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「あっ、聖女様」
「もしかして、滅茶苦茶時間経ってましたか?ルーメンさん」
「いえ、大丈夫ですよ」
ルーメンさんが馬車の前で待っているが見え私は、急ぎ足で階段を駆け下りた。
「そんな慌てたら転びますよ――! エトワール様!」
と、ルーメンさんの横で叫んでいるリュシオルの姿も見え、結局私が一番最後なのかと階段の最後の段をあろうことか踏み外した。
「つぶしッ……!」
「あーもういわんこっちゃない……大丈夫ですか、エトワール様」
「痛い。鼻折れたかも」
「そんな一段踏み外しただけで大げさな」
と、呆れ顔のリュシオルと私を見て笑いを堪えるように口元を手で覆っているルーメンさん。二人して酷い。
しかし、遅れたのは私だし……と鼻を抑えながら立ち上がると二人に謝った。二人は、全然気にしてないと笑ってくれた。
そして、本当にそこまで時間が経っていなかったことに驚き、私達は、そのまま馬車に乗り込んだ。
「この後予定って入ってませんでしたよね……」
「ええ。城下町でも見ていきますか?」
馬車の中で、ルーメンさんの質問に私は首を縦に振った。
今日は疲れたけど、美味しい物に出会えるかも知れないという期待感が勝っていた。
それにしても、こんな簡単に外出許可って降りるんだ……聖女だからもうちょっと丁重にというか、危険が及ぶといけないからとかで外出は控えるようにって言われそうなものだけど。
そんな私の心中を察したのか、ルーメンさんはため息をつきながら外の景色を見ながら口を開いた。
「今戻っても殿下が……また仕事が溜まったら困るので」
「あー……そう、ですね」
その言葉に、私は納得してしまった。確かに、朝だって一緒に朝食など取る予定ではなかったのに無理矢理その時間を作ったんでしょ。そして、一緒に神殿にも行くとかいいだして……
(攻略キャラである以前に、彼はこの国の皇太子なんだから……)
私は、頬杖をついて窓の外を眺めた。
馬車の中から見える町は、いつもよりキラキラ輝いて見えた。
ああ、やっぱり私の知っている世界とはどこか違う。ここは異世界なのだと改めて感じさせられた。
それから暫くして到着した城下町の町並みはとても綺麗だった。
石畳の道にレンガ造りの建物が並び、人は気さくで互いに挨拶を交して笑っている。時折見かける犬猫のような動物達も、毛並みが良く人懐っこそうで思わずもふもふしたくなってしまった。人も動物も皆、笑顔でとても幸せそうだ。
「聖女様の髪は目立つので、これを」
「ありがとうございます」
私は、早速それを羽織り、ルーメンさん達にお礼を言った。
「うわぁ……馬車の中から見ていたよりもずっと賑やか! 綺麗!」
目の前に広がる光景に、目を奪われてしまう。色とりどりの屋台や、食べ物屋さん。服や装飾品を売っているお店に武器屋の類まで沢山ある。
私が目をきらめかせていると、ルーメンさんは少し用事があるからと何処かに行ってしまった。
そして、リュシオルと二人きりになる。彼女と顔を見合わせ、お互い苦笑する。
「私、食べ歩きしてみたかったの! 買い物とかも!」
「嘘つけ。私が誘ったとき、ソシャゲのイベントがーって断ったの忘れちゃいないからね」
「それはそれ。ソシャゲのイベントほど大事な物ってないでしょ!」
私は、リュシオルの言葉に即答すると彼女は呆れたようにため息をついた。
まあ、リュシオルが言っていることは正しいし、間違ってはいない。
JKになって、皆がオシャレやメイク、流行の飲み物や食べ物を楽しんでいる中、私だけがスマホゲームに夢中だった。
いいや、きっとあんなキラキラした世界は私には似合わないと決めつけていたからか、私は高校生になっても女の子らしいことが出来なかった。
本当は、流行の飲み物や食べ物に興味があった。食べ歩きもしてみたかった。それをする友達も勇気もなかったけど。蛍…リュシオルは誘ってはくれていたんだけどね。
「せっかくエトワールに転生したんだから、第二の人生楽しもうかなって。し……死ぬ前に楽しい思い出をぉ」
「はいはい。わかったよ。それに、死なないために攻略頑張るって決めたんでしょ。ポジティブに行こう」
「……うん」
リュシオルに背中を叩かれ、私は気持ちを切り替えることにした。
お勧めのデートスポットとか。遊園地や水族館にだって行ってみたかった。彼氏がいたのに、そういうの似合わないって避けていた。
そのせいで、遥輝に一杯我慢を……
(よしっ! 今はそのことは考えない! ポジティブ、ポジティブ楽しむぞ~!!)
