テラーノベル
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放課後の黒板に、いつの間にか書かれていた落書き──
《ヒーローごっこ:第二章 開幕》
《共犯カップル、次はどこで抱き合う?》
消したはずのチョークの跡が、微かに残る。
クラスの空気は、確かに変わり始めていた。
「結局、どっちも気持ち悪いよな」
「やられてるフリしてさ、裏では楽しんでんじゃね?」
そんな声が、誰ともなく交わされるようになる。
ある日、誰かが携帯で撮ったという映像がクラスで密かに回る。
映っていたのは、階段の踊り場で遥と日下部が背中を寄せる一瞬の静止画。
ほんの一瞬。
──だが、それは加工され、拡大され、彩度が歪められ、
「密会の証拠」として、勝手な物語がつけ加えられる。
「ほら、“見返り”だろ?」
「守ってもらう代わりに身体で返すんだよ」
「“ごっこ”ってつければ何でもアリなんだな、あいつら」
冷笑、嘲笑、興奮と嫌悪が混じった視線が、ふたりを包む。
そして、仕掛け人──蓮司は何も言わない。
ただ、教室の後ろの席で脚を組みながら、クラスのやり取りを眺めている。
教師が来ても、何も言わない。
むしろ教師の一部は、それらの噂を「不適切な関係があるかもしれない」と疑い始めている。
ある日、蓮司はわざと聞こえる声で、女子グループのひとりに言った。
「なあ、オレさ、前からちょっと気になってたんだけど……
あいつらってさ、どっちが“上”だと思う?」
女子たちが吹き出す。
「え、なに? 聞いちゃう? 日下部のほうじゃね? 意外と攻め?」
「きっも。あれ、マジで男なの?」
その会話が、「ネタ」として、クラスの中で反響していく。
蓮司は何も書かない。
何も投稿しない。
ただ、誰かの手が動き出す“きっかけ”を、ぽんと置いていくだけ。
チョークを落とすように。
噂の種をばらまくように。
「……勝手に燃えるやつらが、いちばんおもしろい」
蓮司の目は、もう次のステージを見ていた。
“いじめ”ではない。“構造”だ。 “加害”ではない。“連帯”だ。 “仕掛けた”のではない。“勝手に燃えた”だけだ。
そう言わんばかりに。
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