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ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
⚠途中重いです。
⚠フィクションです。
過去の話
無事に中間テストが終わり、普段の生活が戻ってきた。朝と昼休みと放課後は保育ルームで過ごす竜一。そこに時々咲茉と隼が加わる。更に時々まりあや雪、朋也とそれを見張る中吉も顔を出す。
6月の終わりから七夕の準備を進めている保育ルーム。兎田が知り合いから笹を譲ってもらい、みんなで作った飾りをぶら下げ、後はお願い事を書いた短冊を着けるのみだ。
7月に入った。ある日の昼休み。
「そういえば、エマちゃんのお誕生日って7月7日なんだよね?」
『あっ、…うん』
「七夕なのね」
「覚えやすくていーじゃん」
雪とまりあと咲茉の会話に兎田も加わる。
「お誕生日プレゼント、何が欲しい?」
『えっ…と…』
「わ…、私も何かプレゼントしたいわ」
『…うーん……』
欲しいものを聞かれ、咲茉が考える。
『……何が欲しいか分かんないかも』
「えーっ」
「そう……」
「エマちゃんもっと欲出してこ」
『うーん……。…欲しいもの浮かばないし、いつも通り普通に過ごせたらいいかな。その日は平日だから学校あるし』
咲茉の答えにまりあと雪が少し寂しそうに眉を下げた。
「んじゃ、短冊に“エマちゃんが幸せな誕生日を過ごせますように”って書いとくわ」
そう言って兎田が何枚目かの短冊を手に取った。
「兎田さん……」
途中からやり取りを聞いていた竜一が感動したような視線を兎田に送っていた。
その日の放課後。
「エマちゃん、ほんとに欲しいものないの?お兄さんが何でも買ってあげるよ?」
追加でぶら下げる七夕飾りを作っていた咲茉に、兎田が声を掛ける。
「うしゃいだなんでもかってくれんのか!おでっ、おで、ひかるぱじゃまほしいじょ!」
「お前がねだってどうすんだ、このアホ 」
すかさず突っ込む隼。
「だってうしゃいだがなんでもかってやるていっだも!」
不服そうに叫ぶ鷹。
「た、鷹くん。兎田さんが何か買ってあげるって言ったのは、結城さんがお誕生日だからなんだよ」
竜一が優しく説明すると、鷹がハッとした顔になった。
「おでもおねえちゃになんかぷれぜとやる!」
『鷹くん、ありがとう。でも欲しいものが浮かばなくて。兎田さんもお気持ちだけいただきますね。ありがとうございます』
「あらー、そう…」
ほんの少し早口の咲茉。そしてすぐに製作の続きに取り掛かった。その様子を見た竜一と隼と兎田は何となく、咲茉が誕生日の話題に触れてほしくないと言っているように感じた。
7月5日。心なしか、日を追うごとに咲茉の顔色が悪くなっているように感じる。学校や部活に加え、連日のドラマの撮影で疲れが溜まっているのもあるのだろうが、それだけではない気がする。顔色は悪いのに学校や保育ルームでは元気な様子の咲茉。指摘していいものかと、竜一は悩んでいた。
「エマちゃんの顔色が悪い?」
「はい。でも元気ではあるからなと思って。 元々色白だけど、なんか…、青ざめてるようにも見えるんですよね」
「…まあ、確かにな」
「空元気に見えることもあるよねえ」
この日、咲茉は吹奏楽部のほうに出席していたので夕方の保育ルームには、子どもたち、竜一と隼と兎田のみだった。
「そういえばさ、エマちゃん誕生日プレゼント何も要らないって言ってたけど、ほんとに欲しいものないのかな。誕生日の話題が出ると、なる早でそれを終わらせようとしてくるし、俺はエマちゃんが“誕生日なんか”って言ってるように感じたんだけど、気のせい?」
「「…………」」
去年は咲茉の誕生日を知らなかったから気付かなかったかもしれない。七夕が近付くにつれて顔色を悪くする彼女に。そもそも、合奏がメインになるからと、コンクールメンバーに加わった咲茉はこの時期、吹奏楽部のほうに顔を出していて夕方の保育ルームにはいなかった。
