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麗太
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### 第八章:焚き火の告白、狂犬と神速の密談
洞窟の奥、賢太の闘気結界に守られた空間で、焚き火の爆ぜる音だけが規則正しく響いていた。
昼間の全滅通知がもたらした緊張の残滓のなか、色とりどりの萌え袖を膝に抱えた十四人の「おしゃべり」は、それぞれの家系が抱える、あまりにも昏く悍ましい「因縁の過去」へと狂い始めていった。
「……なぁ。みんなの本名が分かって、暗殺者たちの血の繋がりまで見えちまったんだ」
蹴介が灰色の萌え袖から覗く拳を見つめながら、静かに口を開いた。
「だったらさ、もう包み隠すのはやめようぜ。俺たちがなんでこんな化け物じみた力を持ちながら、普段は偽名を使って烏鷺ノ宮の『不殺の鉄則』に縛られてるのか。その本当の理由をさ」
その問いに、最初に答えたのは遼太だ。水色の猫耳フードを深く被り直し、冷徹な瞳で炎を見つめる。
「如縣家は、天体魔術の最高峰なんて綺麗なものじゃない。本質は、星の重力を私物化し、逆らう者の脳面を容赦なく叩き潰すための『処刑人の一族』だ。……僕が普段、理屈ばかりのクソ真面目な優等生を演じているのは、そうしていなければ、自分のなかの『処刑人の衝動』を抑え込めないからだよ」
「はるたんがそうなら、千導家も同じさ」
渉がピンクの萌え袖を冷たく震わせ、眼鏡の奥の瞳を細めた。
「千年の知性を紡ぐ魔導の最高峰。その実態は、歴史の因果をコンマ単位で改変し、都合の悪い人間を最初から『存在しなかったこと』にする、世界で最も冷酷な隠蔽工作組織だ。僕のこの『カオス・リライト』は、数千人の人生を奪った数式の上に成り立っている」
「……僕たちの『絶対電算』も、調和の『白金』も、元々は魔王軍の術式回路を内側からハメ倒すための、国家規模のペテン兵器だからね」
怜が淡々と眼鏡のブリッジを上げ、泰輝が白の犬耳を力なく揺らして同意する。
家系の闇は、それだけに留まらなかった。
前衛の要、圭介、賢太、大翔。彼らの「武門」や「索敵」のルーツもまた、かつて戦場で一振りで戦場を両断し、敵の座標をノータイムで空間スキャンして、物理・魔法攻撃を無効化しながら敵陣を圧殺するための「大量虐殺の系譜」だったのだ。
「ふん。俺たち暗殺者組の過去のやばさに比べたら、まだマシな方じゃねぇか」
瑠偉がぶっきらぼうに毒づくと、実の弟である倫太郎が、男らしい口調で力強く言葉を継いだ。
「氷狼家と宇佐美家。俺たちの本当の親は、大気を物理的に完全凍結させる俺たちの力を恐れた学院の『歴史の闇』によって、幼い頃に目の前で処刑された。俺たちが裏切られ、孤独死しかけていたのも、すべてはその『洗脳の霧』を操る何者かの策略だったんだよ」
「ボクたちの鷹神家と石神家も、笑顔のまま標的を空間ごと細切れにして『絶望の無音葬送』で消し去るための、現役の殺し屋養成機関だからねー。あはは!」
溯がポテチの袋を握りつぶし、秀兎が満面の笑みのまま底知れない狂気を滾らせる。
「……そして、俺たち大神家は、狂犬と恐れられる戦闘名門だ。手加減を間違えれば、一瞬で敵の肉体を粉砕する。だからこそ、俺はこの学院の『人殺しは厳禁』という鉄則という呪縛を歓迎している。これがないと、俺はお前たち全員を、大神流のサビにしちまいそうだからな」
蹴介が不敵に笑う。十四人全員が、世界の裏側で血を流し続けてきた「怪物たちの生存者」だった。浅草で出会ったあの初日、一人の不安に震えていた彼らは、宿命の重さに押し潰されそうになっていた孤独な魂の集まりだったのだ。
