テラーノベル
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午後6時。
幸山家のリビングには、重たい空気が流れていた。
テーブルの上には、一枚の紙。
それは蓮の 期末テストの成績表だった。
父親がその紙を指で叩く。
「これはなんだ?」
低く冷たい声。
高校二年生の 幸山蓮 は、黙ったまま立っていた。
母親も腕を組みながら言う。
「こんな点数でどうするの?
あんた、もう高校二年生よ?」
父親は苛立った声で続けた。
「お前は昔はもっと出来ただろう!」
「努力が足りないんだ!」
蓮は下を向いたまま、拳を握りしめる。
父親はさらに怒鳴る。
「何か言え!」
「黙っていれば済むと思うな!」
その瞬間、蓮の中で何かが切れた。
蓮
「……」
小さく、しかしはっきりと言った。
蓮
「俺は悪くない…」
父親
「何?」
蓮は顔を上げる。
その目は、怒りとも悲しみともつかない色をしていた。
蓮
「俺は悪くない…」
「ただ…」
少し震えた声で言う。
蓮
「家族が…俺の心を壊してるだけだ…」
一瞬、部屋の空気が止まった。
母親が驚いた顔をする。
父親の顔は、みるみるうちに赤くなった。
父親
「なんだと…?」
「親に向かってその言い方は!」
蓮はそれ以上何も言わなかった。
ただ静かに、リビングを出ていった。
後ろから父親の怒鳴り声が聞こえる。
「逃げるのか!」
「まだ話は終わってない!」
しかし蓮は振り返らなかった。
部屋のドアを閉めると、ベッドに座り込む。
天井を見上げながら、ぼそっとつぶやく。
蓮
「……はぁ」
「もう…疲れた」
時計の針は、ゆっくりと進んでいった。
深夜
家の中は静まり返っていた。
時計を見る。
0時30分
蓮はベッドから起き上がる。
机の上には、学校の教科書。
そしてさっきの 成績表。
蓮はそれを見つめる。
蓮(俺は本当にダメなのか…?)
蓮(努力してないのか…?)
しばらく考えたあと、首を振る。
蓮
「……違う」
「もう、いい」
制服の上にパーカーを羽織る。
財布とスマホをポケットに入れる。
そして静かに部屋のドアを開けた。
廊下は暗い。
リビングからは、父親のいびきが聞こえる。
蓮は小さくつぶやいた。
蓮
「……さよなら」
玄関のドアを、そっと開ける。
夜の空気が流れ込んできた。
外は静かだった。
街灯だけが道路を照らしている。
蓮はゆっくりと歩き出した。
行き先は決めていない。
ただ一つだけ、思っていた。
蓮(この家から…離れたい)
深夜の街を、一人で歩き続ける。
その先で——
蓮は 運命の出会い をすることになる。
まだ、そのことを知らないまま。
夜の街は、昼とはまるで別の世界だった。
街灯の光が道路をぼんやり照らし、
遠くから車の音だけが聞こえる。
高校二年生の 幸山蓮 は、重い足取りで歩いていた。
パーカーのポケットに手を入れ、下を向いたまま。
蓮(……帰る場所なんてない)
蓮(でも…どこにも行く場所もない)
自分でもどうして歩いているのか分からなかった。
ただ、あの家から離れたかった。
しばらく歩くと、
小さな 深夜バスのバス停 が見えてきた。
ベンチと、古い時刻表だけの静かな場所。
時刻を見る。
深夜1時前。
「……」
蓮はベンチに腰を下ろした。
街灯の光が弱く照らしている。
誰もいない夜のバス停。
蓮は俯いたまま、小さくつぶやいた。
蓮
「……俺、何やってんだろ」
「こんな時間に…」
頭の中に、夕方の頃の言葉がよみがえる。
父親の怒鳴り声。
母親のため息。
そして自分の言葉。
「家族が俺の心を壊してるだけだ…」
蓮は両手で顔を覆った。
蓮(俺が悪いのか…)
蓮(それとも……)
その時だった。
「……大丈夫?」
突然、やさしい声が聞こえた。
蓮は驚いて顔を上げる。
そこには——
