テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「り、っか。わらっ、て、」
精一杯の笑顔を浮かべて、陸華にここ十数年言いたかった言葉を伝える。
「っ!うん!」
私の言葉に陸華は満面の笑みで返してくれた。私が陸華とした初めての会話。一番嬉しかった瞬時。
「お、おい!お前、か、体が透けて、」
典華が何やら焦ったように話す。
そっと自分の足には目を向けてみると、確かに透けてきていた。
「時間、は、ゆう、げん、だ、から、ね」
喉の奥から絞り出すように声を出す。やっぱり、たった数分じゃ体に簡単に順応できないみたいだ。
「矢張り、そうなるか」
愛華が独り言を言っている。
愛華は長いこと生きてるから、沢山の事を知っている。これはたぶんだけど、愛華は昔に、私のようになった者を見たことがあるんだと思う。だから、こんなにも冷静なんだろうな。
「あ、れ?愛理、ちゃん?」
ふと、島の奥の方を見ると、愛理ちゃんが寂しそうにこちらを見つめながら居た。
「お、いで、頭、撫でて、あげ、る」
私がそっと微笑みそう言うと、愛理ちゃんは私の方に寄って来た。
「ありがとう。軍艦島さん」
ニパッと笑い、愛理は静かに成仏していった。
「陸華、最後の、おね、がい」
「なに?」
陸華は涙ながらに返事をする。
もう、完全に足は見えなくなっている。意識も朦朧としていた。やっと、私は死ぬんだと、実感が湧いてきた。
「どうか、この、島の事を、ここで、生きた、人達の事を、忘れないで。皆に、伝え続けて」
私の目からは生温い水が流れている。これが、“泣く”ということなんだ。
此処で、私は意識を手放してしまった。陸華からの返事を聞かないまま。でも、私は信じてる。陸華が私の願いを聞き入れて、語り継いでくれる事を。