「……そんなに気になるんなら、直接本人に聞いてみりゃいい話じゃね?」
隼が口を開いた。確かにそうかもしれない。
悶々としたまま、母親たちが子どもを迎えに来る時間となった。
夜中、日付が変わったくらいの時間。身体が重くて熱くて目が覚めた。隣で寝ていた筈の虎太郎がなぜか俺の身体に乗っかって寝ている。起こさないようにそっと虎太郎をベッドに寝かせて、俺は水を飲みにキッチンへ向かった。
あれ?明かりがついてる。
ドアの隙間から漏れ出た光。誰か消し忘れたのかなと思って扉を開けると、ダイニングのテーブルに突っ伏した結城さんがいた。そして、その傍らには開いたままのロケットペンダント。中に入っていたのは結城さんの部屋に飾ってあったのと同じ写真。
「結城さん?」
寝てるのかな。そっと肩を叩くと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「!」
『…あ、鹿島くん……』
結城さんの目元と鼻が赤くなっていて、ひと目で泣いていたのだと分かる。
「…どうしたの?何か悩み事?」
『……ううん。大したことはないの』
そう言って頬に残った涙を拭う結城さん。
『鹿島くんは、どうしたの?』
「あ、俺は…、ちょっと喉が渇いて。水飲みに来たんだ」
『そっか。……私も少し飲もうかな』
「うん」
グラスを2つ棚から取り出し、水を注ぐ。
「はい」
『ありがとう』
冷たい水が喉を通過していく感覚が心地いい。隣をちらりと見ると、結城さんもこくん、こくん、と小さく音を立てて水を飲んでいた。
「…………」
『…………』
少しの間沈黙が続いた。俺は思い切って、あのことを結城さんに聞いてみることにした。
「…ねえ、結城さん」
『?』
「違ったら悪いんだけど。あの…、もしかして、誕生日が嫌だったりする? 」
こちらを見ていた結城さんの顔がさっと青ざめた。
『…うん、そうね。……誕生日は好きじゃない。他の人のはどうってことないし、寧ろたくさんお祝いしたいと思うよ』
「なんで自分の誕生日が好きじゃないの?」
『………』
結城さんが唇をきゅっと固く結んだ。そして、青い瞳が涙で潤んでいく。
「ほんとに嫌なら無理に話さなくて大丈夫だよ。でももし、話して少しでも気持ちが楽になるなら俺でよければ聞くから…」
『…でも…、鹿島くんにつらい思いさせちゃう……』
「えっ」
とうとう結城さんの目から涙が零れ落ちた。白い頬に、涙の雫がいくつも筋を描いて流れていく。
「……大丈夫だよ。聞くだけ聞かせてよ。俺も無理ってなったらちゃんと言うから」
『ほんと…?』
「うん」
涙を拭き、テーブルに置いてあったロケットペンダントを首に掛けて、俺たちは結城さんの部屋に移動した。
ベッドに腰掛ける彼女と向かい合うように、俺もすすめられた椅子に座る。
『……私が自分の誕生日が嫌なのはね、その日が家族の命日だからなの』
「えっ!?」
結城さんは中学卒業まで施設にいたって言っていた。どうしてそうなったのかは聞いたことがなかったけれど、気にならなかったわけでもない。
「…事故か何かだったの?」
『うん。……飛行機事故だよ』
「!!」
どくん、と心臓が大きく跳ね上がった。身体が小刻みに震える。さっき水を飲んだのに口の中がカラカラに乾いていく。
『……大丈夫?もうやめようか 』
「…っ…、ううん。聞かせて。俺は大丈夫だから」
『…分かった』
ひと呼吸置いて、結城さんが再び口を開いた。
『私、小さい頃に少しだけオランダに住んでたの。祖母がいたからね。日本に来てからも年に一度は向こうに遊びに行ってて。5歳の時、日本に帰るタイミングで祖母も一緒に帰国したの。日本を観光したいって。それが自分の誕生日。6歳を迎える7月7日。あと数時間で日本に着くって時に、飛行機がエンジントラブルを起こしたの』
「……!」
『当然、機内はパニックになった。酸素マスクが下りてきて、海の上だったから救命胴衣も着させられて。非常扉が開いて、CAさんの指示に従って避難してた時、とうとう飛行機が爆発しちゃったの』
