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深夜、ソブール公爵邸で2人の男が執務室で過ごしていた。
「こいつがトップになったら国はいつか滅ぶ」
「ええ……おっしゃる通りです」
一人は屋敷の主、ラクシル。もう一人は執事のリットだ。
ラクシルはリットから渡されたアドリアンの主催のお茶会の報告書を読んでいた。
「どうされますか?……介入しますか?」
「冗談はよせ……公爵家は介入するな……宰相にあれだけ頼み込まれ了承したんだ」
今回のお茶会、ラクシルは報告書に目を通し終え、ため息をつく。
「……ですが、このままでは今日のようにお嬢様に被害が及びます。……それにアドリアン殿下が正式に即位されたら内乱の可能性も」
リットは聡すようにラクシルに言う。
今回のお茶会での出来事は全て把握している二人。
心配しているのは今後パーティやお茶会に参加したアレイシアが今日のような嫌がらせを受けるかもしれないと言うこと。
内乱が起こる心配。
だが、そんなリットの言葉にラクシルは。
「私はその心配はないと踏んでいるが?」
「……アレン様ですか?」
「そうだ」
ラクシルは今度は別の報告書に目を落とす。
「だが、この書かれている内容が真かは判断しかねるが、アレンくんは最近行動を起こし始めたらしいな」
「ええ……半信半疑ではありますが」
今、ラクシルが読んでいる報告書は最近の派閥が大きく動いたこと、パトラス侯爵家の茶会での騒動についての内容だ。
ラクシルはその報告書を読んで少しご機嫌になっている。
「虚偽報告はなかった。多少の内容は違えど真実だろうな。がははは。やはり私の慧眼は冴えていたようだ」
「ええ……ご慧眼恐れ入ります。……私も驚いております。まさかここまでとは」
報告書の内容には今までのアレンが行ったことについて書かれていた。
中立派へ加入、派閥の差し替え。
それをわずか1日のうちにこなした。
ラクシルはその報告を聞くも初めは懐疑的だった。だが、中立派の中核を担っていた家が他派閥に乗り換え、ユベール家とやりとりをしていた家が関係を断つなど、その後の経過報告を聞くにつけ確信へ変わる。
「……もしもの時は密約を破り介入しようと考えていたが……杞憂であったようだ」
ラクシルは再び報告書を机に置く。
そのまま椅子の背もたれに背を預けリラックスした体勢になる。
ーートン…トン…トン。
そんな時であった。
ドアから三回のノック音が聞こえた。
「旦那様、リタでございます」
ドア越しに女性の声が聞こえた。ラクシルはああ、もうそんな時間かと掛け時計を見ながら呟き中に入ることを許可した。
いつものアレイシアについての定期報告だ。
普段の生活態度や様子を聞いている。
ラクシルは普段自分を押し殺しているアレイシアのことが心配になる。
感情表現が苦手なアレイシア。ラクシル自身もどう接すれば良いかわからないでいる。そこで少しでも理解しようと1日の終わり、リタに報告をお願いしている。
「いつもすまないな」
「いえ、仕事ですので」
いつも通りのやりとりをする二人。
アレイシアの定期報告と言っても書類でまとめているわけではない。
異常がなければ口頭で伝えて終了。
だが、今日はその一言で済まないだろうとリタの様子からラクシルは察した。
「相当やつれているな」
「……はい」
そんなことありませんよ……使用人ならばそう答えるのが普通だが、10年近くの付き合い。
リタも取り繕ったところでラクシルの慧眼には隠せないと思い正直に答えている。
「……いつも通り端的で構わない、報告を頼む」
「特に異常はありません」
「……娘は気落ちしている様子だったが?」
「いえ、ご機嫌でした」
「……なるほど」
ラクシルはリタの話を聞き、夕食時に思ったことと違ったことに納得する。
ラクシルはアレイシアのことが心配だ。
だが、話しかけても「問題ありません」「大丈夫です」と返答される。
年頃の娘にどう接すれば良いかわからないラクシルだ。
このリタの報告の時間はラクシルが疑問に思っていることをリタに質問して考えのすり合わせをしている。
「……夕食の最中にサイズの合わない指輪をしていたが……あれはいつ買ったものなんだ?」
「アレン様からの贈り物だそうです」
「アレンくんは相変わらずやり手のようだ。娘と良好な関係を築けていて何より」
(会って2月も経っていないのに気難しい娘をここまで悦ばせるとは)
親子というのは難しいもので……ラクシルは内心でアレンの手腕を賞賛した。
だが、リタはラクシルの見解を聞くも微妙な顔をする。
「いえ……良好な関係とは言いづらいかと」
リタの意味深な言葉にラクシルは疑問符をつける。そして、リタに説明を求めた。
リタはラクシルに今日あったことを含め今までのアレイシアの態度の変化を言った。
「……なるほど、アレイシアは難攻不落か」
ラクシルはそうコメントせずにはいられなかった。
初めはアレイシアはアレンに緊張ゆえに素直に接することができなかったこと。
お茶会、デート、今日の一件を通して段階を踏むことで素で接することができるようになったこと。
嫌われたくないと思ってしまい緊張のあまり、会話は定型文だったが、言葉を交わしたことにより自分から質問するようになった。
今まで感じたことのない未知の感情に前向きに向き合った、それに戸惑ってアレンの前で何度もフリーズしてしまった。
リタは、アレイシアは無意識のうちに話していて嫌いにならずに積極的にアピールしてくれるアレンに安心感を抱いていると考えている。
だが、今回の一件で自分の心の内にある温もりが次第に大きくなった。
今度はそのせいで恥ずかしさのあまりアレンの前では声が小さくなってしまった。
人付き合いが苦手なアレイシア、未知の感情に自分自身が戸惑い、それが原因で素直になれないでいるのだ。
次から次へと態度が変わるアレイシア、それはまさに高難易度で難攻不落、ラクシルの言葉は的を射抜いていた。
「アレイシアのことはアレンくんに任せよう、私に対する態度も軟化してきているのは確かだ」
ラクシルはリタの説明を受け自分の娘は良い意味で前進しているとわかった。
そして、もう一つしようと思ったことができた。
「私も一歩を踏み込むとしよう」
ラクシルは一つの決心をしたのだった。
その日以降、ラクシルは暇さえあればアレイシアとの時間を作るようにした。
リタからの話を参考に話しやすい話題をチョイスしながら。
ちなみに話のほとんどがアレンについての話題だった。
こうしてアレンとアレイシアの進展とともにソブール家の停滞していた親子関係も変わり始めたのだった。