テラーノベル
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一応BLのつもりで書いているので一人称は「俺」になっています
特に人物名などは決めていないので、名前を呼ぶセリフのところはご自由にどうぞ🍀
――また、思い出してしまった。
忘れたつもりだった。
忘れられると思っていた。
それなのに、街角で流れた懐かしいメロディーが、簡単に心をあの日へと連れ戻してしまう。
あの人に抱きしめられたこと。
優しく名前を呼ばれたこと。
重なった体温。
全部、ちゃんと覚えている。
忘れたいのに。
忘れられない。
「どうして……」
小さく漏れた声は、誰にも届かない。
あんなふうに触れてくれたのなら。
あんなふうに笑いかけてくれたのなら。
最後まで隣にいてくれると思った。
勝手に期待して。
勝手に幸せになって。
勝手に傷ついただけ。
そんなことは分かっている。
だから涙は流さない。
泣いたって、あの人は戻ってこないから。
思い出だけを抱えて歩くしかない。
そう決めたのに。
季節が巡るたび、街の景色が変わるたび、ふとした瞬間に思い出してしまう。
「もう、現れないで」
そう願うほど、心は逆らってしまう。
会いたい。
会ってしまったら、また好きになってしまうのに。
その日も、冷たい風が吹いていた。
見慣れた背中が、視界の端を横切る。
まさか。
そんなはずない。
目を逸らそうとしても、身体は動かなかった。
ゆっくりと振り返ったその人と、目が合う。
時間が止まる。
「……――」
その声だけで、胸の奥に閉じ込めていた想いが溢れそうになる。
どうして今さら。
どうして、そんな顔をするの。
忘れようとしていたのに。
あなたが全部壊していく。
「ごめん」
その一言だけだった。
言い訳も、取り繕う言葉もない。
ただ真っ直ぐ見つめる瞳だけが、苦しいくらい優しかった。
逃げようとした。
でも、手首をそっと掴まれる。
強引じゃない。
簡単に離してしまえそうなくらい、優しい力。
それがずるい。
「……離して」
震えた声でそう言ったのに。
本当は、離してほしくなんかなかった。
次の瞬間、ふわりと抱きしめられる。
懐かしい匂い。
懐かしい鼓動。
何度忘れようとしても忘れられなかった温もりが、すぐそばにあった。
「もう離さない」
耳元で落ちた小さな声に、張りつめていた心がほどけていく。
苦しかった日々も。
眠れなかった夜も。
全部、この腕の中で溶けていく気がした。
俺はゆっくり目を閉じる。
もう仮初めなんていらない。
隣にいる理由なんて、ひとつでいい。
あなたと笑っていたい。
それだけだから。
「……今度は、ちゃんとそばにいて」
小さくこぼれた願いに、抱きしめる腕が少しだけ強くなる。
その温もりを、今度こそ信じてみようと思った。
#短編集
コメント
1件
うわぁ…っ、もう読み終わった瞬間胸がぎゅってなったよ😭💕 「もう離さない」って耳元で囁かれるシーン、最高すぎるでしょ…!ずるいよ、そんな優しい力で掴まれたら絶対逃げられないじゃん…!! 「離して」って言いながら本当は離してほしくない気持ち、めっちゃ分かる…切なすぎて泣くかと思った🥺 また会えてよかったね、今度こそ幸せになってほしい…!続き絶対読みたいです🌸✨