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聖女が現われるのは、約三百年に一度と言われている。聖女は異界から召喚され、災厄を打ち返すと共に消滅するらしい。

まず、三百年に一度昨日聞いた災厄が訪れると思うと、此の世界も大変だなあとしみじみ思う。

聖女の力は、光魔法であるが昼間でも夜間でも使え、回復力も高い。そして、聖女が死ねば世界が滅びるという言い伝えも残っているらしい。

聖女は、その身を犠牲に世界を救ってくれると。

過去の聖女は皆、黄金の髪に真っ白な瞳の美少女であり、この世の物ではないまるで天使のような美貌の持ち主であると。


「聖女様は、銀髪でしたので……」

「聖女じゃないって言いたいの!?」


グランツの言葉に思わず声を荒げた。

確かに、私はその物語に出てくる聖女っぽくはない。エトワールの髪色は銀色で、瞳はルビーに夕日が反射したような二重層。

まあ、いずれ偽りの聖女と言われ闇落ちしラスボスになるんだから伝説と違っていても何も可笑しくない。

だけど、見た目だけで判断しないで欲しい。

ヒロインが現われるまでは、私は聖女よ。


「そこまで言っていません。それに、聖女様の回復魔法を見ましたから……」

「そうでしょ? 私は聖女なの」


自分で自分の事を聖女と言い張る聖女が何処にいるんだという話になるが、兎に角信じて貰うしかない。今は。

それでもまだ、グランツは信じきっていないのか、私の事をじっと見ている。

ヒロインは……本ストのヒロイン……デフォルト名トワイライト・カファスは美しい蜂蜜色の髪に真っ白な瞳だった。

エトワールが美人設定なら、トワイライトは王道のお姫様…可愛い系である。


「と、と……というか、私死んじゃうの!?」


グランツが言うには、災厄を打ち返し、役目を果たした聖女は消滅してしまうらしい。

ゲームでは、愛の力で災厄を打ち返し、愛の力で生存したというところだろうか。

しかし、もしそれが本当なのだとしたら闇落ちしてラスボス化しても聖女として災厄を打ち返しても死ぬと言うことになる。ヒロインならまだしも。エトワールは生き残れるか分からない。

今まで、召喚された聖女は例外なく消滅しているらしい。伝説によると。

そんな深い設定まで知らなかった私は、一気に不安が押し寄せた。エトワールルートはどう足掻いても死亡エンドしかないのではないかと。


(いい、いいや! まだ死ぬって決まったわけじゃない! それに、消滅するだけで中身の私は現世に戻れるかも知れないし!)


そうだ、そうに違いないと自分に言い聞かせた。すると、目の前で膝をついて頭を垂れていたグランツが突然立ち上がった。


「ど、どうかした?」

「……聖女様にお会いできてよかったです」


グランツはそれだけいって、すたすたと林の方へ歩いて行こうとする。

まって、それだけ!? やっぱり私に興味ないのね!


「待って」

「まだ何か?」

「訓練場はあっちだから……なんで、そっちに行くのかなあって……」

「……」


グランツは無言のまま私を睨みつけた。

そこで、私はあることに気づいた。というかグランツの設定を改めて思い出した。

騎士は貴族階級の人間が殆どで、グランツが初めての平民出身の騎士になる。グランツは、殆どの騎士が少なからず魔力を持っているのに対し魔力を持たず、平民であると言うことを理由に騎士団の中で冷遇されていた。

そして、ある日を境に聖女を守る近衛騎士に任命されて……それが、ヒロインストーリーで語られていたグランツの主な過去や設定だった。

ヒロインと出会うのは一年後で、出会った当初さえ酷い待遇だったのに……その一年前となると、それも入団したばかりとなると彼の扱いは酷いものだろう。

だから、一人訓練場には行けず林の中で鍛錬を……

グランツは感情が表に出ないタイプだから分かりづらいが、今の彼はとても痛々しく見える。

実力はあるのに、平民と言うだけで冷遇されて。


「ご、ごめんなさい。その、えっと……」

「構いません。平民出身の身ですから」


そういう彼の言葉の裏に「貴方も俺に期待などしていないでしょ?」という皮肉が隠れているように思えた。

努力しても認められないつらさは私にも分かる。

グランツは、「それでは」と私に背を向けたので私はもう一度、待ってと声をかけた。


「まだ何か?」

「血が滲むほど努力してるって凄いことだと思う……から」

「……騎士は皆そうですよ。忠誠を誓った主を守る為に必死に」

「違う、そうじゃなくて……! 人一倍努力してるって事!その、正式に稽古に参加できなくても今みたいに手にまめが出来るぐらい必死で剣を振って。認められるか分からないのに、頑張れるって凄いことだと思う」

「……」

「私には出来ない。私は、認められないなら……もう良いかなって、諦めちゃったから」


私は、エトワールとしてこの世界に来たけど、中身は天馬巡という女子大生だ。

二十一年間生きてきて、努力し続けることが無意味だって諦めてしまった事があった。認められないなら努力する意味はないって諦めてしまった過去があるから。

だから、グランツは凄いと思った。


(……何て、薄っぺらい言葉で彼の堅い性格に、心に響くわけないか……)