「がはは! 最高じゃねぇか、お前ら!」
赤のフードを跳ね上げ、要が豪快に笑い飛ばした。
「どんな過去があろうが、今ここにいるお前らは、タメ口で下の名前を呼び合う俺の最高の同級生だ! 明日の三日目、他の一年生を全滅させた奴らが誰だろうが、この十四人で完璧にハメ倒してやろうぜ!」
要の熱い言葉に、全員がそれぞれのフードの下で不敵な笑みを浮かべ、重い過去を夜の闇へと溶かしていった。
――深夜、午前3時。
焚き火が完全に消え、結界の中が静まり返った頃。蹴介は音もなく布団から這い出し、ある少年の枕元へと近づいた。
茶色の犬耳フードを深く被り、地味なモブ生徒Aとして気配を完全に消して寝ている、翅だ。
蹴介は翅の肩を、灰色の萌え袖越しにグッと強く掴んだ。翅の瞳が、暗闇のなかで神速の体術使いらしく鋭く見開かれる。
「……翅。ちょっと来い。お前だけ、呼び出しだ」
蹴介は声を出さず、口の動きだけでそう告げると、そのまま洞窟の入り口へと歩き出した。翅は茶色のフードを直しながら、無言でその背中を追う。
賢太の闘気結界をすり抜け、激しい嵐が吹き荒れる渓谷の崖へと出た。
雨が十四人の限定制服パーカーを濡らすなか、蹴介は翅に向き直り、灰色の萌え袖を限界まで捲り上げた。
「……おい、翅。お前、さっきの『本名暴露』の時、戦闘名門の飛影家で『神速体術・絶対領域唯我独尊』の使い手だって言ったよな」
「あぁ、そうだけど。……それが何だよ、蹴介。俺はただのモブとして平穏に生きたいんだ。わざわざこんな嵐の中に呼び出して、何の話だ?」
翅が茶色の萌え袖をぶらつかせながら、冷淡に問い返す。しかし、蹴介の瞳には、狂犬の大神家としての、獰猛で、そしてどこか悲痛な光が宿っていた。
「白々しい嘘ついてんじゃねぇよ、翅。お前のそのマッハを超える神速の身のこなし……俺の大神流の脚力が、はっきりと憶えてるんだよ」
蹴介が一歩、崖の岩を踏み荒らす。
「十年前のあの雪の夜、俺の実家を襲撃し、俺の親父の足を『肉球型の衝撃数式』でへし折って置き去りにした暗殺者……**あれ、お前の父親(飛影家の先代)だろ!!!**」
嵐の轟音のなか、蹴介の叫びが響き渡った。
翅の茶色の犬耳フードが、ピクリと不自然に跳ね上がる。
「……で、それだけじゃねぇ。その背後で、親父の背中を狙う俺の前に立ちはだかって、俺の三連獣牙烈脚をその神速の体術で完璧に防ぎきった、同い年のガキがいた」
蹴介は、雨に濡れる翅の胸元を指差した。
「翅。あの夜のガキ……**お前だったんじゃねぇのかよ!!!**」
嵐が吹き荒れる渓谷の崖の上、二人の超ロングな萌え袖が風に激しく翻るなか、極限の緊迫感が二人を包み込んでいく。
### 第九章:嵐の慟哭、双子の証明
「……それは違う、蹴介」
激しい雨が茶色の犬耳フードを叩くなか、翅は超ロングな萌え袖の先を固く握りしめ、静かに、しかし決然とした声で遮った。
「十年前のあの雪の夜、お前の前に立ちはだかって、その三連獣牙烈脚を防ぎきった神速のガキは……俺じゃない」
「……ああん!? 嘘を言うな! あの肉球型の衝撃数式を操る戦闘名門は、飛影家しかいねぇだろ!」
蹴介が灰色の萌え袖を激しく翻し、鋭い眼光で翅を睨みつける。
だが、翅の瞳に宿っていたのは、敵意ではなく、底知れない深い哀しみだった。
「嘘じゃない。……あの夜、お前と拳を交わしたのは、俺の双子の兄さん……冬夜(とうや)だ」
「双子の、兄……?」
「あぁ。飛影家の歴史の闇に巻き込まれ、俺の身代わりになって……もうこの世界にはいない。冬夜は、あの夜の任務のあと、家系の因縁で死んだよ。だから、お前が憎むべき相手は、もうどこにもいないんだ」
翅は茶色のフードを深く被り直し、溢れそうになる涙を隠すように顔を伏せた。
