桃×黒
微ホラー
二次創作。本人様には関係ありません。
ずっと嫌いだった。
ずっと殺したかった。
「じゃあね。」
そう言った俺の顔は、無意識に笑顔になっていた。
「あにきみてみて!!桜めっちゃ綺麗!」
「何回言うねんww」
桜が舞う夜。
近くの山に6人で花見をしに来ていた。
「月めっちゃ綺麗に見える!すげえ!」
俺の嫌いな顔、俺の嫌いな声。
あの頃からずっと聞いてきた歌声。
最初は好きだった。
こんな俺を誘ってくれたことも、こんな俺と話してくれることも、今でも感謝している。
でも、関わるうちに劣等感を感じるようになった。
バンドを10年以上しても成功しなかった俺に対して、歌い手を始めてすぐに成功した彼。
結果が全てで過程なんか関係ない、結果が出ないのは努力してないから。
俺に向けられた刃ではないと分かっていても、俺と照らし合わせてしまう。
そうしているうちに、彼が誘ってくれたのに、裏で嘲笑われているのではないかと深読みし、勝手に傷つくようになった。
全部被害妄想なのは分かっているけど。
ないこさえいなければ、俺はこの苦しみから解放される。
この劣等感から解放される。
あの刃にもなにも思わなくなる。
いつしか殺意を持つようになってしまった。
「あっ!ここめっちゃ綺麗に夜景見える!」
「ほんとやんすげえ」
幸い、他のメンバーは先に行っていて俺だけしか居ない。
まろは、あのはちゃめちゃな子供組を追いかけていった。
周りに人もいない。
──殺すなら今だ。
そう思い、写真を撮ろうとするないこに背後から近寄る。
「じゃあな、ないこ。」
そう聞こえないように呟いて後ろから軽く押すと、彼は下に向かって落ちていった。
それに合わせるように、桜が風に吹かれて舞い散った。
一瞬俺の名前を呼ばれた気がしたが、気のせいだろう。
下の方では悲鳴が上がっていたが、知らんふりをして4人の方へ向かった。
一瞬の快感と一生の後悔。
人を殺した人はそう言うらしいが、本当なのだろうか。
落とした時の快感から抜け出せないままだ。
結局あいつは死ななかった。
下に桜の木があったらしく、それに守られて骨折などもなかったらしい。
気絶して、2、3日目を覚さなかったが、今は全く怪我もなく元気そうだ。
最悪。
一緒に行った俺らは警察から事情聴取を受けたが、俺は見ていなかったと嘘をついた。
どこか不可解だった。
ないこは事情聴取の時に「足を踏み外した」と言ったらしい。
──普通に考えてそんなはずがないのは俺でもわかる。
間違えなく俺が押した。それならないこも押されたことに気づかないはずがない。
じゃあなんでそう言ったのか。
記憶が飛んでそうな感じはしなかった。
「……俺を…庇った…?」
あれは本当だったらしい。
実際、ないこが俺のことを庇ったことに気づいてから、後悔ばっかりだった。
「はあ…w」
自分で自分を笑う。
俺はないこが嫌いやと思ってた。
でも多分、自分自身が嫌いやったんやと思う。
どれだけ努力しても報われなかった10年以上。
どれだけ頑張っても自分自身を好きになれなかった。
いれいすに入っても、みんなどんどん進んでいくのに、俺には歌しかない。
どんどん劣等感を感じて、嫌いになった。
多分その怒りの矛先をないこに向けてしまった。
相変わらずばかやな、俺。
ないこと別れようとした場所に来た。
今度は俺が、俺自身と別れるんだ。
下を見下ろす。
あの木に当たらなければ死ねる。
人を殺そうとした俺は、あそこにいる権利なんてない。
ないこと顔を合わせてはいけない。
生きてはいけない存在だ。
色々考えているうちに、雨が降ってきた。
前と違って桜はほぼなくて、葉っぱが生い茂ってる。
─飛ぼう。
そう決めたらもう怖くなかった。
下を見下ろす。
人に優しくできなかった俺は、きっと木に助けてくれはしない。
でも、それでいい。
「ごめんな、ないこ。」
そうして雨でぬかるんだ土から足を離そうとした時──
「あにきはだめだよ…。」
そんな声が俺を抱き止めた。
なんで、なんでなんでお前が…。
「ないこが、…。」
「あにきは行っちゃだめだよ…。俺の大事なメンバーなのに…。」
「同情すんなよっ…。」
泣きかけのないこの声が俺を弱くさせる。
どうしても同情されているようにしか感じれなかった。
「離せよ…。もう気づいてるくせにいい子ぶんなよ。」
「……。」
気づいてる、っていうのは図星らしい。
じゃあなぜここにいるのか、俺を止めようとするのかわからない。
「嫌いだろ、突き落としたいだろ。そのまま俺を突き落とせよ。俺だって死にたいんやから…。」
言い終わって涙が溢れてきた。
また、ないこになんてひどいことをしたんだろうって気持ちに支配された。
でも俺がしたことはもっとひどいことだから、これじゃあ足りない。
また抱きしめられた。
「…たしかにそうかもしれない。」
「じゃあ…」
「でも!!」
「でも、それじゃあ俺が庇った意味も、俺がここまであにきのこと心配して来た意味もなくなるじゃん。」
「は?」
意味がわからない。
「俺が庇ったのも、ふらふら歩いてたあにきを見つけてついて来て今ここにいるのも全部後悔してないもん。俺の意思だから。」
「…。」
「たしかに同じことをしたい気持ちもある。ここからあにきを落とすことなんかすぐできる。けど、それ以上に俺はあにきのこと好きだもん、大事だもん。」
それを聞いて俺のやったことが虚しくなる。
なんてことをしてしまったんだろうって気持ちに襲われる。
「あにきがそんなに自分のこと許せないなら許さなくていいから。」
「……え?」
「でもその代わり、俺と生きて。」
「なんでお前は…。」
そんな優しいん?
殺そうとした俺を。
逆恨みしていた俺に優しくしてくれるん?
「俺じゃダメかな?」
差し出された手を振り払えなかった。
離さなかった。
これからもこの後悔と生きていくのだろうか。
これからもこの傷を背負って生きていくのだろうか。
俺がやったことなのに、逃げたくなる。
でもまあ、とりあえずないこに殺されるまで生きてみるしかないか。
過去一うまくかけた。
コメント
2件
あおいさんの作品の中で1番好きでした😭 文章とか言葉選びも、黒くんのどうしようもない心情を上手く表現していてすごいなと思います🥹