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『この距離、ズルい ―お仕置き編―』
次の日。撮影現場の空気は、どこか軽やかだった。
スタッフとの会話も自然に弾んで、ふと笑みがこぼれる。
「ほんとに昨日のカット、最高でしたよ。笑顔が素敵で、つい見惚れちゃいました」
「え、そんな……やめてくださいよ〜」
冗談っぽく返したつもりだった。
けれど――
ふと、視線を感じて振り返ると。
少し離れた場所に、風磨がいた。
腕を組んで、こっちをじっと見ている。
目が合っても、微笑み返すでもなく……そのまま視線を逸らされた。
(……怒ってる?)
心臓が妙なリズムで鳴り出す。
昨日の“あのこと”も思い出して、そわそわが止まらなかった。
そして、夜。
「今日、来れる?」という短いLINE。
着いた風磨の家は、静かすぎるほど静かだった。
玄関を開けると、彼がリビングに座っていて――ソファに肘をついて、じっとこちらを見ていた。
「……おかえり」
「……うん。ただいま」
気まずい空気の中、何か言おうと口を開きかけた瞬間。
「……今日、楽しそうだったね」
低く、落ち着いた声。だけど、どこか怒気を孕んでいる。
「いや……あれはただ、仕事の話で……」
「笑ってたじゃん。楽しそうに。……あいつの前で」
(やっぱり見てた……)
言い訳を考えている間に、風磨がゆっくり立ち上がって、こっちに歩み寄ってきた。
「……俺さ、昨日泣かせたばっかだよね?」
「うん……でも、もう気にしてないよ」
「気にしてないのはお前でしょ。俺は気にしてんの」
すっと手が伸びてきて、顎を持ち上げられる。
「それなのに、他の男に笑いかけてるの見て、気が狂いそうだった」
「……風磨、ほんとにそれは――」
「言い訳、いらない」
バッサリと遮られる。
「……今日は、“お仕置き”するって決めてたから」
「え……?」
次の瞬間、風磨は私をぐっと引き寄せて、背中を壁に押しつけた。
「逃げないでよ? 俺、ちょっと本気だから」
「ふ、風磨――」
唇が、首筋に落ちる。
昨日よりも慎重に、でも確実に“痕”を残していく。
「俺のって、わかるようにしなきゃダメでしょ?」
「……誰にも見えないとこにしてよ……」
「見えるとこにも付けたいくらいだけどね」
そのままキスは肩、鎖骨へとゆっくり降りていく。
「ずっと俺だけ見てればいい。……もう、他の男に笑うな」
低く、耳元で囁かれる声が、背中をゾクッとさせた。
「お仕置きだから……覚悟して」
風磨のキスが、甘く、でもどこか強くて――
その夜、私は何度も「ごめん」と「好き」を繰り返すことになった。