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軍艦島の体が消えてから、丸い、小さな光が陸華の周りをクルクルと周り、天に昇って行った。
そんな事を陸華は知る由もなく、「軍艦島さん」と言いながら泣いている。
そういえば、前、陸華は軍艦島に来ると“悲しい声”が聞こえると言っていた。それはきっと、陸華の言う幽霊なんかじゃない。軍艦島の声だ。陸華には声というよりも、“音”というように聞こえたようだがな。
陸華に釣られて典華まで泣き出している。
彼奴は、消えたんじゃない。
ただ、姿形を変え、この世界の一部になる。あるいは、次の生へと還ってゆくだけだ。
長く、苦しい孤独をこの場所で動けずに感じていた。その末についに与えられた最初で最後の肉体。
その命を燃やし、昔からの願いを果たした。何一つとして悔いは残さなかった。
なんと、尊い命だったのだろうか。
何一つとして悲しいことは無い。無いはずなのだ。
だから、私の顔が涙で濡れている気がするのは気の所為なのだ。
別れは何度も経験してきたのだから。
空に飛んで行った光の道筋を見て、私は、号泣し続ける二人の肩にそっと手を置いた。