瘴気……?」
震えながら辰夫がつぶやく。
広間の中央には、
直径数十メートルもある巨大な封印陣があった。
──いや、「あった」と言うべきか。
まるで内側から爆ぜたように、封印陣は砕け、
魔法文字は焼き切れたように途切れていた。
支柱は全て倒壊し、あちこちから黒紫色の瘴気が噴き出していた。
そして。
──ズシ……ッ、ズシ……ッ……。
重い足音が響いた。
「っ……!」
闇の中から、ゆっくりと姿を現したのは──
それらは、私が今まで見たどんな魔物とも違っていた。
灰色の肌に赤い目。
3メートルを超える黒い巨躯。
影が実体化したような細長い四肢。
角があるものも、ないものも。
人に近いものも、獣に近いものも。
全部で──5体。
見ているだけで魂が凍りつきそうになる、圧倒的な威圧感。
背骨の奥で、何かが砕ける音がした。
「ふ、復活している……!」
「あれは……ダメです!!」
辰夫と辰美が同時に声を出す。
「あの人たち……魔力、変だよ……」
エスト様が震えながら私に抱きつく。
「……おい……おいおいおい……あはは、封印……解けてたね?」
乾いた笑いが漏れる。こんなの、絶対に勝てない。
「ほ、ほら……サクラ、さっきの死亡フラグ……だったよ……」
ツバキが囁きながらゆっくりと崩れ落ち、膝をつく。
「……記録したく、ありません……」
ローザのペンが震えている。
「……やだ……あれ……怖い……」
カエデが私の袖を掴んだ。
最も大きな魔神族が口を開いた。
声だけで、空間全体が振動する。
『……虫けらが……紛れ込んだか』
ただ声を聞くだけで、鼓膜の奥が軋んだ。
魔神族の声は、まるで路傍の石を見るような無関心さだった。
『我らは待っていた……』
『王の復活を……永き眠りの終わりを……』
「王……魔神の……?」
『封印は既に限界……あと僅かで我らが王は目覚める……』
絶望的だった。
前には圧倒的な力を持つ魔神族が5体。
逃げてきた背後の扉は、スライムの大群に塞がれている。
どちらにしても、逃げ道なんて最初から無かったのだ。
「……これって……詰み?」
「お姉ちゃん……」
「……」
「……」
私達は……どうすればいいのかわからなかった。
──その時、最も大きな魔神族が一歩前に出た。
その魔神族が一歩踏み出すと、
床石がミシリと音を立てて沈んだ。
『我らが王の復活の邪魔をするなら……排除するまで』
完全に見下されている。
恨みとか憎しみとかじゃない──単純に、邪魔な虫を払いのけるような感覚。
私は無意識に、一歩後ろに下がった。
これは──格が違いすぎる。
相手にとって私たちは、本当に虫ケラ程度の存在なのだ。
(……ダメだ、緊張が限界突破した。もう笑うしかない)
「……でも、やるしかない……わよね……」
私はステータスウィンドウのスキル欄を開いた。
でも──手が震えて、うまく操作できない。
「くそ……こんな時に……」
──その時だった。
「お姉ちゃん」
私の手を、そっとエスト様が握る。
「わたしも、戦う」
「え……?」
「パパの記録を見て、わかった。わたしは逃げちゃダメ」
彼女のその目に、強い意志が宿っている。
「わたしが魔王なら──みんなを守るのが、わたしの役目」
「エスト様……」
エスト様は唇を噛んで一度だけ震え、それでも足を半歩、前に出した。
「だから……一緒に戦おう?」
その瞬間──私の中で、何かが変わった。
恐怖は消えない。
でも──この子を戦わせるわけにはいかない。
(……私が魔王じゃなくて良かった。この子が魔王で、良かった)
──だから私がやる。
「……ふぅ。やるしかないわね。
『俺も知らんが相手も俺を知らん、だから五分!』
って、ムダ様も言ってたしね」
私は振り返って、みんなを見つめ、ニッと笑った。
皆が私を見る。
──そして。
「あはは! さすがムダ様」
エスト様が笑う。
「気持ち悪い納得感が……」
辰夫がため息をつく。
「なるほど!って一瞬思ったよ!?」
辰美が頷く。
「なんでちょっと元気出てんの私!?」
ツバキがツッコむ。
「まぁ、なんとかなるよ!
いざとなったらウィルソン(石)投げるし!」
カエデが胸を張る。
「なるほど……『第五百九章:未知なる深淵と対峙せし時、恐れるなかれ。深淵もまた、汝の光を知らぬのだから。故に運命の天秤は等しく平らである』……これは素晴らしい」
ローザがペンを走らせる。
「超翻訳!?」
私が全力でツッコんだ。
(つづく)
◇◇◇
── 今週のムダ様語録 ──
『俺も知らんが相手も俺を知らん、だから五分!』
解説
相手がどんなにヤバかろうと、こちらが知らんフリを決め込めば心理的優位はこっちのもの。
ムダ様は知っている──知ってるフリより知らんフリの方が強い時もあるのだ。