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「んん……」
けたたましいアラームの音で目が覚める。寝起きの耳に、この機械音は痛い。
朝日が差し込む白い寝室。隣には眩しいと顔をしかめている恋人の姿が。そんな恋人、神津の腕の中に閉じ込められていて身動きが取れなかった。
「腰痛ぇ……」
昨日は、何回も何時間も、それこそ朝まで付き合わされていた。神津が満足するまで、俺が気絶しても。眠りについたのはほんの数時間前だった。
こうなる事は分かっていたのだが、神津が予想以上にしつこくて俺の方が先にギブアップしてしまった。
神津の性欲の強さは、俺が一番理解していたはずなのに。
澄ました顔して、綺麗な顔してかなり絶倫な神津は矢っ張り腹立たしいことこの上ない。
「幸せそうに寝やがって」
隣で、身体を起こした俺の腰に抱き付いてくる半裸の神津はそれはもう世界で一番幸せな人だとでも言うような表情をしている。
こんな無防備な姿を知っているのは俺だけだと思うと優越感に浸れるが、今はそれよりも眠気が勝っている。
俺は神津の頭を撫でながら欠伸をした。
ああ、このまま二度寝したい。だが、腹も減った。そう思って再び布団に潜ろうとしたとき、神津はガバッと起き上がり俺の上に覆い被さってくる。
「春ちゃん、おはよぉ」
「おう、おはよ……っ!?」
寝起きだと思えないぐらい元気の良い挨拶に返事をすれば、唇に柔らかい感触がした。
キスされたと気づいたときには既に遅く、神津はしてやったりとでも言わんばかりの顔をしていた。
「おい」
「おはようの、キス」
と、悪びれた様子もなく神津は口にする。
所謂朝チュンか、雑誌かなんかで見たが多分そんな言い方だった気がする。だが、俺たちには全く似合わないようなシチュエーションだ。
「春ちゃん、好き」
「……知ってるっての。おい、離せ朝食作りに行けねえだろうが」
「良いもーん、僕、春ちゃん食べるから」
「朝からつまんねえこといってんじゃねえ。んな、変態親父みたいな」
神津の下から抜け出そうと必死にもがくが、中々抜け出せない。小学生までは俺より小さかったくせに今では俺の身長なんてとうに超している。少し見上げなければならないぐらいの身長差。脚も長くてほどよく筋肉もついている。何を食べればそんなに大きくなって、筋肉がつくのか。筋肉がつかない体質故に男として嫉妬してしまう。
そして、そんな男に俺は抱かれているわけで。
「ん~でも、今日春ちゃんご飯当番じゃないじゃん」
「良いんだよ。作りたい気分なんだ。いいから離せ」
え~と不満げに口を尖らせる神津の顔を押し退けると俺はようやく解放された。
「マフィン食べたーい」
「はあ? んな具材、家にねえだろ」
まだ眠たいのかベッドから起き上がる気配のない神津の声が聞える。俺は、無茶な要求に怒鳴り返しつつも、キッチンに向かい冷蔵庫を開ける。案の定、空っぽの冷蔵庫には調味料と、卵、牛乳ぐらいしかない。カウンターに置かれているのは食パンでとてもじゃないがマフィンは作れそうになかった。
俺の稼ぎが少ないからこうなっている。
マンションの一室を借りて探偵事務所を営んでいる。自宅兼、事務所。そして、そんなマンションの一室で同棲……同居をしている。
一応、依頼は来るもののその収入は決して高いとは言えない。まあ、それも仕方がない事なのだが。今は、神津のすねをかじっている状況。彼奴の稼ぎは、俺よりも多い。俺の事務所に所属している身でありながら、フリーで依頼を受けていることもある為、猫人捜しと浮気調査ぐらいしか依頼の来ない俺とは訳が違う。
そんな事を考えているうちに、神津は寝室から出て来てソファーに座っているのが見えた。
俺は、仕方ないからマフィンもどきでも作るかともう一度冷蔵庫を漁る。すると、背中辺りに冷たく堅い何かが押し当てられた。
「……何だよ、神津」
俺の背中に当てられていたのは、拳銃だった。