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昼過ぎの事。

結子は、ベッドの上で大の字に寝転がっていた。今の結子は、珍しい事に真顔であった。

「暇だ…………」

せっかく整えた髪は、仰向けになったせいでボサボサに逆戻りしてしまっている。いや、元からボサボサだったのだが、寝起きの時のようなボサボサ(EX)のような感じに戻ってしまっている。結子のこの髪は、ちょっとやそっとでは直らないらしい。

「何しよう…………」

結子は頭をフル回転させて暇つぶしの方法を模索した。が、元がバカなので、今の状況を好転させる様な素晴らしいアイデアが思い浮かばなかった。

窓や扉を開け閉めしてみた。母にうるさいと言われたのでやめた。次に結子は自室を見回してみた。縫いぐるみ、縄跳び、ボール、段ボール、電池の切れた玩具、漫画…………様々な物があるが、どれも今は全くと言ってもいいほどにやる気が湧いてこない。

「そうだ‼」

急に結子は思い出したかのように叫び、ベッドから起き上がった。

すると、パーカーのポケットからスマホを取り出した。先ほどうつ伏せになっていた時確実に踏んでいただろう位置だが、精密機械だというのにそんなあまりにも雑過ぎる扱いで果たして良いのだろうか。

「スマホで調べれば良いんだ!」

何故その方法が早く出てこなかったのだろうか。が、結子は自らを天才だと思い込んでいる可哀想な人間なので、その考えは浮かばなかった。

「ええと……「暇つぶし 方法」検索ッ!私が天才過ぎてヤバい!」

稚拙な手付きで、調べ物をする結子。その姿は、自分のスマホを買ってもらいはしゃぐ小学生の様だった。

そうこうしている内に結果が出て来て、結子は馬鹿正直に候補の一番上に出て来た物をタップした。

「なになに?…読書ォ?今その気分じゃないんだよなぁ…」

室内を見ても、本は2冊ほどしか無い。内一つは読み尽くした漫画で、もう一つは結子が少し背伸びをして買った哲学の難しい本である。結子は、時間を掛けたが開いて3行目ほどで読破を諦めた。まあ、結子にしては持ち堪えた方である。

「アプリゲーム…無いぃぃ…」

結子のスマホの画面はすっからかんである。

「パズル…あった!」

結子はパズルをやってみる事にしたらしい。意気揚々と説明書を箱から取り出している。このパズルは完成するとハンバーグの写真ができるらしい。結子にピッタリだ。

「ええと……ちいさいおこさまの、ての……………?

何という事だろう。結子は漢字の学力は小学3年生レベルで止まっていた。説明書が読めていない。

「………うがー!もう作っちゃうもんねー!」

結子は袋をひっくり返し、パーツを一気に出した。床にこんもりとパーツが溜まっていく。終わる頃には既にパーツは山の様になっていた。

「ようし!」

袖を捲り、結子はパズルに取り組み始めた。



「何で終わらないのぉー‼」

パズルを始め6時間が経過した。もう暇つぶしどころではない。文字通り日が暮れてしまった。だが、パズルを見るとまだ半分も出来ていない。精々が3分の1ほどである。あの結子が碌なおやつも食べず頑張ったと言うのに。

結子はここまで来たならばと意地になっている様だ。真面目にパズルに取り組んでいる。

「んんむ……ここはへこんでるから……これが嵌る!」

「ここにこれをinッと……」

真剣な表情でパズルを着々と完成へと近付けていく結子。1つ嵌める毎にIQも上がっていっていそうだ。パズルはもうあと数個という所まで来ている。ハンバーグにはケチャップが掛かっていた様だ。

「これでこうすると…よしッ!」

あと3個。

「ここには…これは嵌らないから…これか!」

あと2個。

「これを嵌めて………」

あと1個。

「…………これで………………」

「完成だーー‼‼」

結子が勝利の喜びを叫びながら最後のピースを嵌めようとしたその時。

開けっ放しだった窓から突然強風が吹いた。強風は結子の努力の結晶をバラバラにした後、空気中に散って消えた。

「………………………………………………。」

結子は状況を理解出来ず、手に持った儘のパーツとバラバラに散ったハンバーグだった物を頭上に?を浮かべながら見比べていた。

いや、理解したくなかったと言うのが正しいか。理性がそれを認めても、心は理解を拒んでいる。が、5分も続けていると、否が応でも認めざるを得なくなってくる。

「うぁ……………………」

結子の瞳が、水に潤んだ。あ、と思った瞬間にはもう遅く。

「うああああああああぁぁぁぁッッ‼」

大粒の涙が次々と零れ、肌を伝い床へ流れ落ちていく。恥も外聞もなく大声で泣き叫んでいる。声を聞きつけた母が血相を変えて一階から駆け上がって来た。

「どうしたの⁉………?………………ああ……」

最初は慌てていた母も、開けっ放しになった窓とバラバラに散らばったパズルを見て段々と状況などを理解出来て来た様だ。

「おがあざんん~ばずるがぁぁ~ばずるがああぁぁぁ~」

「分かったわ、分かったから」

「うああああ~」

結子は母の体にぐりぐりと涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を押し付けた。鼻声で酷い声になっている。母は結子を宥めながらエプロンで顔を拭った。

「ううううッ」

「よしよし」

母は結子の頭を雑に撫で、雑に抱えて一階へと降りて行った。子供とは言え人一人抱えているためか歩き難そうだ。下りていくと何やら匂いがした。結子の食べられる物限定の優秀な鼻がそれを捉えた。小さな鼻がひくっと震える。

「お、おおおお母さんんんん今日のご飯はははっはっはははあはぁ」

「落ち着きなさい、犬みたいになってるわよ」

「だだだだだだだってててってててこれッてててて」

「はいはい、今日のご飯ね……」

雑な返事と同時に母はリビングの扉を開いた。結子は驚き過ぎて涙は何処かに蒸発していた。

「焼肉ハンバーグ丼よ……………なによ、悪いの?偶には私も重い物だって食べたくな…」

母が結子を見下ろすと、結子は安らかな顔で永遠の眠りに着きかけていた。

「ゆ、結子ォーーー‼死ぬにはまだ早いわあああああ!」

その夜、住宅街にはある一人の女性の絶叫が響いたという。

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