一人の女子高生が立っていた。
夜の街灯の下で、長い髪が風に揺れている。
制服姿のまま、静かにこちらを見ていた。
蓮
「え……」
少女は少し心配そうな顔をしている。
少女
「さっきから元気なさそうだったから…」
「大丈夫?」
蓮は慌てて目をそらす。
蓮
「いや…別に」
「大丈夫だから」
少女は少しだけ微笑んだ。
そしてポケットをゴソゴソと探る。
次の瞬間——
蓮の前に 小さなチョコレート を差し出した。
少女
「はい」
蓮
「……え?」
少女
「甘いもの食べると、少し元気出るよ」
蓮は戸惑った。
知らない人から、突然チョコをもらうなんて思わなかった。
蓮
「なんで…?」
少女は軽く肩をすくめる。
少女
「なんとなく」
「あなた、すごく悲しそうな顔してたから」
その言葉に、蓮は一瞬何も言えなくなる。
蓮
「……」
少し迷ってから、チョコを受け取った。
蓮
「……ありがとう」
少女は嬉しそうに笑った。
その笑顔は、夜の中で不思議なくらい明るかった。
その時——
遠くからエンジン音が聞こえる。
ブゥゥゥン……
深夜バスが近づいてきた。
少女は振り向く。
少女
「あ、来た」
バスが静かに停車する。
ドアが開いた。
少女は蓮の方を見る。
そして軽く手を振った。
少女
「じゃあね」
「元気出して」
そう言うと、迷いなく バスに乗り込んだ。
ドアが閉まる。
蓮はその後ろ姿を見つめていた。
蓮
「……」
手の中には、もらったチョコ。
なぜか胸がざわついていた。
バスの行き先を見る。
そこには、自分が乗る予定の路線とは まったく違う場所 が書かれていた。
蓮
「……」
普通なら、乗る理由なんてない。
でも——
なぜか体が動いた。
蓮
「待って!」
蓮は突然走り出す。
そして——
バスのドアが閉まる直前、
迷わず飛び乗った。
運転手が少し驚く。
運転手
「おっと、大丈夫か?」
蓮
「すみません…!」
息を切らしながら答える。
バスの奥を見る。
すると——
窓際の席に座ったあの少女が、驚いた顔でこちらを見ていた。
少女
「……あれ?」
蓮と少女の目が合う。
その瞬間、
二人の運命が
静かに動き始めた。
深夜バスは、静かに走り出した。
ブゥゥゥン……
エンジンの低い音と、タイヤが道路を滑る音だけが車内に響く。
乗客は数人しかいない。
ほとんどの人が眠っているのか、
誰も話していなかった。
高校二年生の 幸山蓮 は、バスの一番後ろまで歩いていく。
そして 一番奥の端の席 に座った。
窓の外を見る。
街灯が流れていく。
コンビニの光。
閉まった店のシャッター。
全部がゆっくり遠ざかっていく。
まるで、自分の今までの生活が
少しずつ離れていくみたいだった。
蓮はポケットから、さっきの チョコレート を取り出す。
蓮
「……」
少しだけ笑った。
蓮(さっきの子…)
蓮(なんで俺にチョコなんてくれたんだろ)
名前も知らない。
どこの学校かも知らない。
でも——
あの笑顔が頭から離れなかった。
蓮は小さくつぶやく。
蓮
「……誰かと」
「話したいな…」
こんな夜。
こんな気持ち。
一人でいるには、少し重すぎた。
その時だった。
「ここ、いい?」
突然、声が聞こえた。
蓮は驚いて顔を上げる。
そこには——
さっきの女子高生が立っていた。
蓮
「え…」
少女は優しく笑っている。
少女
「隣、空いてるよね?」
蓮は一瞬固まったあと、慌てて言う。
蓮
「う、うん…」
少女は嬉しそうに
「よかった」
と言って、蓮の隣の席に座った。
ふわっと、シャンプーのような香りがした。
蓮の心臓がドクンと鳴る。
(なんで…)
(なんで俺の隣に…)
少女は窓の外を見ながら言う。
少女
「さっきのお礼、言ってなかったね」
「チョコ受け取ってくれてありがとう」
蓮
「いや…」
「こっちこそ…」
言葉がうまく出てこない。
少女は少し首をかしげる。
