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格闘家風の男性が腕を組みながら、静寂を打ち破るかのごとく部屋中に響き渡るほどの声を発する。
「彼女が信用するというのであればこの俺、ガーディス・ギガイアもその話を信用しよう!」
彼は自信満々そうに笑みを浮かべてそう告げた。これで三人中二人が作戦に参加してくれる意思を表明してくれた。
すると魔法使い風のおじいさんはともかく何故かエルフの女性も呆れたような顔でため息をついていた。
「お主、何も分かってないじゃろ?」
「まあ精霊のこととか魔眼…?のこととかよく分からないけどよ、イルーラが言ってるのはつまりこの子達とグランドマスターの話は信用出来る!ってことだろ?」
「まあ、簡潔に言えばそうだけど…」
何だかこの格闘家風の男性がどんな人で周りからどう思われているのかが分かった気がする。ちょっとだけこの人で大丈夫かなと思ってしまったのは心にしまっておこう。
彼もこれでもSランクの冒険者なのだから。
「イルーラが信用出来ると言うなら大丈夫だろっ!まっ、とりあえず俺はあれこれ考えるより先に動きたいタイプだからな。それに信じなくて後悔するよりも信じて後悔する方がいいし!」
「本当にあなたはブレないわね…」
会議室に格闘家風の男性の笑い声が響き渡る中、他のSランク冒険者の二人は呆れた顔で、グランドマスターは和かな笑顔で、そして俺とセレナは苦笑いするしかなかった。
セラピィはというとよく分からずキョトンとしていた。
「これで残るはヴェスティガ、君だけだけど…どうする?」
グランドマスターはそう言って魔法使い風のおじいさんの方を向いた。どうやら彼はヴェスティガという名らしい。
「……はぁ。全く面倒なこと極まりないが、Sランクの中でわしだけ参加せんというのも外聞が悪くなってしまうじゃろう。お主たちに話がもし本当じゃったら、王国の危機に尻尾巻いて逃げた恥晒しになるのはごめんじゃからのう。仕方ない、このわしヴェスティガ・ウィークラフもその話信じてやろう」
何ともイヤイヤそうな反応ではあるが一応これでSランク冒険者全員が参加してくれることになった。これは本当に心強い。
「ヴェスティガ、君は相変わらず素直じゃないな。そんなに言い訳をたくさん並べなくても一言『信じる』って言えばいいのに」
するとグランドマスターが少しニヤついた顔でヴェスティガさんに話しかけていた。その言葉と表情を見たヴェスティガさんは顔を少しずつ赤くして大声を上げた。
「う、うるさい!こっちは仕方なく信じてやるって言ってるんじゃ!!わしは別に研究所に戻ってもいいんじゃからな!!!」
「はいはい、すまなかった。信じてくれて助かるよ」
ヴェスティガさんは顔を真っ赤にしながらグランドマスターを指差してあれこれ大きな声で文句を言い続けている。それを慣れているのか軽くあしらい続けるグランドマスターは終始ニヤついていた。
もしかしてヴェスティガさんってツンデレ…?
まあ俺はおじいさんのツンデレには特に興味はないけれど…
「まあ、ということでだ。みんな手を貸してくれるということで本当に感謝する。ではこれからの方針や具体的な作戦について何だが…」
ヴェスティガさんの怒りを完全にあしらい切ったグランドマスターは会議を進め始めた。今後の方針としてはまず敵の目的の解明、そして防衛システムの構築。および冒険者の配置の検討など様々なことが挙げられた。
そしてその中でも最重要課題なのが…
「敵の攻撃目標の断定だ」
「それは確かに重要なのですけど、それが分かるならこうやって苦労してない訳で…」
俺はグランドマスターの言葉に対して少し心にあったモヤモヤした部分が言葉として出てしまった。発言した後になってから言ってしまったことを後悔し、すぐさま謝罪する。
「…すみません、言葉が過ぎました」
「いや、気にしなくても大丈夫だよ。ユウト君の言う通り、決してそれは簡単なことではない。敵の拠点がどこなのかも分からない以上、今から手がかりを一から探すのは得策ではないだろう。そこで君たちSランク冒険者たちの出番という訳だよ」
自信ありげにそう言うグランドマスターだが、このSランク冒険者たちの中で誰かが何か秘策を持っているということなのだろうか?だからこそこうやって集めたのだろうか。
「…もしかしてですけれど、グランドマスター。私の『あれ』を当てにしているわけではないですよね?」
すると少し間をおいてイルーラさんが険しい表情でグランドマスターに問いかける。彼女の言う『あれ』とはいったい何のことなのだろうか?
