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”私の大事な宝物”/夢の中で祖母に会うアルハイゼンの話/幼少期捏造(呼び方とかも全て想像です)
深い眠りの中で、アルハイゼンは昔の夢を見ていた。春のように、暖かく心地の良い風。そしてかすかに聞こえる鳥のさえずり。一面太陽色に染る花畑で、幼いアルハイゼンは髪に花の冠を被って首を傾げていた。
何が起きているか分からない、と言ったところだろうか。それはそうだろう。なんて言ったって記憶は20歳をとうに越した成人男性のものなのだから。
「……ここは」
動かしなれない小さな体を起き上がらせ、不思議そうに少年は歩みを進める。どうやらこの体は裸足のようで、微かに水気を含んだスメールローズを踏んで思わずアルハイゼンは足を跳ね上がらせた。
「…アルハイゼン」
「……お祖母様」
突然、背後から手を回され何故か聞き慣れた声で自身の名前が呼ばれる。ちらりと後ろを見遣れば、そこには少し前に遠くへいってしまったはずの彼女がいた。記憶の中の最後の彼女の姿より少し若いような気もする。全てが白く染まった髪であったはずなのに、今は白髪混じりであり、彼女の元の美しい髪が目に入ってくる。さらりと耳に軽く通るその声もなんら変わっていなかった。
「あなたは本当に聡明で博識で、心優しい子ですね。」
「…いいえ、お祖母様。”心優しい”という言葉は俺に合っていないでしょう。随分前に、”お前は冷酷な奴だ。人間の血が通っていないのか”と言われました。俺も、それには共感しますよ。」
なだめるように頭を撫でながら、彼女はそう慈しむように言葉をかけるものだから、アルハイゼンは思わず否定の言葉を漏らした。心優しい、という言葉は本当に、心の底から、自分には不格好で、似合っていないと思う。それを言うなら、彼女の方が心優しく、女神のような明るさを持った女性だ。こんな、困っている人を冷ややかに観ることしかできない自分とは、似ても似つかない。
「あらあら、その子は相当あなたを羨んでいたのでしょう。でもそれを、反発せず受け入れたのがあなたの優しさですよ。自分に誇りを持ちなさい。あなたはとても優しくて頭のいい子なんですから。私が保証します。」
あぁ、本当にあなたなんですね。
緩やかに笑う彼女は以前と変わらない優しげな表情を浮かべていた。アルハイゼンの頬に添えた手は暖かく、愛を感じる。すり、と寄せた額は柔らかく、太陽のような香りが鼻をくすぐる。”アルハイゼン”と愛しげに囁くその声には何か不思議な効力があるのか、眠たげに瞼が重くなった。そして、優しげな夢の中で目を閉じた。
するり、と力の抜けた腕の中の小さな体に思わず笑みをこぼす。本当にこの子は昔から溜め込んで。苦しくて仕方のなかったでしょうに。かすかに浮かぶ目元のクマに彼女は眉をしかめ、そして再度笑みを浮かべる。
「頑張ってきたんでしょうね。本当にあなたは凄い。偉い。両親を失って、突然私に渡されてきて。それでもあなたは私を親のように想ってくれた。ありがとう。それがどれだけ嬉しかったか。救いであったか。あなたにとって些細で軽いことでも、私にとってはとっても大きなことなのですよ。ありがとう、アルハイゼン」
はらはら、と周りの花が風に揺れ、彼女の姿を消していく。美しく、そして儚く。姿は消えど、思う気持ちを忘れない限り、その存在が消えることはない。あなた達の思いがどうか交差しないように。
「ありがとう、” ”」