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芙月みひろ
280
#普通
野々さくら
57
#女主人公
「……婚約の噂がありながら、音楽家岩崎男爵の子息とも親密な関係か」
二代目が新聞を読み上げる。
「なんだよ?!これ!なんで俺のことがでてるんだよっ?!」
京太郎が叫ぶ。
「岩崎の名前まで出るとは……」
中村は驚きを隠せない。
あっ、と京太郎が声をあげた。
「あいつだ!秋山だ!」
その一声に咲子も息を呑む。
「わ、私があの時……坊っちゃんの事を言ったから……まさか……そんな……」
「そうとしか考えられねぇ……」
京太郎は、中村と二代目に活動写真館の前で秋山とかちあった時の話をした。勢いで咲子が、京太郎の身分を明かしたことを。
「……なるほどな。確かに偶然とは思えない」
中村も頷く。
「けっ!だからって、ここまでありもしないこと書き立てるかねえ!」
二代目が怒りをあらわにしている。
「それだけお咲に執着してるってことだろうな」
中村が眉をひそめる。
「あー、可愛さ余って憎さ百倍というやつか」
二代目が、妙に納得しつつ、新聞を握りしめた。
「……つまり腹いせってことなのか?!器小さいだろっ!」
「まあそうだが、京太郎。そこがまた、分からないところだ。秋山男爵の本当の目的はなんなのか……」
お咲を貶めて、岩崎の名前まで出して何がしたいのかと中村は京太郎へ言った。
「そんなの、お咲に断られて腹が立ったからだろ」
「確かにそうだが……それで何が解決する?これは、ただの嫌がらせじゃない気がするんだ」
中村は、仮に秋山男爵の仕業なら何故ここまで手の混んだことをするのかと首をひねった。
「だよなあ。新聞に記事書かせるなんてぇことしなくても、お咲を取り戻しにくればいい話じゃねぇか」
二代目も、不思議そうに言った。
「そこだよ……まるで真綿で首を締めるように追い込んで来た……」
秋山男爵が、どうでてくるのかと、中村と二代目は考え込む。
「わかった。俺がお咲を守る……。危ない目には合わせねえ!それに俺のことまで出されたんだ。売られた喧嘩は買うしかねぇだろ!」
「京太郎!待て。まだ秋山男爵の仕業とは決まってないだろがっ!」
「中村のおっさん!どうだっていいんだよ!俺は卑怯なことする奴が許せねぇんだ!」
「まあ、京太郎落ち着け。中村の兄さんも!」
二代目が中に割って入る。
それをじっと咲子は見ていた。面持ちは硬い。
「……私のせいです!私がお断りしたからっ!皆さんに迷惑をかけて……」
そこまで言って咲子は、わっと泣き出した。
「お咲、泣くな。お前が悪いんじゃねえよ。悪いのは秋山だ!」
「いや、秋山男爵の仕業と決めつけるはまだ早いだろ?」
中村が、ひたすら咲子と京太郎を落ち着かせようとする。しかし咲子は泣き止まず京太郎も怒りが収まる様子には見えなかった。
そして、その夜──。
岩崎邸には、沈痛な面持ちの中村がいた。
「岩崎、すまん。お前の名前まで出てしまった」
岩崎は、無言のまま問題の新聞に目を通している。
「……中村さん。ひとまずお茶を……」
月子が、茶を差し出し場を落ち着かせようとする。
「……私は構わんが……お咲は大丈夫なのか?」
岩崎の問に中村は、黙って首を降った。
「京介さん。お咲ちゃん、お部屋に閉じこもったきりで……」
月子が、そっと言った。中村も、ふうと息をつき、悔しげに言う。
「……お咲は明日から公演が始まる。そのタイミングで当ててくるのもなんだかできすぎてるんだ。だから、秋山男爵の仕業としか言いようがないんだが……」
「つまり、秋山男爵が、腹いせに新聞社へ手を回したと?」
岩崎へ中村は頷いた。
「ただ、証拠がない。だからこっちも動くに動けないんだよ。それに、正直、この記事がお咲の公演にどれだけ影響するかも読めないしな」
初めての醜聞《スキャンダル》。しかも、男絡みとくれば、贔屓も黙ってはないだろうと言う中村は、支配人の顔になっていた。
「様子を見るしかないのか……」
岩崎もどこか戸惑いを隠せない。
「……どうすりゃいいんだよ……」
中村が力なく言った。
コメント
1件
第9話読んだわ。 スキャンダル記事で咲子が追い詰められて部屋に閉じこもっちゃうのが辛すぎた…「私のせいです」って泣く咲子にこっちまで胸が痛くなったよ。 でも、中村が「秋山の目的は単なる腹いせじゃない気がする」って冷静に分析してたのが気になるわ。証拠がなくて動けないもどかしさ、めっちゃ伝わってきた。京太郎の「売られた喧嘩は買う」って姿勢は熱いけど、暴走しないでほしいな…岩崎がどう動くかも見ものだね🔥 続きめっちゃ気になるわ!