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追憶の探偵

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追憶の探偵

5 - 1-case05 抜け目のない相棒

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2024年12月31日

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「……何だよ、神津」

「春ちゃん危ないよ? 目につくところに拳銃なんておいてさ」



と、俺の所有している拳銃をどこからともなく持ってきた神津は俺の背中、心臓辺りにそれを押し当てていた。今引き金を引かれたら確実に死ぬだろう。


俺が、拳銃を持っているのには深いわけがあるが、取り敢えずは警視庁から認められた拳銃所持者である。



「それで、お前はどうしたいんだよ。さすがにこの距離じゃ外しはしないだろ。引き金引けよ」

「……」



引いてみろよ。と挑発したが、彼は俺に拳銃を押し当てたまま黙ってしまった。

俺は、そんな神津の気配を感じながらため息をつく。



「冗談だ、弾は抜いてある」

「春ちゃん」

「辛気くせえなあ。つか、お前が押し当ててきたんだろ。どういうつもりだ」

「別に。僕は持っていないからね、まあほんと危ないからしまっておきなよ」



と、呆れたように拳銃をカウンターに置く神津。


俺は、それを横目に見てからマフィンを作るべく、調理器具を取り出した。一体何がしたかったのだろうか、謎である。



「で、結局は何が言いたかったんだよ」

「…………春ちゃんの、ばーか!」

「はあ!?」



いきなり馬鹿と言われ、こちとら気分が良いものではない。だが、そんな俺の怒りなど気にせず神津はソファに寝転んだ。こうみると猫のようにも思えたが、如何せん自分の方がよっぽど猫っぽいと自覚する。



(いや、別に猫じゃねえし)



ぼんやりと、ベッドの上でのことを思い出し、俺は顔を横に思いっきり振った。何度か、神津に猫みたいだと言われているからそう思っているだけだと、言い訳をする。認めたくない。



「春ちゃん、僕お腹空いたぁ」

「だー! 待ってろ、作るから」



何怒ってんの? と、いきなり叫んだ俺を見つめる神津。

きょとんとした表情を浮かべていて、まるで何も分かっていない様子だった。俺はそんな彼の視線に答えることなく料理を作り始めた。

何時ものことなのに。

神津は変なのーと呟きつつ、テレビの電源を入れる。



『先日捌剣やつるぎ市で起った爆破事件ですが、現在も犯人は分かっておらず、調査中とのことで――――』

「春ちゃん、爆破事件だって。それも電車の」



と、テレビを見て興味深そうにしている神津。俺はちらりとリビングに置かれているテレビに目を向ける。


テレビに映っていたのは、先日の爆破事件のことだった。何でも俺たちが住んでいる市に通っている電車が爆破されたとか。それも予告もなしに。

俺は作業をしている手を止める。



「犯人捕まってないんだって」



そう口にした神津は、俺に目で訴えかけてきた。言いたいことは分かる。



「それぐらい大きな依頼が舞い込んでこればな」



そう返すと、神津は俺の言葉の意味を理解したのか、クスリと笑った。

あの爆発はきっと単発ではないのだろう。きっとまた同じ奴が繰り返すに違いないと、俺の勘が働く。その爆弾魔を突き止めて捕まえることができれば、事件を解決できれば凄い手柄になる。

まあそもそも、そんな大事件は俺に依頼してこないと思うが。



「ほら、出来たぞ」

「これ、マフィンじゃないじゃん」



出来立てほやほやのマフィンではなく、トーストの上にマフィンの具を乗せたものを神津の前に差し出す。

神津は、不服そうな声をあげつつも嬉しそうにしていた。

相変わらず素直な奴だと思う。

いただきますと、俺が席に着いたところで二人で合掌する。神津が俺の元に帰ってきてから何度目かの朝。

熱そうにはふはふと口を動かしながら、神津は俺の方をちらりと見た。若竹色の瞳は光を帯びてキラキラと輝いている。亜麻色の髪もまだぼさぼさで、ほのかに毛先が翠がかっている。



「何だよ」

「さっきのね……春ちゃんの心臓を撃ち抜いて良いのは僕だけだーって」

「何だそりゃ」



さっきの、とはあの拳銃を突きつけてきたときのことを言っているのだろう。神津は手を止めて、じっとこちらを見つめてくる。



「僕だけ。僕のことしか見ちゃ駄目だからね」



と、脅すように、それでいて懇願するように神津は言う。



不安が見えるその瞳を見て、俺はため息をつく。



「もう、お前に撃ち抜かれてんだよ」



と、少し恥ずかしくなって小声で言えば、神津は「知ってるけど?」と返してきた。不安そうな顔してたくせに、その言葉を待ってましたかと言わんばかりに笑顔になるから、たちが悪い。言わなければよかったと。途端に恥ずかしくなってきた。



「あー……うん」

「何、照れてるの? 可愛いね春ちゃん」

「うっせえ! さっさと食っちまえ!」



俺が怒鳴れば、はーい。と返事をする神津。もごもごと口にパンを含みながら「そうだよね、春ちゃんを射止められるのは僕だけだもんね」と譫言のように呟いていた。

何だか、余計に羞恥心が増していく。

俺はそれを誤魔化そうと、神津に先ほどの事件について話を振る。



「そういや、あの事件どう思う?」

「どうって? ああ、きっと連続爆弾魔だろうって事でしょ」

「ああ」



ゴクンと飲み込んで神津は口元を手で拭う。俺は、ハンカチでも使えといいつつ考え込む。

まだ一度しか爆破されていないのにもかかわらず連続爆弾魔だろうと決めつけるのは早すぎるかも知れないし、ただの想像でしかないのだがそんな予感がしてならないのだ。今度はもっと人が集まるときに、集まる場所で――と最悪を想像してしまう。



「まあ、爆弾ぐらいなら解体できるけど」

「経験でもあんのか?」

「うーん、二、三回、いや四、五回かな。手先は器用なほうなんで」



と、両手の指をバラバラに動かす神津。


確かに、神津は手先は器用だが全く知識もないくせによく解体できるなと、海外で教えてもらったのかと聞きたくなった。俺みたいに誰かに教わったのだろうか。

神津は、だから。と話を続ける。



「この事件を春ちゃんと解決することになったら、僕が爆弾解体するから、犯人は春ちゃんが捕まえてね」



そういって微笑む神津。

俺は、一瞬キョトンとしつつフッと微笑んで拳を握る。



「おう、まかせとけ」

「期待してるよ。相棒」



そう互いに微笑んで、拳をコツンとぶつけた。

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