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私の人生における、すべての負の要素を詰め込んだような人。それが、彼だった。
彼と出逢った時、私は高校三年生で受験を控えていた。そんな時に彼を紹介されたのだ。
当時、彼の恋人だった女性は私のクラスメイトでもあった。彼女と私は仲が良く、よく一緒に居た為、必然的に彼にも会う機会が増えた。
彼と初めて会った時の事は今でもはっきりと覚えている。それは、まるで魂を鷲掴みされたかのような衝撃的な出会いだったからだ。
初対面にも関わらず、彼は私の事を知っていた。その理由を聞くと、彼は私が通っていた高校の卒業生だと教えてくれた。つまり、彼は先輩になるわけだが、当時は同じ学年だった。
高校を卒業したら連絡を取り合おうと思っていたが、結局それは叶わなかったらしい。だからこうして再会できたことがとても嬉しいとのこと。
彼と話した時間はそう長くはなかったけど、私の中で印象に残っている出来事がいくつかある。
そのひとつは、彼が卒業アルバムのクラス写真を見て、「こいつ知ってる!」と言ったことだ。確かに同じクラスの子だったが、話したことは一度もなかったと思う。なのに彼は「えー? お前覚えてる?」と言ってきたのだ。しかも、自分のことを思い出してほしくて言っているのではなく、ただ単にクラスメイトだったということを思い出しただけなのだ。私は「うん……」と答えることしかできなかった。別に忘れていたわけじゃないし、彼のことが嫌になったとかそういうわけではないのだが、彼の中ではもう終わったことになっているようだった。私が彼を好きな気持ちは終わっていないのに。それにしても「あぁそういえばいたね」的な言い方はちょっと失礼だと思う。もっと他に言うことがあるんじゃないだろうか。私は今でもずっとあなたのことを考えているというのに。
しかし考えてみれば、彼は昔からこういう人だった気がする。友達同士で遊んでいる時だってそうだ。ゲームをしている時はいつもみんなの中心にいるくせに、何か大事な用事があると急に一人でそそくさと帰ってしまうのだ。
あの頃の僕はそういう彼のことをよく理解できずにいたし、彼もまた僕の気持ちを理解してくれなかったと思う。僕たちはお互いのことを深く知ろうとしなかった。だから僕らの間には見えない壁のようなものがあったんだろう。
だけど今になって思う。それはただ単に怖かっただけなのだと。自分の本心をさらけ出すことが、相手の本音を知ることが。結局僕らは臆病だっただけなんだ。
そう考えるようになったのは、僕が大人になった証拠だろうか。それともただ単純に、自分が成長した証なのだろうか。
どちらにせよ、もう昔の僕たちに戻ることはできない。なぜなら今は――。
***
「はいこれ」
彼女はそう言って一枚の名刺を差し出した。そこには彼女の名前と電話番号が書かれている。もちろん裏返してみても同じ文字が並んでいる。つまり表にも裏面にも同じ文章が記されているわけだ。
そんな彼女を見て、僕は少し戸惑った表情を浮かべた。別にそれが嫌だというわけではないのだが、その突然の行動に驚いたのだ。
「えっと……これは?」
「見ればわかるでしょ? 連絡先だよ」
「ああ、うん。それは見てわかったんだけどさ。どうしてこれを僕にくれるのかなって思って」
すると彼女は小さく溜息を吐いたあと、「まだわからないの?」と言って首を傾げた。
それから呆れたような顔をしたあとにこう言った。
「今日は何月何日でしょう?」
「四月一日」
即答した。他に思い当たる節がないからだ。
だが彼女はそれに納得していない。
「私はもっと愛されるべきだったわ」
そう言う彼女には理由がある。
それは彼女が生まれつき持っている能力が原因なのだ。
「私はただ人を愛したいだけなのに……」
彼女の名は『サキュバス』
その名のとおり、異性を魅了し快楽を与える種族である。
しかし彼女が持つ能力はそれだけではない。
彼女はその能力を封印しているのだ。
なぜならば自分の持つ力はあまりにも強すぎるからだ。
もし自分が本気を出して相手を誘惑すれば相手は理性を失い、我を忘れて自分に襲いかかってくるだろう。
そうなれば自分は相手の人生を滅茶苦茶にしてしまうかもしれない。
だから彼女は自分をコントロールするために普段は抑え込んでいるのだ。
そんな彼女がなぜこのような話をしているかというと、
「ねぇ、私の話を聞いてくれる?」
目の前にいる男が突然話しかけてきたからである。
男の年齢は二十代後半ぐらいだろうか? 男は黒いスーツに身を包み、白いワイシャツを着ていた。ネクタイはしておらず、胸元を大きく開けていた。
見た目はかなり整っており、長身でスタイルが良く顔立ちも良いためモテるが女性関係では問題を起こしやすい。
常に冷静沈着だが恋愛になると一転して直情的な性格になりやすく、相手を傷つけるような言動が目立つ。
自分の意見を押し通そうとすることが多く他人との折り合いが悪くなることも多いが、それが原因で孤立することはあまりなく友人も多い。
基本的にマイペースな性格をしているが、好きな人に対しては一途かつ情熱的な一面を見せることもある。
戦闘時には愛用している剣を用いた剣術を得意としており、魔法に関しては中級まで使うことができる。
また、仲間からは「アホ」と呼ばれている。
ちなみに彼の武器であるロングソードは持ち主を選ぶ特殊なものであり、使いこなすためにはある程度の実力が必要となる。
そのため、彼をパーティーメンバーに勧誘しようとする者は少ない。
しかし彼自身はそのことに特に不満を抱いていないようである。
『さすがにもうそろそろ慣れてきたかな?』
「……」
ここはとある宿屋の一室。ベッドの上で横になっている俺の隣にいる少女――サリアが話しかけてきたが、俺は何も答えなかった。