少女
「でもびっくりした」
「乗ると思わなかったから」
蓮
「……」
蓮は少し照れながら答えた。
蓮
「なんとなく…」
「ついてきたくなった」
少女は目を丸くしたあと、
くすっと笑った。
少女
「変な人」
でも、その声はどこか嬉しそうだった。
その笑顔を見た瞬間——
蓮の胸の奥に、温かいものが広がった。
さっきまで感じていた
重い気持ちが、少しだけ軽くなる。
その時だった。
蓮は、気づいたら
少女の手を握っていた。
少女
「えっ…?」
蓮も自分で驚く。
蓮
「……あ」
慌てて手を離そうとする。
蓮
「ご、ごめん!」
「その…」
顔が一気に赤くなる。
蓮
「つい…」
「嬉しくて…」
少女は一瞬きょとんとした。
そして——
ふっと、やさしく笑った。
少女
「……変な人」
でも、今度は
手を離さなかった。
バスは静かな夜の道路を走り続ける。
窓の外には、星の見える空。
そして車内では——
名前もまだ知らない二人の距離が
少しずつ近づいていった。
まるで運命に導かれるように。
深夜バスは、静かな夜の道路を走り続けていた。
車内には、エンジンの低い音と
ときどき揺れる振動だけがある。
窓の外には、街の灯りがゆっくり流れていた。
バスの一番後ろの席。
幸山蓮 と、隣に座る少女。
二人の間には、まだ少しだけぎこちない空気が流れていた。
さっき思わず手を握ってしまったことが、
蓮の頭から離れない。
蓮(やばい…)
蓮(いきなり手握るとか…俺なにやってんだ)
恥ずかしくなって、蓮は窓の外を見る。
すると、隣の少女が少しだけ顔をのぞきこんできた。
そして、やさしい声で言った。
少女
「ねぇ」
蓮
「え?」
少女は少し首をかしげながら聞いた。
少女
「きみ…名前は?」
蓮は一瞬驚いた。
でもすぐに答える。
蓮
「幸山蓮…」
「高校二年」
少女はぱっと明るい表情になった。
少女
「幸山蓮くん!」
「いい名前だね!」
その言葉に、蓮は少し照れる。
少女は胸に手を当てて言った。
少女
「私は 阿須賀ひかり」
「同じく高校二年」
蓮
「阿須賀…ひかり」
その名前を小さく繰り返す。
まるで、忘れないようにするみたいに。
ひかりは楽しそうに笑う。
ひかり
「なんか不思議だね」
「さっきまで知らない人だったのに」
「もう名前知ってるなんて」
蓮
「……うん」
蓮はひかりの横顔を見る。
街灯の光が、時々その顔を照らす。
やわらかい表情。
優しい笑顔。
さっきまで暗かった心が、
少しずつ温かくなっていく。
蓮の胸の鼓動が早くなる。
ドクン…ドクン…
蓮(この子……)
蓮(すごく優しい)
蓮(こんな人…初めてかもしれない)
そして——
蓮の心の中に、ある気持ちが強く生まれていた。
蓮(この子と…)
蓮(付き合いたい…)
自分でも驚くくらい、まっすぐな気持ちだった。
さっきまで落ち込んでいたことも、
家のことも、全部忘れてしまいそうだった。
蓮(もう…)
蓮(俺の燃えてる身体は止まらない…)
隣に座る 阿須賀ひかり を見ながら、
蓮はそう思っていた。
その時、バスが少し揺れる。
ひかりがバランスを崩して、
少し蓮の肩に寄りかかった。
ひかり
「あ、ごめん!」
蓮
「い、いや!」
蓮の心臓がまた強く鳴る。
ひかりは少し恥ずかしそうに笑った。
ひかり
「今日は変な日だなぁ」
「知らない人と夜中にバス乗ってるし」
蓮
「……」
蓮も小さく笑った。
蓮
「俺も」
「でも…」
少しだけ勇気を出して言う。
蓮
「悪くないかも」
ひかりは少し驚いたあと、
優しく微笑んだ。
ひかり
「うん」
「私もそう思う」
深夜のバスは、夜の道を走り続ける。
偶然出会った二人。
だけどその出会いは——
これから
二人の人生を大きく変えていくことになる。
まだ、誰も知らないまま。
深夜バスは、静かに終点の町に到着した。
