──────ダダダダダダ!!
銃声が鳴り響く。
然し、その銃弾が命中する事は無かった。
高い音を立てて、銃弾が地面に落ちる。
中也が片手を上げた。銃弾が一直線に並んでいる。
「装填──────重力操作」
重力のベクトルを変え、高重力化された弾丸は空気を裂いた。
「ヴッ!」
「ぐぁ!!」
銃弾が敵を貫く。敵は全員ばたばたと地面に倒れた。
「黒蜥蜴!手前等は辺り一帯を包囲しろ!」
中也の言葉に従い、黒蜥蜴がそれぞれ移動する。
「芥川!樋口!手前等は入口を固めろ!誰一人も逃がすンじゃねェ!」
「承知」
「はいっ!」
芥川と樋口が、敵の戦力を殺ぎながら移動する。
「後は全員俺に付いて来い!敵の内部を破壊する!」
「「「「はっ!」」」」
中也は部下に命令を下すと、敵の方に視線を移した。
弾丸の雨が降り注ぐ中、中也は平然と前へと進む。
「くそっ!化け物め!」
黒服を纏った敵の男の一人が撃ちながら云った。銃弾が無くなったのか、トリガーを引いてもかちかちと音を鳴らしている。
中也はそんな男の無様な姿を冷酷な目で見ていた。
「っ……くッそおおぉぉぉぉぉおおっ!!!」
男は腰にさしていたナイフを取り出して、中也に向かって来る。
此のフロアに居る敵は、この男で最後だった。
中也が力強く拳をつくる。腕を振りかぶった。
──────バキッ!!
鋭く痛々しい音がフロアに響く。
「重力操作」
奥に吹っ飛ぶかと思いきや、男は地面にめり込んだ。
「如何せだから情報を吐いてから死ね。そうすれば楽に殺してやる」
中也は男の躰の上に足を置いた。
「ッ゙!……ぅ゙、ぐぁ゙………」
男は重力の圧迫により呻き声を上げ続ける。
「解毒薬は何処だ?」
側で見る部下達は何も表情を崩さなかった。ソレが彼等にとっては何時も通りなのだから。
「が、ぁ………カ…ヒュ───ッ、ぁ゙あ゙」
中也は辺りを見渡した。他に生存者が居るか確認したのだ。
然し殆どが瀕死の状態で、少しでも重力を加えれば即死な程だった。
「チッ…!」
舌打ちが響く。
──────ズンッ!
男を圧迫する重力の強さが増した。
「オイ、さっさとしろ。此方は有限なンだよ」
「ゔぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」
拷問。正に拷問である。
然し部下達も──────増してや芥川や樋口も、脳裏に一つの疑問が浮かんでいた。
中也は、何故其処まで怒っているのか?
然し、聞ける者等その場には居ない。
「何だよ手前、苦しんで死にてェのか?彼奴でも痛いのは御免だぞ?」
「……っ、げ………ど…ぐ……やく……は、ぁ゙……」
男は朦朧としながら言葉を発した。
「し……だ、の………ふろ…あ゙……に゙、ぃ゙………ほ…っ、かん……ざれで、い゙…る゙………」
中也が薄っすらと目を細める。
「そりゃあ、有り難ェ」
「ぁ゙…ぐ………ぅ゙──────グチャッッッツ!
肉が潰れるような音が響いた。
「情報提供感謝するぜ」
そう云って、中也は奥の方へと歩き出す。
先程まで対面していた男────否、血と潰れた肉の破片には目もくれずに。
「俺等は此れから下のフロアに行って解毒薬を回収する。ソレが終わり次第、後は慘殺」中也は後ろの入口に立つ芥川と樋口に云った。「誰も其処から逃がすな。敵は全員始末する」
「承知しました」
「はい」
芥川と樋口が固い返事をした。
中也が歩き出そうと後ろに視線を移した瞬間。
──────ガチャッ
細かい金属がぶつかり合うような音が、奥の方から響く。
銃を持った男達が、中也の方へと向かって来た。
「……………」
中也は自分の異能で躰を包み込む。ソレは自分を護る鉄壁の防具でもあった。
握りしめた銃弾を、中也は横に並べる。
「重力操作」
敵がトリガーを引くのと、同時であった。
然し中也が高重力化した音速並みの銃弾は、どんな銃弾よりも疾く命中した。
「ぐあっ!!」
「ヅッ!」
敵の殆どに命中し、中也の勝が見え────バンッ!
刹那、敵の一人が撃った銃弾が中也の横腹を貫いた。
「なっ……!」
中也が驚きの声を上げる。
──────ダダダダダダ
銃撃が中也を襲う。
「チッ……!」
舌打ちをした後、再び中也の躰を重力が包み込んだ。
中也は近くにあった大型のコンテナを使い、天井に移動する。
「樋口!その銃貸せっ!!」
別のコンテナの陰に身を潜めながら敵を撃つ樋口に、中也が声を張って云った。
「えっ…!?今ですか!??」
樋口が焦る。
「疾く!」
敵が撃ってくる“銃弾を避けながら”、中也は云った。
「っ………」樋口は持っていた銃に一瞬で弾を補充して、中也に向って投げる。「中也さんっ!」
中也は銃を受け取ると、敵数名を狙って発砲した。
──────バンッ!バンバン!
