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「失礼します」
「アレン、待ってたよ。とりあえず座って欲しい」
自室から父上の執務室に向かった。
ノックして入るとソファーに腰掛ける父上とその後ろで控えるシンがいた。
テーブルを挟んで父上の向かいに座るように促されたので座った。
机上には一通の手紙が置かれていた。
「アレン、まずはこれを読んで欲しい」
「……はい」
父上から手渡された手紙を見る。
王印の封蝋がされており、開けるときは細心の注意を払うように言われたので慎重に封筒を開けていく。
手紙を封筒から取り出し、中身を確認する。
「……招待状ですか?」
「そう、ついにアレンも貴族デビューをすることになったんだよ」
父上は嬉しそうにしていた。
手紙の内容はお披露目会の招待状であった。
お披露目会は貴族の初めての義務であり、10歳の貴族の子息子女を祝う場でもあるのだ。
基本グラディオン王国は10歳までに基礎となる教養を身につける。
しっかりと基礎を身につけてからお披露目会から、お茶会、各家のパーティーに出席する。
「一週間後、出発するから準備をしておいて欲しい」
「わかりました」
僕はそう返事し、執務室を出た。
ああ、浮かれてしまう。ついに貴族としてデビュー。
お披露目会で気が合う子と婚約したいなぁ。
想像しただけで楽しみだ。
乙女ゲームではアレイシアと婚約していたが、別にシナリオ通りに過ごす必要はない。
さぁ、初めての王都。ウェルに相談して早速準備に取り掛かろう。
『……最近、アレンが素っ気ない気がするよ。これはあれか……反抗期というものだろうか?』
『いえ、それは違うかと思います』
あ、浮かれすぎて急いで部屋を出てしまった。
父上って本当に僕のいる前だと威厳がある姿を見せようとする。
そこまで心配しなくても僕に反抗期はありませんよ。
そんなの前世で終わってます。
今度かまってあげようかな。
でも、今は行動方針を固めなくては。とりあえず自室に行こうか。
「期間的にお披露目会の一週間前に着く予定か」
自室に戻り予定を確認する。
お披露目会まで一週間、やりたいことを見つける。
そういえば僕は市井に行ったことがない。
王都は広いだろうし、試しておきたいことがある。
僕の耳の良さについてだ。
今では屋敷内では慣れたものだ。
耳に入ってきた内容もどこから聞こえてくるのか、どのくらいの距離があるのかだいたいわかるものになった。
それが人が多くいる市街だとどうなるのか気になる。
「ウェル、王都に着いたら散策したいから名物とか調べておいてもらえる?」
「わかりました。……それにしてもまた食べ物ですか。少しは名所を見たりしたらどうです?」
「いいよ。散策の目的はあくまで食べること。王都には美味しいものたくさんあるって母上言ってたし」
「お披露目会前に食べることしか考えないとは相変わらずですね。普通の子供ならお披露目会を前にして緊張して所作の確認をしていると思いますが」
そうため息つかなくてもいいじゃないかウェル。もう僕の行動に突っ込んでいたら疲れるだけだというのに。
まぁ、わからなくもない。
訓練していたとしても10歳の子供にしたら緊張するか。
「ちゃんと失敗せずにこなすから大丈夫だよ。適当に時間潰してお披露目会を終わらせてやるさ」
「そんなこと言って……やらかしても知りませんからね」
「だから、気にしすぎだって。心配性なのは相変わらずだね」
心配性なのはわかるけど、楽しめるとこに楽しむのが子供だ。
大人になったら自由がなくなるし。
子供のうちにできることをするべきだろう。
その後も小言を少し言われたが、ちゃんと調べてくれることになった。
『何もなければいいけど。ま、アレン様なら大丈夫か』
聞こえてるんだよなぁ。
ウェルは僕の部屋を出るとそう呟いていた。
心配性のウェルの気遣いはとてもありがたい。
僕が失念しているところを指摘してくれるから助かっている。
だが、最近毒舌になってきている。僕本人がいないところで話しているのと、僕自身を毛嫌いしているわけではないので気にしないが。