テラーノベル
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「翔、今日部活ねぇし、みんなでカラオケ行こーぜ!」
「え、あー…カラオケか。どうすっかなぁ……」
放課後の教室。
机に腰掛けたクラスの男子たちに囲まれながら
俺はカバンに教科書を詰めつつ、適当に生返事を返していた。
本当は、今日は直哉と図書室に寄って一緒に帰る約束をしていた。
けれど、高校生には高校生なりの友人付き合いというものがある。
たまにはこいつらとバカ騒ぎするのも悪くないか、なんて考えていた。
「相川って本当に付き合い良いよな」
「ノリ最高だし、お前が来ないと盛り上がらねぇんだよ」
「別に普通だろ。んじゃ、駅前のあそこ行くか?」
笑いながら予定を決めようとした、まさにその時だった。
「兄さん」
背後から、低く、鼓膜に嫌というほど馴染んだ声が響いた。
反射的に振り返ると、そこには1年の教室から上がってきた直哉が立っていた。
いつもなら遠くからでも「兄さん!」と手を振って駆け寄ってくるはずのあいつが
今はただ、ポケットに両手を入れたまま微動だにせず、俺たちを見つめている。
無表情。
いや、違う。
俺には一目で分かった。
前髪の隙間から覗く切れ長の瞳が、完全に据わっている。
あいつが激しく嫉妬し、不機嫌になっている時の顔だ。
「あ、直哉。悪い、今日さ────」
「……誰と帰るの?」
ドスの効いた、地を這うような低い声。
その一言だけで、それまで騒がしかった俺の周りの空気がピキッと音を立てて凍りつくのが分かった。
「え? いや、カラオケでも行こうかって話になって……」
「ふーん」
絶対に見るからに納得していない。
俺の周りにいた友達たちも、直哉の放つ尋常じゃない威圧感に
「お、おう……なんか、すごいの来たな……」と完全に気まずそうな顔をして一歩引いている。
すると直哉は、周囲の目も気にせず、俺の右腕を大きな手でガシッと掴んだ。
「兄さん、帰ろ。約束してたよね」
「おい、離せよ。今日は無理だって」
「なんで」
「だから、カラオケ行くって約束今したんだよ」
「……へぇ。兄さんは、俺との約束より、そいつらを優先するんだ」
「は?」
あまりにも傲慢で、こちらの事情を無視した言い方に、俺の胸の奥でカチンと何かが弾けた。
「別に普通だろ。四六時中、お前と一緒にいるわけじゃねぇんだからな。たまには友達と遊ぶ時間くらい寄こせよ」
「……」
直哉は言葉を失ったように黙り込んだ。
けれど、俺の腕を掴むその指先だけは
ミシミシと音がしそうなほどの力で締め付けられたまま、絶対に離そうとしない。
「兄さん、最近俺といる時より、友達と教室で笑ってる時の方が楽しそう。……俺といるの、もう飽きた?」
その一言が放たれた瞬間、教室の時が完全に止まった。
いや、重っっっっっっっっ!!
愛の質量がブラックホール並みに重すぎるだろ!!
周囲の友達たちも、流石に兄弟の会話の範疇を超えたガチすぎる独占欲の台詞に
完全に目を泳がせて冷や汗を流している。
「いやいや田口くん!? 別に俺たち、相川を奪うつもりとか全然ないから!」
「あ、思い出した、俺今日塾だったわ! 翔、またな、じゃあな!」
生命の危機を感じたクラスメイトたちは
秒スピードで荷物をまとめて教室から逃げ出していった。
最悪だ。
取り残された静かな教室で、俺は腕を掴まれたまま、直哉をキッと睨みつけた。
「お前さぁ……!いい加減にしろよ、何なんだよその態度は!」
「……兄さんが悪い。俺との約束を、そんな風に簡単に後回しにするんだから」
「一回くらい普通だろ!お前だって友達と遊ぶことくらいあるだろ!」
すると直哉は、掴んでいた腕の力を少しだけ緩め、ひどく寂しげに長い睫毛を伏せた。
「俺は、兄さんと『普通』の兄弟になるなんて、絶対に嫌なのに」
「……っ」
夕陽を浴びて、今にも泣き出しそうな、捨てられた仔犬のような顔をする。
ズルい。
いつもならその顔に免じて許してしまっていたかもしれない。
だけど、友達を追い払われた怒りとイラつきが、今の俺の理性を完全に上回っていた。
「お前、本当に……最近、重いんだよ!!」
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