なんてことだろう。結城さんが飛行機事故の当事者だったなんて。しかもそれは自分の誕生日だなんて。
『私はギリギリ命が助かったんだけど、父も母も祖母も、3歳の弟も、みんなその事故で死んじゃった。乗客と乗務員462人のうち、生き残ったのは私を含めた8人だけ』
「……そうだったんだ…」
結城さんの目から再び涙が零れた。
『…飛行機ってね、乗り物の中で最も安全って言われてるんだって。事故に遭遇する確率は1100万分の1。その1100万分の1に自分も家族も含まれちゃったの。こんな偶然、しかも自分の誕生日になんて、神様は意地悪だよね』
ティッシュで涙を拭いながら、結城さんが笑う。でも、その顔は笑っていても本当に悲しそうでつらそうで。俺もぎゅっと胸が締め付けられた。泣いている結城さんは、いつもよりもひと回りもふた回りも小さく見えた。
『当たり前に日本に帰って、祖母を連れてあちこち観光ついでにお出掛けして、家族5人で笑って過ごすんだって、当たり前に思ってた。…でも、自分が思い描いてた当たり前があの一瞬でなくなっちゃった。毎年誕生日が近付く度に、あの日の光景とか恐怖とか、ものすごく鮮明に思い出しちゃって。早く7月7日が終われって思っちゃうの。……家族の分まで元気に幸せに暮らさなくちゃって思う反面、こんなに長いこと苦しめられるなら、私もあの時家族と一緒に死んでしまったほうが楽だったのにって…』
「…結城さん…っ…!」
思わず目の前の彼女をぎゅっと抱き締めてしまった。
ああ、なんて華奢なんだろう。
結城さんも俺が飛行機事故で両親を亡くしてるの知ってるから、この話を聞いて俺がつらくなるって心配してくれたんだよね。結城さんはほんとに優しい女の子だ……。
「死んでしまいたかったなんて言わないで…!俺も両親が飛行機事故で亡くなってるから…、遺された側の悲しみを少しは分かるつもりだよ。なんで自分の父さんや母さんが…って、何度も思ったよ。でも、おばあさんが引き取ってくれて、こっちでもたくさん大事な人ができて、結城さんとも出会えて。俺も虎太郎も今すごく幸せだよ。…っ…、結城さんも独りぼっちじゃないよ。俺にとって結城さんも、もう大事な家族の一員なんだから…!」
最後は俺も堪えきれずに泣いてしまった。鼻の奥が痛い。胸が苦しい。体温が上がっているのが分かる。
『…ぅ…っ…。鹿島くん…っ…!』
小さく嗚咽を漏らしながら、結城さんも俺の身体に腕をまわしてくれた。彼女の鼓動が伝わってくる。
俺たちは抱き締め合ったまま、2人で何時間も泣いた。
ようやく涙が止まって、そっと身体を離す。
『鹿島くんまで泣かせちゃってごめんね。しんどかったよね…』
「正直つらい内容だったけど、大丈夫だよ。話してくれてありがとう」
『…ちょっと気持ちが楽になったよ。ありがとう』
結城さんはさっきよりももっと目や鼻を真っ赤にしていたけれど、少しすっきりしたような顔になっていた。
「よかった。……うわっ、瞼すごい腫れてる…」
ふと鏡を見て自分の顔に驚く。
『このまま寝たら朝から2人して土偶になりそうだね。ちょっとマッサージしよう』
「うん。教えて」
『じゃ、キッチンに行こ』
暗い廊下を進んで再びキッチンに向かう。タオルを濡らして電子レンジで温めている間に、ボウルに氷水を入れたものを2つ用意する。
できあがったホットタオルで顔を温めて、また温め直している間に今度は氷水に顔をつけるらしい。
それを何度か繰り返した。あとは首筋をタオルに包んだ保冷剤で上から下に撫でる。
『…これで少しは土偶回避できると思う。あとはカフェインで浮腫みを取ればいいかな』
「ありがとう。泣いた後のケアなんてしたことなかったから助かったよ」
『泣かせちゃったの私だから。ごめんね、鹿島くん』
「いいんだよ。気にしないで」
時計を見ると午前3時ちょっと過ぎ。
『5時まであと2時間くらいは眠れるかな』