蹴介は突き上げた拳を、行き場を失ったように微かに震わせた。
憎むべき因縁の相手は、すでにこの世にいない。嵐の音だけが、二人の間に虚しく響き渡る。
「……そうかよ。死んだ、のか」
蹴介はふぅー、と大きく息を吐き出し、崖の岩肌に背中を預けて座り込んだ。
「悪かったな、翅。お前にとって、一番キツい過去を抉り出しちまった」
「いや、いいさ。……それより、蹴介。お前こそ、なんでそこまであの夜の事件に、その『大神家』の因縁にこだわってるんだ?」
翅が、じっと蹴介を見つめる。
実は、翅には蹴介にどうしても言えない「もう一つの真実」があった。
翅は、幼い頃に飛影家に引き取られ、家系の記録をすべて消されたが、本物のルーツは飛影家ではない。
翅の本当の血筋、それは――蹴介の、実の双子の弟だったのだ。
出会った瞬間から、魂の引力で蹴介が自分の実の兄だと気づいていた翅。
だが、大神家の過酷な宿命にこれ以上蹴介を巻き込ませたくないという思い事情から、自分が実の弟であることを、ずっと隠して黙っていた。
そんな翅の心中を知る由もない蹴介は、雨に濡れる灰色の萌え袖で顔を覆いながら、ぽつり、ぽつりと、胸が痛くなるような「本当の思い出」を語り始めた。
「……俺にはさ、幼い頃に生き別れた、双子の弟がいたんだ」
「……え?」
翅の心臓が、ドクンと大きく跳ね上がる。
「名前は、思い出せねぇ。あの十年前の雪の夜、実家が襲撃されたドタバタの最中に、歴史の闇に連れ去られちまったんだよ。……俺がもっと強ければ、大神流の脚力で、どんな神速を超えてでも、あいつの手を掴んで離さなかったのにって、今でも毎日、胸が引き裂かれそうになるんだ」
蹴介の声が、嵐の音に混じって微かに震え始める。
「あいつ, ちっちゃい頃さ、いつも俺の後ろをトコトコ付いてきてさ。俺がポテチ食ってると、『俺にもちょうだい』って、可愛い犬みたいに袖を引っ張ってくるような、頼りない奴だったんだよ。……今生きてたら、どんな顔してんだろうな。もし会えたらさ、真っ先に抱きしめて、もうどこにも行かせねぇって、言ってやりたいんだ……」
ボタボタと、蹴介の目から涙が溢れ出し、雨水と共に地面へと滴り落ちていく。
どれだけ狂犬と恐れられる戦闘名門の直系だろうが、その裏の顔は、いなくなった弟を想い続けて心を痛めている、ただの寂しい兄だった。
目の前で涙を流す実の兄の姿に、翅の胸は張り裂けんばかりに締め付けられた。
(蹴介……お前の探してる弟は、今、目の前にいるよ……!)
今すぐ兄の体に飛び込みたい衝動が翅を襲う。だが、飛影家の呪縛と歴史の闇がそれを許さない。
翅は必死に感情を押し殺し、超ロングな萌え袖の先で、静かに自分の目元を拭った。
翅の目からも、大粒の涙が静かに溢れ、雨の中に消えていく。
「……そう、か。良いお兄さんだったんだな、その弟にとっても」
翅の声は、涙で微かに震えていた。
蹴介は顔を上げ、涙を流す翅の顔をじっと見つめた。
翅がなぜ泣いているのか、その本当の理由を、蹴介はあえて何も聞かなかった。
暗殺者の家系として育った翅にも、自分には話せない、あまりにも深い事情や哀しい思い出があるのだろうと、狂犬の直感が優しく察したからだ。
「……わりぃ、翅。男二人で嵐の中で泣くなんて、常識人として恥ずかしすぎるわ。みんなのところへ戻ろうぜ」
蹴介は不敵に笑うと、灰色の袖で乱暴に涙を拭い、翅の肩をガシッと叩いた。
「あぁ。……明日の三日目は、他の一年生を全滅させた奴らを、俺たちの『神速』と『脚力』で完璧にハメ倒しに行こう、蹴介」
「おう! 任せとけ、翅!」
### 第十章:夜の静寂、語り尽くせぬ二人の涙
「……なぁ。みんなのところに戻るって言ったけどさ、やっぱり、まだ戻れねぇわ」
