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「いきなり夫とか言われても戸惑うよな。でも本当に僕たちは夫婦なんだよ」


「そうなんですね……ごめんなさい、思い出せなくて。あの、私たちはいつ頃結婚を?」


「ああ、そうだね。説明しないと。まずは自己紹介からだな」


彼は園香に寂しそうに微笑みかける。


「僕は冨貴川瑞貴。年齢は三十二歳。二年前にデザイン関係の会社を立ち上げて、経営はそこそこ上手く行っている。園香とは今から一年前にお見合いして、半年前に結婚したんだ」

「お見合い?」


話の腰を折らないようにと大人しく聞いていた園香だが、思わず声をあげてしまった。


それくらい意外だったのだ。


(私がお見合いをしたなんて、どういう心境の変化?)


一年前の園香は仕事が楽しくて、お見合いどころか結婚にすら興味がなかった。付き合っている相手もいなかった。


「そうだよ。園香のお父さんと僕の父が親しくてね。仕事上でも関係があったので、縁談が決まったんだ」


「……そうなんですか」


自分が父親の言うがまま見合いをしたなんて驚きだ。


(頼み込まれてお見合いをした結果、彼を好きになったのかな?)


「あの……」


「どうかした?」


「ええと、私はあなたのことを何て呼んでましたか?」


「ああ、瑞貴って呼んでたよ」


園香は頷いた。


「分かりました。ではそう呼びますね」


「うん。ついでに敬語もなしでね」


「……分かった」


それから園香は思いついた質問を次々と繰り返した。


瑞貴は嫌な顔をせずに、答えてくれる。


判明したのは、半年前の結婚式は急なこともあり、身内だけで行った。


園香と瑞貴は横浜のマンションで新婚生活中。瑞貴の仕事場はマンションから一時間程の距離。都内のオフィスビルの一室を借りているそうだ。義家族との仲は良好。


「あの、新居の場所は誰が決めたの? 瑞貴の会社からも私の会社からも遠いけど」


園香たちのライフスタイルには、合っていないように感じる。


「ふたりでだよ。それから園香は結婚したときにソラオカ家具店を退職したんだ」


「え……それなら私は今、瑞貴の仕事を手伝っているの?」


自分が仕事を辞めたなんて信じられない。


(出産なら分るけど、結婚で辞めようと思う?)


自分なりに仕事に打ち込み、やりがいを感じていたのに。


「いや、僕の仕事に園香はノータッチだよ。僕がオンとオフをしっかり分けたいタイプだからね。園香は今は家事を頑張ってくれてるよ」


「そうなの? でも起業して二年じゃ人手が足りなくないの?」


「大丈夫。ビジネスパートナーがいるんだ。名木沢さんって言う元同僚で優秀で頼りになる人なんだ」


(起業するときに引き抜いたのかな?)


彼の仕事はデザイン関係だと言っていた。名木沢氏はデザイナーなのだろうか。


他に従業員はいるのか。元々どこの企業に所属していたのか。


園香の父と瑞記の父は仕事上の関係があると言っていた。夫の実家の仕事は、ソラオカ家具店と同業または、提携している?


この短い会話だけでも分からないことだらけだ。でもいちいち問い質していては話が進まない。


いずれゆっくり聞こうと、今は疑問を胸にとどめる。


「信頼出来るパートナーがいるなら安心ね」


園香としては、情報不足のなかで当たり障りのない返事をしただけだが、瑞記はやけに嬉しそうに微笑んだ。


「そうなんだ。名木沢さんは本当に出来た人で、僕にとって必要不可欠な存在なんだ。園香が理解してくれて嬉しいよ」


「……以前の私は、瑞記の仕事に理解がなかったの?」


あれこれうるさく口を出していたとか?


または仕事より家庭を優先させて欲しいと訴えていたとか……自分はそんなタイプではないと思うものの、結婚して考え方が変わった可能性がある。


「うーん……理解がないって程じゃないけど、泊まり込みが続いたときは怒っていたよ」


(私が怒ってた?)


そう言われてもぴんと来ない。


「どれくらい外泊が続いたの?」


「そのときは一週間くらいかな」


「一週間? それは随分忙しいのね」


園香の仕事も時期によっては残業続きという場合もあるが、さすがに何日も家に帰れない、なんてことなはい。


「……そのときの自分の気持ちが分からないから何とも言えないんだけど、私たち新婚半年だったんでしょ? それで外泊が続いたら不満に思っても仕方ないかなとは思う」


今の園香はかなり客観的な視点でいる。それでもさすがに外泊が多過ぎると感じた。


「それ程仕事が忙しいのならオフィスの近くに引っ越ししたらいいんじゃないかな? 私は仕事を辞めて専業主婦なんでしょ? 住まいが変わっても問題ないと思うけど」


通勤に片道一時間は時間のロスだ。そもそも新居選びのときに、なぜそんな遠くを選んだのだろうと、再び疑問が浮かび上がる。


「……そうだね。いずれ転居を考えてもいいかな」


瑞記は口ではそう言いながらも、乗り気でない様子に見えた。


(仕事のことを家族に口出しされるのを嫌がるタイプなのかも)


夫だと言われても彼について何も分からない。


(こんなことでこの先、大丈夫なのかな)


早くも不安がこみ上げてきた。

円満夫婦ではなかったので

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