テラーノベル
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入学式が終わり、俺たちはそのまま部活動見学へ行った。
「弓道部は週5回練習してます。武道なので、文武両道を常に意識して一射一射心を込めて引いてます」
中学の時より断然広い射場で2、3年生が引いているところを見る。すると、何人かの先輩が話しかけてきた。
なんで弓道部を見に来たか、弓道はしたことあるか、など色んな質問をされて少し戸惑う。
「えっと、弓道部に入ろうと思ってます。中学からやってました」
「えっ、経験者なの!?」
「はい」
すごー、と目を輝かせながら言うその人はどこかあの片目を隠した男子生徒に似ていた。
寝癖がついた真っ黒の髪の毛。でも目の色素が薄いのか、琥珀色に輝いている。
「俺も経験者なんだよ。小学校の時からやってる」
「小学校!?」
「俺の家はみんなやってるんだ。じいちゃんが弓道の講師してて、弓道場もある」
「本格的ですね…」
上には上がいるという言葉があるように、俺には想像もつかないぐらい凄い人もいるんだ。
「俺の弟も君と同じ1年生だよ」
「えっ、じゃあその人も弓道部入るんですか」
「うーん…アイツは、どうかな」
「…入らないんですか?」
もしかして家でやるから高校ではやらないとか。
そういうケースは普通にある。違う先生に同時に教えてもらうのはよくないから、高校では弓道部に入らない。同じ道場の友達もそうすると言っていた。
「わかんない。弓道が好きじゃないみたいで」
「そうなんですね」
弓道一家だからと言って全員が弓道を好きになるわけじゃない。それは俺もわかっていた。
弓道は集中力と忍耐力を問われる武道だから、どうしても苦手だという人はいる。
「でも、今年の1年生にはちょっと悪いことするなぁ…」
「どういうことですか?」
あのね、と言いながら困った顔をして頭を搔く先輩。俺は首を傾げた。
「弓道部はどんどん人が少なくなっててさ。今年1年生が5人入って、それなりの成績残せないと廃部になるんだって」
「えぇっ…それなりの成績って?」
「まぁ、県ベスト8までいけたらいいほうじゃないかな」
「それって…結構厳しくないですか」
「厳しいよ」
でも、1年生が5人入ればとりあえず廃部の危機は免れるんだ。
正直、白清から弓道部がなくなると俺は弓道ができなくなってしまうから困る。通っていた弓道場は辞めたし、また戻るにしてもお金がかかるから簡単にはできない。
「あと4人…」
「ま、潰れたら俺ん所の弓道場おいでよ」
「いいんですか!?」
先輩を見る。すると俺を見てくしゃっと笑った。
「もちろん。これが弓道場の名前。んで電話番号」
「…神崎弓道場?」
「俺は神崎龍一。高校3年生だ」
神崎龍一。
そう名乗った先輩は立ち上がって弓を引いた。その射型は、あの時の記憶と重なって、俺の目に強く 焼き付いた。
「もしかしてっ、あなたがあの時優勝してた人ですか!」
気がつくと俺はその人に飛びついていた。あとから弓道部の部長に散々怒られた。当たり前だ。もしかしたら神崎先輩も俺も怪我していたかもしれないから。
少し落ち込んでいると、弓を引き終わった神崎先輩がやってきた。
「俺の射型見たことあるの?」
「はい。多分俺が小学生か、もっと前の記憶かもしれないんですけど…3人が決勝戦で勝ち残ってて、ずっと中て続けてたんです」
「んで、最終的に勝ち残ってたと。んー、まぁそういう場面は多くあったけどなー」
「えっ」
「俺、優勝したこと何十回もあるよ」
さっきの笑みとは違い、イタズラをする子供のように笑った神崎先輩はその日、1本も外さなかった。
コメント
1件
読み終わりました!弓道部の存続がかかった「あと4人」という設定、一気に物語に緊張感が出ましたね。神崎先輩のキャラがすごく魅力的です。あの優しいようでいて勝負師の顔を見せるギャップ、それに「優勝したこと何十回もあるよ」とイタズラっぽく笑う口調…一瞬でファンになりました。主人公が思わず飛びついてしまう気持ち、すごくわかります。廃部の危機があるからこそ、これからどんな仲間が集まるのか、続きが気になります!
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