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「奈美ちゃん、お先に。お疲れ〜」
「お疲れ。また明日ね」
奈美は、片付けをしながら同僚と挨拶を交わす。
濃紺の作業着に、ざっとエアを掛け、作業場からロッカールームに行くと、一つに束ねていた髪を下ろし、丁寧にとかした。
彼女の職場は、立川の広大な工業地帯の一角にある工場。
プリンターで使用する、インクトナーカートリッジの製造に携わっている。
主に検査の仕事をしているけど、最近では、機械を使った充填作業にも従事するようになった。
充填の仕事をすると、作業着が意外と汚れるから萎えるけど、製造の仕事は楽しいし、黙々と作業ができるので好きだったりする。
肩までストレートの濃茶の髪は、少し傷みつつあった。
(もしかしたら、トナーが舞ってるから? いい加減髪をカットしないとヤバいかも……)
パサついた髪を見ながら大きくため息をつき、タイムカードを切って会社を出ようとした時、上司の谷岡 純に声を掛けられた。
「高村さん。退社時に申し訳ないんだけど、ちょっといいかな?」
「谷岡さん、お疲れ様です」
軽く会釈をすると、谷岡は微苦笑を浮かべていた。
「急で悪いんだけど、明日、一時間ほど残業できる?」
(うわぁ……残業要請来たよ……)
奈美の顔が、怪訝な雰囲気を滲ませていたのか、谷岡は、腫れ物に触るように様子を伺う。
「検査の仕事なんだけど、大丈夫かな?」
「数はどれくらいですか?」
「百個だから、高村さんなら一時間で行けると思うんだけど、先方の向陽商会から急ぎで百個、月曜日の午前中必着で発送するよう言われてさ」
機種にもよるけど、検査なら一時間で終わる。
何より、フリーターの彼女は、少しでも稼げるのならばそれでいい。
上司の指示に従って、仕事をすればいい事だ。
「わかりました。明日、残業します」
「いやぁ有難い! では明日、よろしくお願いします」
「はい。お疲れ様でした」
再度一礼し、ようやく退社した奈美は、足早に駅へ向かった。