蹴介はそう言うと、雨足が少し弱まり始めた崖の岩肌に、力なくへたり込んだ。
灰色の萌え袖が、雨と涙で重く濡れている。
一度決壊した胸の奥の痛みが、どうしても収まらなかったのだ。
「……蹴介」
翅は茶色の犬耳フードの下から、じっと実の兄を見つめた。
彼もまた、失った兄「冬夜」の面影と、目の前で自分を求めて泣いている兄「蹴介」の存在に、心が完全に引き裂かれていた。
「いいよ。……今夜はさ、誰も見てない。先生も、他のやつらも、みんな寝てる。……気が済むまで、話そうぜ」
翅は茶色の超ロングな萌え袖を膝の上で綺麗に揃え、蹴介の隣に静かに腰掛けた。
寝付けないまま、深い闇の中で、お互いが抱える最も大切な家族への想いを、溢れる涙とともに、長い時間をかけて包み隠さず語り合っていく。
「あいつさ……俺が七歳の時、大神流の基本ステップを教えてやったら、足がもつれてすっ転んで、大泣きしやがったんだよ」
蹴介は涙をボタボタと地面へ落としながら、不器用に笑った。
「泣き虫のくせにさ、俺が風邪を引いて寝込んだ日は、どこからか変な野草を千切ってきて、『兄ちゃん、これ食べたら治るよ』って、満面の笑みで枕元に置いてくれるような、本当に優しい奴だった。……あの雪の夜、あいつを連れ去った連中の魔力を見た瞬間、俺、頭が真っ白になってさ。なんで俺の脚は、あの時マッハを、神速を超えられなかったんだって……今でも、あいつが『兄ちゃん!』って叫ぶ夢を見て、夜中に何度も目が覚めるんだよ」
濡れた灰色の袖で何度も目元を拭うが、弟への痛切な愛と後悔の涙は、一向に止まる気配がなかった。
その隣で、翅の胸は張り裂けんばかりに鳴り響いていた。
(……覚えてる。ステップを失敗して泣いたことも、野草を摘んできたことも、全部、俺だ……。お前の、目の前にいる、俺なんだよ、蹴介……!)
一緒に大泣きしたい。だが、自分が大神家の血筋であると名乗れば、歴史の闇は間違いなく蹴介の命をも狙い始める。
冬夜への想い、そして兄への想いが混ざり合い、翅の目からも、抑えきれない大粒の涙が次々と溢れ出していた。
「……俺の兄さん、冬夜もさ」
翅は茶色の萌え袖で顔を覆いながら、震える声で、死んだ兄の思い出を語り始めた。
「いつも不敵に笑っててさ、飛影家の過酷な体術の修行で、俺が筋肉を痛めて動けなくなるたびに、何も言わずに俺の代わりに二倍のメニューをこなしてくれるような、最高の兄さんだった。……あの雪の夜、冬夜は大神家の狂犬と戦う任務に、俺の身代わりとして志願したんだ。『翅は地味なモブとして、平穏に生きろ』って言って、俺に自分の茶色のパーカーを押し付けてさ。……あいつ、あの夜の傷が元で、笑顔のまま冷たくなっちまったんだよ」
翅の男泣きの声が、渓谷の夜霧に溶けていく。
「俺はさ、冬夜が命懸けで守ってくれたこの命が、時々、たまらなく重くて、怖くなるんだ。もし俺があの夜、身代わりになんてならずに、一緒に戦っていれば、冬夜を死なさずに済んだかもしれないのにって……。生き残ったのが、なんで俺んだよって、ずっと一人で、誰もいない部屋で泣いてたんだ……」
「翅……」
蹴介は、隣で激しく肩を震わせて泣く翅の背中に、そっと灰色の萌え袖を置いた。
二人の抱える孤独と痛みの深さは、驚くほどに同じだった。
「……冬夜って兄貴、めちゃくちゃカッケーな」
蹴介は涙で声を詰まらせながら、翅の肩をグッと引き寄せた。
「お前を生かすために命を張ったんだろ。だったら、お前が生き残ったことに、1ミリも引け目を感じる必要はねぇよ。あいつは、お前に幸せに生きてほしかったんだ。……俺だって、もし生き別れた弟が生きててくれたら、そいつがどんなに地味なモブとして生きてようが、生きてるだけで、それだけでいいって、心の底から思うもん」