と、私が内心思っていると、ピコンという機械音が聞こえ、私は顔を上げた。

グランツは無表情だった顔が少しだけ笑っているように見え、頭上の好感度は5%になっていた。


「……初めて言われました。そうですね……、俺は人一倍努力しないとここに居続けることは出来ないでしょう。幼い頃から剣術を習っていたわけでもないですし、他の人の何倍も努力しないといけない。例え認められなくても……けど」


グランツは私を見て言った。


「聖女様が認めてくれたので、自信になりました。精進します」

「は……はへぇ」


そういって、グランツは再度地に足を着き頭を下げた。先ほどの謝罪とは違う、まるで忠誠を誓うかのように。そして、グランツはそのまま立ち去った。

私は暫く呆然としていた。

まさか、彼の心に響くとは思っていなかったからだ。彼だって単純ではない。努力してきているからこそ努力しているね。の一言で励まされても嬉しくないはずだ。

だとすると、私が心の内に秘めていた辛い努力の過去を感じ取ったのだろうか。何にせよ、好感度が上がったのだから結果オーライである。

しかし、ここでグランツと別れたらまたいつ彼に会えるか分からない。護衛につくのはもっと先だろうか。それまで会えないとなると好感度を上げる手段がなくなる。

私は、何とか彼との縁を結ぶためにあれこれ考え、パッと思いついたことをそのまま考えもなしに口にしてしまった。


「あ、あの……それで、なんですけど」

「……はい」

「わ、私に剣術を教えて欲しいんです!」

「剣術ですか……?」

「え、あ…ダメでしたか……!?」


グランツは不思議そうな顔をした。

私は慌てて弁解をする。いくら何でもいきなり過ぎたか。

けれど、剣術は身につけておいた方が良いと思う。自分の身は自分で守れるように! いずれ悪女となる私にはきっと敵が多いだろうから!

それに魔法はイメージが大事で、発動にタイムラグが生じる。また近接攻撃に素早く対処できるかすら分からない。

そのため、剣術を身につけておきたいと思ったのだ。

グランツは、少し考えるような素振りを見せ訓練場の方を指さした。


「俺ではなく、騎士団長とかに頼んだ方が良いと思います」

「違う、違う! 私はアンタに教えて貰いたいっていってるの!」


私の剣幕に押されグランツは少し戸惑っているみたいだった。

私はグランツの前で手をすりあわせ頭を下げる。


「アンタがいいの! だって、あっちの人達怖いし。私、人見知りで喋るの苦手で!」

「喋れてるじゃないですか」

「アンタは喋りやすかったの!」


色々矛盾してます。とグランツに言われ、彼が私に剣術を教えるつもりはないんだというのが伝わってきて、私は肩を落とした。

しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。

グランツの好感度は上がりやすいから、上げれるうちに上げておかなければ。


「そもそも何で剣術を学びたいと思ったんですか? 聖女様には魔法があるじゃないですか」


と、グランツは呆れたように言った。

自分は魔法が使えないからと私に皮肉を言っているのがバレバレである。

私は、その言葉を無視し答えた。


「剣術身につけたら格好いいじゃん。ビュンって剣振ってみたい」

「……」

「でも、私不器用だからいきなり振ったらアンタみたいに剣をどっかにとばしちゃうかも知れない。それで物壊しちゃったり人を怪我させちゃったりしたら大変でしょ!?」


と、私は必死に訴えた。彼は、さっきのことを掘り起こされて一瞬だけ眉間に皺を寄せた。

実際、剣術を本気で学びたいかと言われればNOである。私は運動神経もあまり良くない。

それに、エトワールの身体もかなり貧弱で体力がない。


「……厳しいですよ」

「はい、学びたいです!」

「それこそ、さっきの俺みたいなボロボロの手になるかも知れない」

「それでもです! お願いします!」


私が頭を下げても、グランツは無言でこちらを見つめているだけだった。

暫く沈黙が続き、やがて大きなため息が聞こえてきた。


「分かりましたよ。泣きごと言わないでくださいね。ただ俺も暇じゃないので、曜日を決めて練習しましょう。それで良いですか?」

「えっ、あ、はい! お願いします! 先生ッ!」

「……先生はやめて下さい。それに、俺はいずれ……順調にいけば貴方を守る近衛騎士になるのです。聖女様」

「え……あ……そっか。じゃ、じゃあ、私の事も聖女様ってよぶのやめて!」

「では、何とお呼びすれば?」

「普通に、エトワールで……」


そういうと、グランツは微妙な顔をした。

ああ、そうか。いずれ主になる、それでなくても聖女を呼び捨てには出来ないか。


「……それでは、これからはエトワール様とお呼びしますね」


と、グランツは苦笑気味にいった。

私は、うんと小さく返事をした。


「よろしくね。グランツ」


ふと、グランツを見上げると好感度は8%になっていた。


「そういえば、聖女……エトワール様はどうして俺の名前を?」

「え、あ…! えっと、聖女だからよ!」

「……」


グランツの顔が無表情になり、私が訓練場を去るまでじっと私をみていた。


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