私はグッと拳を振り上げた。
それから私とリュシオルは、城下町を散策することにした。
美味しい匂いが漂ってくると、つい足を止めて買ってしまいそうになるが、夕食の事を考えると沢山飲んだり食べたりは出来ないとぐっと堪える。
それにしても、本当に色々な物がある。見たことのない果物にお菓子。アクセサリーに小物に本。
異世界補正のおかげか、この世界の文字は読めるみたいで平仮名や漢字ではない英語のようなものもすらすらと読めた。面白そうな本を見つけたので後で二三冊買って帰ろうと決め、次の店に向かった。
それから、服屋にも入ってみた。
始めてはいる服屋に私は完全にカチコチに固まって、ぎこちない動きで店内を歩いた。そして、服の値段を見て目が飛び出た。
「こ、これ……0いくつあるの!?」
庶民でも手が出せるような価格帯の商品もあったが、貴族が着るようなドレスはゼロがたくさん並んでいた。
そんな高価な物を身に着けるのは気が引ける。現世では、近くの雑貨店の半額シールの貼ってあった服を着ていたというのに!
服に無頓着なせいで、これが一般価格…ではないとは思うが、貴族はこんなものにお金を掛けているのかと思うと頭が痛い。
服にかけるお金があるなら、フィギュアやライブチケット、スパ茶に課金したい。
「あっ、これ良いかも」
と、私が手に取ったのは金色の大きなリボンのバレッタだ。
シンプルなデザインで派手過ぎず、それでいて可愛い。それにこの色……
「あ、それリース様みたいって思ったんでしょ」
「うわっ! いきなり後ろから生えないでよ。リュシオル……」
いつの間にか背後にいたリュシオルに声をかけられ、私は驚いて振り返った。すると、彼女は私の手元を覗き込むとにやりと笑みを浮かべた。
「ほんっと、変わってないわね。リース様とおなじ色見つけたら飛びつく癖は」
「別に飛びついてないし!」
リュシオルの言葉に、私はムッと頬を膨らませた。
確かに、推しと同じ色の物を見つけると飛びつく癖はあるけど今のは本当に無意識だった。無意識にこのリボンに目が奪われ、手が伸びた。
特に歴代の推しの中でリースは、眩しい金髪にルビーの瞳という色合いもあってか、どうしても目に入ってしまうのだ。あの金色は反則だ。
「店員さんこれ下さ~い」
「ちょ、ちょっとリュシオル!? 私買うっていってないんだけど」
「いいんじゃない? 貴方の今の髪色に似合うと思うよ」
そう言って、リュシオルは勝手に会計を済ませてしまった。
リュシオルの言う通り、美しい銀髪の聖女エトワールに転生したんだからオシャレぐらいしても良いかなと思った。それに、ただのストレートヘアーは少し寂しかったから、これはこれで良かったかもしれない。
「帰ったら早速付けてみようか」
「う、うん。お願い」
任せなさい。と腕まくりをするリュシオル。
リュシオルは器用だから、きっと可愛い髪型にしてくれるに違いない。今の私の髪は前世と違ってつやつやさらさらだから、髪をクシで通しても痛くないはずだ。
(あ、本買おうと思ってたんだった……)
と、私は先ほど寄った本屋で本を買い忘れていたことを思い出し、すぐに戻ろうとしたが、視線を移した先で私は道路に飛び出した子供の姿をとらえた。
そして、その子供に向かって走ってくる馬車。どちらも気づいていないようで、このままでは轢かれてしまう……
「エトワール様ッ!」
リュシオルの声が聞こえたが私は、考えるよりも先に体が動いていた。