ブレーキの音とともに、ドアが開く。
運転手
「終点でーす」
乗客たちがゆっくり降りていく。
幸山蓮 と 阿須賀ひかり も、並んでバスを降りた。
外の空気は少し冷たく、
夜の町はとても静かだった。
遠くで海の音が聞こえる。
ひかり
「ここ…初めて来た」
蓮
「俺も」
二人は少し歩く。
夜遅くなので、ほとんどの店は閉まっている。
しばらく歩いたあと、
小さなホテルの明かりが見えた。
ひかりは少し不安そうに言う。
ひかり
「今日は…ここで休むしかないね」
蓮はうなずく。
蓮
「うん」
フロントで手続きをして、
二人は同じ部屋に入った。
部屋の中は静かで、
窓の外には夜の町の灯りが見える。
少し気まずい沈黙。
蓮
「……」
ひかり
「……」
そして、ひかりが小さく笑った。
ひかり
「今日、すごい一日だったね」
蓮も少し笑う。
蓮
「うん」
「家を出て…」
「深夜バスに乗って…」
「知らない人とここにいる」
ひかりはベッドに座りながら言う。
ひかり
「でも」
「嫌じゃないよ」
その言葉に、蓮の胸が少し熱くなる。
蓮
「俺も」
ひかりは少し照れながら言った。
ひかり
「今日はもう遅いし…」
「休もう?」
蓮
「うん」
窓の外では、夜が静かに続いている。
二人にとってこの夜は、
特別な始まりの夜になった。
これから先、どんな未来が待っているのか——
まだ、誰も知らない。
カーテンのすき間から、朝の光が差し込んでいた。
外では小さく鳥の声が聞こえる。
静かな朝だった。
ホテルの部屋のベッドで、阿須賀ひかりはゆっくり目を覚ます。
ひかり
「ん……」
まだ少し眠そうな目で、天井を見る。
(朝だ……)
昨日の出来事が頭の中によみがえる。
夜のバス。
知らない町。
そして、幸山蓮。
ひかりはゆっくり体を起こした。
その時——
隣のベッドを見て、固まった。
ひかり
「……え?」
そこには、まだ眠っている 蓮 がいた。
そして——
上半身だけ裸だった。
布団は少しはだけていて、
パーカーもTシャツもベッドの横に落ちている。
ひかり
「ええっ!?」
思わず小さく声を上げてしまう。
ひかり
(な、なんで!?)
(昨日ちゃんと服着てたよね!?)
顔が一気に赤くなる。
慌てて視線をそらす。
その声で、蓮が少し動いた。
蓮
「ん……」
ゆっくり目を開ける。
まだ寝ぼけた様子で周りを見る。
そして——
自分の状況に気づいた。
蓮
「……あ」
次の瞬間、飛び起きた。
蓮
「ご、ごめん!!」
慌てて床に落ちていたTシャツを掴む。
蓮
「俺、寝相がひどすぎて!」
「上の服だけ脱いじゃうんだよ!!」
慌てながら服を着る。
ひかりはまだ顔を赤くしている。
ひかり
「び、びっくりした…」
蓮
「ほんとごめん!」
蓮は頭を下げた。
蓮
「変な意味じゃないから!」
「本当に寝相のせいなんだ!」
その必死な様子を見て、ひかりは少し黙る。
そして——
ぷっと吹き出した。
ひかり
「ふふっ」
蓮
「え?」
ひかりは笑いながら言う。
ひかり
「そんなに慌てなくてもいいよ」
「ちょっとびっくりしただけ」
蓮
「……」
蓮は少し安心したように息をついた。
ひかりはベッドから降りて、カーテンを開ける。
朝の光が部屋いっぱいに広がった。
窓の外には、青い空。
そして遠くに 海 が見える。
ひかり
「ねぇ蓮くん」
蓮
「ん?」
ひかりは振り向いて、笑った。
ひかり
「外、行こうよ」
「海、見えるよ」
蓮は窓の外を見る。
朝の光の中で輝く海。
蓮
「……いいね」
ひかり
「でしょ?」
二人は顔を見合わせて笑った。
昨日出会ったばかりなのに、
もう少しだけ距離が近くなっていた。
深夜バスで始まった二人の物語は——
まだ、始まったばかりだった。
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