「そうだね」
少し水分を摂って、キッチンの電気を消して部屋に戻る。
「鹿島くん、ありがとう。おやすみ」
「ううん、こちらこそありがとう。おやすみ」
俺たちはそれぞれの部屋に戻る。泣き疲れたからか吸い込まれるように眠ってしまった俺は、アラームの音と共に起きた虎太郎に乗っかられて、その重みでやっと目を覚ましたのだった 。
「うわ~、それは……」
「きちぃな……」
その日の昼休み、結城さんは吹奏楽部の集まりに行っていたので、みんなが早めにお昼寝してから兎田さんと狼谷に結城さんから聞いたことを話した。いつも呑気な顔で笑っている兎田さんも、あまり表情が変わらない狼谷もこの時ばかりは神妙な面持ちで聞いてくれていた。
「…それでエマちゃん、“いつも通り普通に過ごしたい”って言ってたのか。“普通”がどれだけ幸せなことか分かってる彼女だからこそのあの発言だったってわけね」
兎田さんが小さく溜め息をつく。
「んじゃ、明日は俺らも“普通に”しとけばいいかな。それで、エマちゃんに笑って“おめでとう”って言ってあげよう」
「そうですね」
「………」
7月7日。七夕の日。朝からおばあさん、犀川さん、俺、虎太郎が結城さんにおめでとうを言うと、彼女は少しだけ目を潤ませながらも嬉しそうに笑ってくれた。学校では兎田さんや狼谷、保育ルームのみんな、お母さんたちも結城さんにおめでとうって言ってあげていた。
同じ飛行機事故で家族を亡くした立場でも、 俺は虎太郎が一緒だった。だけど結城さんは弟まで亡くしている。遺された側はつらいし悲しみを背負って生きていかないといけないけれど、俺は結城さんに出会えてよかったって本気で思っている。この学園に転校してきてすぐ、おばあさんが言っていた。“行っちまった奴らは帰ってきちゃあくれないけどね、あたしらは何もこの世にひとりぽっちにされちまったわけでもないんだ”って。俺や虎太郎がみんなに、もちろん結城さんにもたくさん支えてもらっている分、俺も彼女を支えたい。事故のせいで毎年の自分の誕生日がつらいものになってしまうなんて悲しすぎるから。結城さんがほんの少しでも、生きててよかったって思ってくれたら嬉しい。
放課後。
「あ、結城さん短冊書いてるの?」
『うん』
「牛丸ちゃんに誘われて、いのちゃんと今から3人でプリクラ撮りに行くんでしょ?」
『はい。もう少ししたら2人が来てくれると思います』
「楽しんでね!」
『うん、ありがとう。……できた!』
結城さんが書き上げた短冊を笹の葉に結んでいる。
「エマちゃんお待たせ!プリ撮りに行こう!」
「や、やっぱり放課後の寄り道は学生として……」
「いいからいいから!まりあちゃん、今日は特別なんだから!さ、エマちゃん行こう!」
『うん!…じゃあ、兎田さん、鹿島くん、狼谷くん、行ってきます!』
「行ってらっしゃい」
「気を付けろよ」
結城さんは笑顔で猪俣さんや牛丸さんと保育ルームを後にした。
「竜ちゃん、隼も。見てみて」
兎田さんに手招きされてそちらに行くと、ついさっき結城さんが飾っていた短冊。そこには……、
“大好きな人たちと一緒にいられる幸せが、これからもずっと続きますように。 えま”
と書かれていた。それを見て、嬉しくてまた少し泣きそうになったのはみんなには内緒だ。
つづく
コメント
1件
うわ…この話、本当に重かったね。でもちゃんと読んだよ。 咲茉ちゃんが誕生日を避けたがってた理由、まさかあんな壮絶な過去があったからなんだね……飛行機事故で家族全員失って、自分だけ生き残ったって、しかもそれが自分の誕生日だなんて。鹿島くんが「遺された側の悲しみは分かる」って言って抱きしめたシーン、私も胸がぎゅっとなったよ。ああいう時って言葉だけじゃ足りなくて、温もりが必要なんだよね。 最後の短冊の “大好きな人たちと一緒にいられる幸せが続きますように” って願い、本当にじんわりきた……。誕生日が苦しみの日から、少しでも安心できる日になりますようにって心から思う🥀