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夜。
眠る前、なんとなく開いたスマホの通知が、手の中で震えた。
「今日の配信、すごく良かった」「元気もらえた」
コメントのひとつひとつが、温かくて、眩しかった。
ないこ: ……ありがとう。
ほんとに、みんなには感謝してる。
だけどその一方で――
心の中にぽっかりと空いた“穴”は、埋まらないままだった。
ないこ: ……こんな気持ちになるの、僕だけなのかな。
答えのない問いを吐いた直後、
ふと、鏡の方から“気配”がした。
視線を向ける。
そこには、笑う“ないこ”――いや、“闇ないこ”が立っていた。
鏡の中の闇ないこ: いい子ぶるの、そろそろ疲れてきたでしょ?
ないこ: ……僕は、いい子ぶってなんか……
鏡の中の闇ないこ: 嘘。君は、みんなに嫌われたくなくて、
ずっと「いい子の仮面」かぶって生きてる。
誰にも嫌われないように、誰にも拒まれないように――
でも、君の本心は違う。
ないこ: ……やめて。
鏡の中の闇ないこ: やめないよ。だって、僕は――君だから。
その瞬間、鏡の表面がふるふると波打ち、空間が歪んだように感じた。
目の前の“ないこ”が、もうひとりの“ないこ”と入れ替わる。
どちらが現実で、どちらが虚像なのか。境界が、曖昧になっていく。
ないこ: 僕は、僕でしょ……?
鏡の中の闇ないこ: じゃあ、“僕”は誰?
君が鏡の中に閉じ込めた“本当の自分”は、嘘をつくこともできなかった。
泣いて、怒って、嫉妬して――感情を押し殺すことができなかった。
だから、君が「要らない」と言って、僕を閉じ込めたんだ。
ないこ: ……違う。
ないこの目に涙が滲む。
だけど、涙は落ちない。
それすらも“我慢”してしまう癖が、染み付いていた。
鏡の中の闇ないこ: 涙も、笑顔も、本音も。
君は何も出せないまま、今日も「ないこ」を演じるんだね。
ないこ: 僕は、僕は……
ふと、視界が暗転する。
次に目を開けた時、
ないこは、自分がどちらに立っていたのか――分からなくなっていた。
鏡の前なのか、鏡の中なのか。
笑っているのは自分か、それとも――“もうひとりのないこ”か。
次回:「第六話:裏返しの自分」へ続く。