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翌日。
渡辺はスマートフォンを手に取り、一人ずつ個人チャットを開いていった。
最初は目黒。
『今日の夜、時間ある?相談したいことがある。』
次は岩本。
『照、今日の夜来られる?大事な話。』
深澤。
『ふっか、夜集合。』
佐久間。
『佐久間、夜来て。』
最後に宮舘にはリビングから声を掛けた。
「涼太。」
「今日、みんな来るから。」
宮舘は静かに頷いた。
「分かった。」
渡辺の表情を見て、それが軽い話ではないことを察していた。
___________
その日の夜。
宮舘と渡辺の家。
リビングには六人が集まっていた。
テーブルの上には温かいお茶が並んでいる。
静かな空気が流れていた。
渡辺がゆっくり口を開く。
「昨日。」
「あべちゃんと二人で雑誌の撮影だった。」
目黒は真剣な表情で頷く。
「休憩中から少し違和感があった。」
「勘だけだったけど。」
「撮影中。」
「カメラのフラッシュを見た瞬間。」
「あべちゃんが一瞬ふらついた。」
目黒の表情が変わる。
渡辺はそのまま続けた。
「撮影が終わって帰ろうとしたあべちゃんを止めたら。」
「呼吸が乱れた。」
部屋が静まり返る。
「少し落ち着いてから話してくれた。」
「映画の役がまだ抜けきってないこと。」
「フラッシュを見ると撮影を思い出すこと。」
「……。」
「そして。」
「目黒には心配を掛けたくないから言わないって。」
目黒は何も言えなかった。
ただ静かに俯く。
しばらく沈黙が続いたあと、目黒が小さく口を開いた。
「やっぱり。」
全員が目黒を見る。
「あべちゃん。」
「戻ってきてる。」
「昔の。」
「頑固で。」
「一人で全部抱え込むあべちゃんに。」
岩本が静かに頷いた。
「俺もそう思う。」
佐久間は苦笑する。
「懐かしいな。」
「昔からそうだった。」
深澤も笑いながら頷く。
「『大丈夫』って言う時ほど大丈夫じゃない。」
宮舘が静かに言葉を添える。
「人に迷惑を掛けるくらいなら、自分一人で抱える。」
渡辺も頷いた。
「昨日もそうだった。」
「最後まで隠そうとしてた。」
目黒は全員の話を真剣に聞いていた。
すると岩本がソファへ深く座り直す。
「今から勉強な。」
「はい。」
「阿部が何か隠してる時の癖。」
岩本は指を一本立てた。
「まず。」
「笑顔が少しだけ優しくなる。」
佐久間が続ける。
「あと。」
「話題を変えるのが上手くなる。」
深澤は笑う。
「質問すると。」
「『大丈夫。』が増える。」
宮舘は静かに付け加えた。
「本当に苦しい時ほど。」
「自分から人を心配する。」
渡辺も頷いた。
「昨日も俺の体調を気にしてきた。」
目黒は一つひとつ頷きながら頭へ刻み込んでいく。
「知らなかった。」
岩本は笑った。
「俺らは。」
「康二、ラウ、お前が入る前から一緒だったからな。」
「昔の阿部をいっぱい見てきた。」
佐久間も笑う。
「あべちゃんの取扱説明書なら任せろ。」
ようやく少しだけ部屋に笑いが戻る。
目黒も苦笑した。
「もっと早く聞けばよかった。」
「いや。」
渡辺が首を横に振る。
「今知れたんだから十分。」
その時、岩本が何かを思いついたように言った。
「なあ。」
「一週間くらい休み取れないか?」
目黒が顔を上げる。
「休み?」
「旅行行ってこい。」
深澤も賛成する。
「賛成。」
「環境変えた方がいい。」
佐久間も頷く。
「映画のこと忘れられるくらい。」
「いっぱい笑ってこい。」
宮舘は穏やかに微笑む。
「阿部には。」
「何もしない時間も必要だ。」
渡辺は目黒を見る。
「旅行中くらい。」
「勉強禁止。」
「仕事の話も禁止。」
「あべちゃんが笑うことだけ考えてこい。」
目黒はしばらく黙っていた。
やがて、小さく笑う。
「ありがとう。」
「みんな。」
「今度は。」
「俺がちゃんと、あべちゃんを休ませる。」
岩本は満足そうに頷いた。
「それでいい。」
六人は温かいお茶を飲みながら、この旅行で阿部が少しでも心から笑えるようにと、真剣に考え始めるのだった。
___________
翌日。
