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悪役令嬢に私はなる!

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悪役令嬢に私はなる!

18 - 第18話、休日はお出かけしましょう

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2025年01月10日

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メアリーへのフラグをへし折り、私へとその意識を向けさせる。気をもたせて、結局は付き合わないわけだから、ひどい女よね。

さて、ケーニライヒ王都学校も週末となればお休みである。外出申請を出せば、日中は王都にお出かけもできる。

そんなわけで、私はメアリーと共に王都へお出かけする。さすがにドレスだと目立つから、王都住民と同じくこざっぱりとした服に着替えてる。

メアリーはいつも通りね。でも新しい服を何着か買ってあげようとも思っている。


「王都は活気がありますね」

「この国で一番人が多いからね」


市場は賑わい、雑多な人々が行き交う。庶民、商人、警邏中の兵士もいれば、傭兵――いえ冒険者の姿もある。僧侶や肉体労働者、ちらほらと走り回る子供も視界を何度かよぎった。


「表通りは明るくて清潔だけど、スラムもあるから、間違っても裏通りに迷い込んだらダメよ? 怖い人が乱暴したり、捕まえて奴隷商人に売り飛ばすなんてこともあるんだから」

「怖いですね……」


中身が日本育ちだと、中々実感がわかないだろうけれどね。

人が限られる小さな集落なら、皆顔見知りだからそういうことはあまりないらしいけれど、人が多い都会だと、本当に誘拐とかあるから油断できない。


じゃあ田舎が安全かというとそんなこともない。モンスターの発生や、盗賊の襲撃。村を焼き払われて、女子供は奴隷に、なんてこともある。

と、注意をしつつ、私たちは市場を抜けた。


「じゃあ、そろそろ本番よ」


私がメアリーを見れば、彼女はコクリと頷いた。

今日は何の日? 『赤毛の聖女』で言うなれば休日、そしてメイン攻略対象との王都デートの日、である。

ここで現れる攻略対象男子は、現時点でメアリーへの好感度が一番高い者となる。フラグの立っていたレヒトとメランは私が妨害したから、今の段階ではヴァイス王子が断トツのはずである。


「それじゃあ、デート、頑張ってね」


私は手を合わせて笑顔を向ける。メアリーは表情が強ばっている。


「……はい」

「ほらほら、そんなに緊張しないの。王子とはここ最近会っているから慣れたものでしょう?」

「でも、デ、デートとなると……その、ゲームのようには」


乙女ゲームの世界のようで、ゲームではない。どういう展開になるか、ある程度わかってはいても、いざその時にそのように行動できるかどうかは別である。


「大丈夫。デートは王子のほうがエスコートしてくれるから」


私はメアリーの肩に手を当てて、軽く揉んであげる。


「……これは、ちょっと凝ってますねぇ。りらーっくす」

「アイリス様ぁ」


表情が少し柔らかくなったようだ。ポンと肩を叩いて、彼女を送り出す。


「はい、じゃあ、頑張ってー」

「はい!」


笑顔でメアリーを見送る。そこで近くの路地に少しだけ入って、収納魔法から帽子とマントを取り出す。

ただデートイベントなら、メアリーひとりを送り出せば済む。にもかかわらず、私がここにいるのは、メアリーとヴァイスのデートを見守るためだ。

野次馬? それで済むならいいわ。何も面倒が起きないのが一番なのだから。

帽子を被り、マントを羽織って旅人っぽく演出。さあ、尾行を開始するわよ!






町の噴水広場で、メアリーは変装したヴァイス王子と『偶然』出会う。なお私を含めて、当事者たちもこれが偶然だと誰ひとり思っていない。

王子はメアリーが王都に出掛けると事前に知っていて、彼女と会えるように外出申請を出したりしたし、メアリーは私とゲーム知識で王子が現れるのを知っているのだ。


『やあ、偶然だね』

『そうですね。まさか殿下が、王都にいらっしゃるなんて――』


二人が話しているのを見ながら、私はふたりの口の動きから勝手にアテレコする。聞こえない位置にいるからね。


『お忍びなんだ。……ここでは殿下と呼ばないでほしい。メアリー』

『あ、はい。……ヴァイス、様』

『様はいらないよ』


木陰から、二人の様子を眺める私。いったい何を見せられているのか。

ふと、背後に気配を感じた。


「動くな」


低い男の声がした。威圧を込めているようだが殺意はない。


「はーい、お仕事ご苦労様、アッシュ君」

「……なんでわかるんだ?」


背後の男――アッシュは呆れたような声を出した。私は、王子とメアリーを注視したまま言う。


「王子様がひとりでお忍びで王都散策なんて、できるわけないものね。護衛がついていることくらいわかっているわ。違う?」

「それはそうだが……そういう意味じゃなくて」

「なに? 私が驚かせようとして驚いてくれなかったから拗ねてるの?」


そこでようやく振り返る。庶民というには綺麗な服をまとうアッシュ。育ちが良さそう、というか、貴族か騎士の息子って感じ。実際、帯剣しているし。


「拗ねてなんか……ないさ」

「そういうことにしておくわ」


フフンと鼻で笑うのは勘弁してあげるわ。


「そういう君は、そんな格好で何をしているんだ?」

「野次馬よ。見てわかるでしょう?」

「王子とメアリーのか?」


アッシュは私の後ろから、噴水広場の二人の様子を覗き見る。


「侯爵令嬢がお忍びで野次馬か。暇だねぇ」

「そういうあなたはせっかくの休みが潰れて、お気の毒様」


意地悪の虫がうずく。


「仕方ないから、私が付き合ってあげるわ」

「そいつは光栄」


そこでアッシュは真顔になった。


「でも不思議なものだ」

「何が?」

「だって君は王子の婚約者だろう? それが町で出会うのが君じゃなくて、メアリーだっていう」

「そうね。婚約者が恋人を放って別の女と会っている現場ね」

「平気なのか?」

「修羅場をご希望?」

「いや、やめてくれ。でも、君にはそうする権利はあるが」


フィアンセですものね。普通なら、この泥棒猫!って怒鳴り込んでもおかしくないかもしれない。


「しないわよ。そんな野暮なこと」


視界の中で、ヴァイスとメアリーが動いた。


「さ、追うわよ」

「本当、君ってわからないな」


苦笑するアッシュ。私は笑った。


「あなたの憂鬱な護衛のお時間に花を添えてあげてるのよ。感謝しなさい」

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