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第2話 揺れる心
伊織のスマホ画面に表示された「葛木玲奈」という名前に、彼女の心臓は締め付けられるような痛みを覚えた。スマホを投げ出しそうになる衝動を抑え、冷たい表情のまま画面をロックする。
(どうして今さら…)
翌日、学校でも伊織の心はざわついていた。玲奈からのメッセージのことが頭から離れない。
昼休み、教室の窓からぼんやりと空を眺めていると、颯が伊織の隣の席に座った。
「花野さん、なんか元気ないね。もしかして体調悪い?」
伊織は、反射的に毒を吐く。
「別に。あなたの顔を見ていたら食欲がなくなっただけ」
颯は一瞬言葉に詰まるが、すぐににこっと笑って続けた。
「まあ、そう言わずに。良かったらこれ、食べてみない? 母さんが作った卵焼きなんだけど、結構おいしいんだ」
そう言って、颯は伊織にお弁当の卵焼きを差し出す。その温かさに、伊織は少し戸惑う。彼女は過去、信頼していた人に裏切られてから、他人からの親切を拒絶してきた。
「いらない」
短く言い放ち、伊織は席を立つ。
「あ、ちょっと待ってよ!」
颯は慌てて彼女を追いかける。伊織はそのまま屋上へと向かう階段を上がっていく。
屋上に出ると、冷たい風が頬を撫でた。伊織はフェンスに寄りかかり、再びスマホを取り出す。玲奈からのメッセージを、消そうかどうしようか迷う。その時、すぐ後ろから声が聞こえた。
「やっぱり、ここに来たんだね」
振り返ると、そこに立っていたのは華也だった。華也は伊織の表情を見て、優しく語りかける。
「伊織ちゃん、玲奈から連絡が来たんでしょ?」
華也の言葉に、伊織は目を見開いた。なぜ彼女がそのことを知っているのか。
「どうして…」
「なんとなく、わかるんだ。伊織ちゃんが玲奈のことを思い出すとき、いつもこういう顔をするから」
華也は、伊織の隣に立ち、同じようにフェンスにもたれかかった。
「伊織ちゃん、もう一度、玲奈に会ってみない?」
その言葉は、伊織の心に激しい動揺をもたらした。