目黒は仕事の合間を縫って、マネージャーへ相談していた。
「少しご相談があるんですが。」
「どうした?」
「一週間ほど休みをいただけませんか。」
マネージャーはスケジュール表を開く。
しばらく画面を見つめたあと、小さく頷いた。
「ちょうど二週間後なら、二人とも大きな仕事が落ち着いてるな。」
「本当ですか?」
「うん。」
「行っておいで。」
「ありがとうございます。」
あまりにもあっさり了承され、目黒は少し驚いていた。
マネージャーは笑いながら続ける。
「楽しんでおいで。」
目黒は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
___________
その日の夜。
夕食を食べ終え、二人はリビングのソファで並んで座っていた。
「ねぇ、あべちゃん。」
「ん?」
目黒は少し嬉しそうな表情を浮かべる。
「二週間後。」
「一週間、仕事休みになった。」
阿部は目を丸くした。
「えっ、本当に?」
「うん。」
「それでね。」
「沖縄行かない?」
「五泊六日。」
阿部は一瞬ぽかんとしたあと、ぱっと笑顔になった。
「沖縄!」
「行きたい!」
目黒はその笑顔を見て、心の中でほっとする。
「旅行のプラン。」
目黒はテーブルへ一冊のガイドブックを置く。
「あべちゃんが考えて。」
「え?」
「全部。」
「好きなところ行こう。」
「めめは?」
「俺は。」
「あべちゃんが楽しそうなら、それで十分。」
阿部は少し照れながら笑った。
「じゃあ。」
「本気で考えちゃうよ?」
「もちろん。」
その日から、阿部は毎日楽しそうだった。
ガイドブックを読み。
スマートフォンで調べ。
ノートへ予定を書き込んでいく。
「めめ!」
ある日の夜、ノートを抱えてリビングへやって来る。
「見て!」
「一日目はね。」
「クイズ番組で紹介されてた場所に行きたい!」
「いいね。」
目黒は嬉しそうに頷く。
「二日目は?」
「デートっぽいことしたい。」
「水族館とか。」
「海辺を歩いたり。」
「カフェも行きたい。」
「うん。」
「全部行こう。」
阿部はさらにページをめくる。
「三日目は。」
「お仕事で沖縄に行った時の場所。」
「もう一回行きたい。」
「あの時は忙しくて。」
「全然ゆっくり見られなかったから。」
目黒は優しく微笑む。
「リベンジだね。」
「うん!」
阿部はまるで旅行を初めて計画する学生のように目を輝かせていた。
「四日目は市場!」
「五日目はお土産!」
「最終日は飛行機まで海見たい!」
話せば話すほど笑顔が増えていく。
目黒はその様子を見ながら思う。
(よかった。)
(こんな笑顔が見たかった。)
みんなが言っていた。
「阿部が笑える旅行にしてこい。」
その言葉は間違っていなかった。
旅行を計画しているだけで、阿部は少しずつ元気を取り戻している。
目黒はそのことが何より嬉しかった。
___________
そして二週間後。
二人は搭乗口へ向かう。
「忘れ物ない?」
「うん!」
阿部は笑顔で頷く。
「めめ。」
「ありがとう。」
「こんなに長い旅行、久しぶり。」
目黒は阿部の荷物を持ちながら笑った。
「いっぱい思い出作ろう。」
「うん。」
「五泊六日。」
「全部楽しもう。」
やがて搭乗案内が始まる。
二人は並んで飛行機へ乗り込んだ。
青い空の向こうには、エメラルドグリーンの海が待っている。
この旅が、阿部にとっても、目黒にとっても、心から笑える六日間になることを願いながら――飛行機はゆっくりと沖縄へ向かって飛び立った。
コメント
1件
第5話、読み終えました…!もう、6人のチームの絆が本当に温かくて、胸がぎゅっとなりました。特に阿部ちゃんの癖をみんなで共有するシーン、あれは長年の信頼と愛がないとできないですよね。一人で抱え込む阿部ちゃんに、目黒くんがどう向き合うか、これからもすごく気になります。そして沖縄旅行の計画で嬉しそうな阿部ちゃん、見ててこっちまで笑顔になりました。素敵な話をありがとうございます!
kaede🍁
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