銃弾が中たり、敵は全滅。然し中也にとっては其れ処では無かった。
中也は腹部を撃ち抜かれる時、異能で躰全体を包んでいた。
異能が弱まった訳ではない。
ならば何故、“中也に銃弾が命中する?”
その瞬間、中也の脳に或る仮定が思い浮かんだ。
「っ!真逆……!」
然し其の仮定は、今迄の事を合わせて考えると全て事実になる。
最早仮定では無い、事実だ。
中也の表情に焦りと、少しの絶望が交じる。振り返って部下達の元に走った。
部下や芥川達は、不思議な表情で中也を見る。
中也は走り、そして云った。
「手前等下がれっ!!」
此処から出るように手を横に思い切り振る。
息を短く吸って、思い切り吐いた。
「敵は異能を─────────ズオッ!!
視界が赤色に染まった。
***
「やァ、始めまして………が、正しいかな?」
青年────太宰は、奥で座り込む鎖に繋がれた少年に話し掛けた。
少年は太宰に気付き、ゆっくりと顔を上げる。
彼は、太宰と同じ顔をしていた。
太宰は少年と目線を合わせる為にしゃがみ込む。
『………?』
太宰は少年を縛る鎖にゆっくりと触れた。光を帯びて、ソレは霧消した。
『ぇ、なん……で?………何でこんな事、するの?』
「君が必要だからだよ」
『ひつ……よ、う?』
「嗚呼」
『──────っ……』
少年が固く唇を閉ざす。
刹那、少年は太宰を突き飛ばした。
「っ!」
いくら太宰でも唐突な衝撃に地面に腰が付く。
『“必要”……?』
太宰が目を丸くした。
『嘘付かないでよ』
少年の表情は今にも泣き出しそうで、声が震えている。
「____…」
『誰も僕を必要としてくれなかった』
其の言葉は太宰の耳に酷く響いた。
『誰も僕を愛してくれなかった』
少年は背中を丸めて膝を抱える。
『人間は皆嘘を付く』
顔を膝にうずくめた少年の躰は震えていた。
『っ………ぁ、うぅ……ッ……ぅ』
少年は涙をぽろぽろと零した。
太宰は呆然としながら少年を見た後、小さく微笑して彼の手を握った。
「……そうだね、確かに人間は嘘付きだ。然しその嘘は、時に人に幸を与える」
其の言葉に少年はゆっくりと顔を上げる。太宰が少年の涙を拭った。
「大丈夫だよ。皆君を必要としてくれている、大事に思ってくれている、愛してくれている」
『ぅ、ッ………本、当に…?』
「うん」
太宰は凛々しい笑みを浮かべ、その瞳は自身に満ちていた。
「だから、彼を助けて呉れないかい?」
『彼……?』
「そう、私の────そして君の、何時かの相棒さ」
『僕の……あい、ぼう…………』
少年の其の言葉に、太宰はニコッと微笑む。
「チビなくせに威勢が強くて、酒が弱いくせに沢山呑みたがる。音楽が好きだったり、動物に好かれたり…………悪趣味な帽子をかぶる」
「帽子…………」
「うん、でも………」
「でも?」
今度は幸せそうに太宰が微笑んだ。
「彼は──────とても綺麗なのだよ」
少年の目の前で、煌めきと揺らめきが起こる。
「本当?」
「本当だよ」
太宰はそう云うと、立ち上がって少年の手を引っ張った。
まるで迎えに来たかのように、奥の光が一気に強くなる。
「さぁ、行くんだ。何かあったとしても、君の相棒が守ってくれるだろう。心細かったら彼の服でも掴むと佳い」
少年は頷いた後、光に数歩近付いて太宰の方に振り返った。
「ねぇ、その相棒って……………何て名前?」
その問いに太宰は満面の笑みで答えた。
「中原中也!私の相棒さっ!」
***
少年が光の向こうへ消える。
「──────ふぅ……」
太宰は息を吐いて地面に座り込んだ。
これで、今太宰がやるべき事は終わったのである。
後は予想外が起きない事と、“彼”が中也を助ける事を願うだけだった。
刹那、金属音が鳴り響く。
赤黒く光る鎖が、太宰の腕に絡みついていた。
「縛り」である。
太宰は遠く離れ薄くなって行く光に、手を伸ばした。
グラっと視界が揺れる。
鎖に引っ張られ、太宰は奥底の暗闇に墜とされた。
「──────────頼んだよ、相棒」
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次回が楽しみすぎるッ!