「ああ、もちろん。力を貸してほしいと思っているよ」
「はぁ…あのですね、私の『未來視の魔眼』はそんな便利なものじゃないんですよ。見ている範囲内の、かつ数秒以内の出来事ならばほぼ確実に視ることが出来ますけども。今問題になっていることに関しては情報も少なく何日、いや何か月かも分からないほどの先の出来事なのですから不可能です」
み、未来視の魔眼だって!?
セレナ以外にも魔眼を持っている人がいたのか…
それに見ている範囲内の数秒先の未来がほぼ確実に分かるというのはすごい能力だ。戦闘においてはほぼ無敵と言っても過言じゃない代物じゃないか。Sランク冒険者というのは俺の想像以上にヤバイ人たちなのかもしれない。
「分かっているとも。しかし今はそれに頼る他ないほどに切迫した状況なのだよ。だが今ここにはSランク冒険者が4人も集まっている。限られた希望の中でも君たちとなら的確に何かを掴めると信じている」
グランドマスターはすごく真っ直ぐな目でこちらを見る。彼も相当手詰まりなのだろう、僅かな希望でもあるならそれを信じたい…その気持ちはすごく分かる。
「それってほとんど丸投げってことじゃないですか…」
確かにイルーラさんの言う通り丸投げと言われれば丸投げなのだろう。
しかし俺にもどうすることが出来ないので何にも言えない。
「……まあ、全く手がないこともないのじゃが」
すると先ほどまでずっと黙っていたヴェスティガさんがギリギリ聞こえるほどの小さな声でぼそっと呟いた。その言葉をグランドマスターは聞き逃すことなく拾い上げた。
「ヴェスティガ、何か良い案でもあるのか?!」
「まあ、わしは魔道を探求する者としてイルーラの魔眼についても詳しく調べておるからの。その能力についてはイルーラよりも詳しいという自負があるぞ」
「…何だか気色が悪い発言ね」
イルーラさんが少し引き気味にヴェスティガさんのことを見る。まあヴェスティガさんの気持ちも分からないことはないけど、イルーラさんからしたら自分の眼のことを他人が自分よりも知ってるなんて言われるのは少し嫌だろうな。
「何が気色悪いか、魔道の探求はとてもとても崇高なものじゃぞ!お主の魔眼の力を調べることによってわしの魔道の道はさらに深みに進んだのじゃから」
「…もしかして昔、一時的にパーティを組んでいたのってそれが理由だったのかしら?普段、魔物の素材を取りに行く時しか研究室を出ないソロ専のあなたが依頼を高頻度に受けて、かつパーティを組もうだなんて言い出すもんだから不思議に思っていたのよ」
あー、何か俺にでもその様子が簡単に想像できるな。たぶんヴェスティガさんはイルーラさんに戦わせてその様子を観察しながら魔眼の力を解析でもしてたのだろう。
「まあ、とりあえずそのことは今は置いておこう。それでヴェスティガ、何か方法があるのか?」
「ああ、確実に…とは言えんがもしかしたらこの場にいる連中がいれば何とかなるかもしれん」
もしかしたらグランドマスターの言う通り、Sランク冒険者が力を合わせれば何かこの状況を好転できる手段が出てくるのかもしれない!俺たちは大きな希望を胸にヴェスティガさんの話を詳しく聞くことにした。