その言葉は、翅にとって、何よりも欲しかった救いの言葉だった。
実の兄からの「生きてるだけでいい」という絶対的な肯定。
「……うん。……ありがとう、蹴介」
翅は茶色の萌え袖で何度も何度も涙を拭い、長い時間の末に、ようやく少しだけ、いつもの静かな笑顔を取り戻した。
### 第十一章:最後の一撃、もう一人の「兄さん」
「……実はさ、蹴介。俺には、もう一人兄さんがいるんだ」
東の空が白み始め、夜明けの冷たい風が二人の超ロングな萌え袖を揺らすなか、翅は茶色のフードの下からぽつりと言葉を紡いだ。
「ああん!? もう一人って……お前、冬夜って兄貴の他に、まだ兄弟がいたのかよ!?」
蹴介が腫らした目を丸くして、灰色の萌え袖をバタパタさせながら驚く。
翅は、目の前で本気で驚いている実の兄――蹴介の顔をじっと見つめた。
翅は蹴介に「お前自身のことだ」と気づかれない程度に絶妙にぼかして、大好きな本当の兄の思い出と性格を語り始めた。
「あぁ。冬夜の他に、ずっと遠いところに、俺と同じ年の兄さんがいるんだ。……そいつはさ、一言で言うと、本当にバカで、うるさくて、絵に描いたような熱血の塊みたいな奴だったよ」
翅は茶色の萌え袖の先で目元を隠しながら、愛おしそうにクスクスと笑った。
「なんだよそれ。ヤンキーの圭介みたいな奴か?」
「いや、圭介みたいに好戦的じゃないんだ。そいつはさ、本人は『俺は常識人だ』って言い張るんだけど、やることなすこと全部肉体派の脳筋でさ。人のためにすぐ熱くなって、自分のことを差し置いてでも、誰かが傷ついてたら全力で怒ってくれる……そういう、最高に不器用な常識人」
「そいつさ、ちっちゃい頃、俺が一人で寂しそうにしてると、いつも『おい、何落ち込んでんだよ! 俺が一緒に遊んでやるよ!』って、お節介なくせに、めちゃくちゃ元気な声で俺の手を引っ張ってくれたんだ。……今、そいつがどこで何をしてるかは言えないけど、俺は、そいつのその真っ直ぐな背中を、ずっと追いかけて生きてきたんだと思う」
翅の目から、また静かに大粒の涙が溢れ、夜明けの霧の中に消えていった。
「今でもさ、そいつのことが大好きなんだ。冬夜に命を救われた俺だけど、そのもう一人の兄さんの存在が、俺の心の、一番の支えになってる」
「……そっか。お前、本当に兄貴分に恵まれてんだな、翅」
蹴介は涙で声を詰まらせながら、翅の茶色の犬耳フードの頭を、灰色の萌え袖でガシガシと乱暴に、しかし最高に優しく撫で回した。
「そいつが今どこにいようが、お前がそんなにそいつを想ってるなら、その想いは絶対に届いてるよ。同じ年なんだろ? だったら、そいつも絶対に、どこかでお前のことを毎日心配して、探して、会いたがってるに決まってる。……俺が生き別れた弟を想い続けてるみたいにな!」
「……うん。あぁ、そうだと良いな、蹴介」
翅は涙を流しながらも、胸の奥が温かい光で満たされていくのを感じていた。
兄の口から直接告げられた「毎日心配して、探して、会いたがってる」という言葉。
「よし! 今度こそ本当に朝だ! 涙も全部枯れたし、みんなのところに戻るぞ、翅!」
「あぁ。……行こう、蹴介」
夜明けの光が渓谷を満たしていくなか、二人は並んで力強く歩みを進めるのだった。
コメント
2件
泣けてくるね(?)
みぅです🤍🥀 第参話、じっくり読みました……。 洞窟での焚き火のシーン、一人ひとりの口から明かされる家系の闇が本当に重くて、胸がぎゅっとなったよ。 特に蹴介と翅の対話が……「生きてるだけでいい」って蹴介が言ったところ、涙が止まらなかった。 翅が本当のことを言えずに耐えてる姿が切なくて、でも二人の絆が確かに感じられて、この先がもっと気になる。 重い過去を背負いながらも、前に進もうとする十四人が眩しかったです🌙