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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 さほど遠くない駅近くの一画。


 小高い山を背にしたそれは、まるで地域の公民館みたいな広さの敷地と建物だった。


 左右に開くタイプの錆びついた黒い門を抜けた先には校舎みたいな四角い建物があって、これもまた学校の正面玄関みたいな出入り口が見える。敷地内には十台ほどが停められる駐車場があり、そこには六台ほどの自動車が停められていた。


 進んだ先の出入り口の脇には縦一メートルくらいの看板があって、そこには筆で書かれたような達筆で、

『全国魔法遣協会 西部支所』

 とあった。


 ……なるほど、教会ではなくて協会のほうだったか。


 まぁ、真帆たちからすればキョーカイと言えば全魔協に決まってるよな。


 そんなことをぼんやりと考えていると、

「なにボケっとしてるんです、シモハライ先輩」

 肥田木さんが不思議そうに僕を見上げて訊ねてきた。


 僕が「え? あぁ、いや」と若干返答に困っていると、


「そう言えば、シモフツくんはここに来るの、初めてでしたよね」

 と真帆が両手を合わせ、「そうでした、そうでした」と口にした。


 それからその四角い建物を手のひらで示しながら、

「こちらが全魔協の西部支所になります。わたしたち協会の加入者に、お仕事の斡旋とかお手伝いとか、いろいろしてくれるところなんですよ」


「……ここが、全魔協。なんていうか、その――」


 意外に普通の建物だね、と正直に言って良いものかどうか少しばかり悩んでいると、


「小汚い建物ですよね~。そろそろ建て替えればいいのに」

 はっきりと言い切る真帆。


 確かに、全魔協の建物は全体的に黒ずんで見える。もともとは乳白色だったのであろう壁面はところどころヒビが入り、その一部には蔦が這おうとしていた。周囲を囲むように点々と設置されている花壇の花だけが異様に綺麗だ。


 ――そう、どこまでいってもここは見た感じ公民館。しかも、一見してあまり管理されていないように見える、昔からここに建っていたような雰囲気の古臭さがそこにはあった。辺りにごみが散らかっていないのは、恐らく毎日掃除しているからだろう。


 それくらいしか言うべきことが見当たらなかった。


「魔法でどうにかならないの?」


 訊ねると、真帆は「できるとは思うんですけど……」と口を濁してから、

「まぁ、魔法使いは基本的にテケトーなので。まだ使えるから大丈夫だろって感じで全然直そうとしないんですよね。魔法を使うにしても、それなりに大事になるらしくて」


「……そうなんだ」


 思わず僕は、もう一度その建物を見上げていた。


 地上三階建ての、何の変哲もない、ただの四角い公民館風ビル。


 いや、しかしここは魔法使いたちのある意味本拠地だ。


 見た目はこんなにみすぼらしくても、きっと中に入れば魔法使いっぽいデザインの装飾とかしているのに違いない。


 そんな期待を胸に、僕は真帆や肥田木さんたちと玄関口を抜けて建物の中に足を踏み入れたのだけれども――


「……ふむ」


 中もやっぱりただの公民館だった。


 土足禁止らしく、入って右手側には靴を収めるのであろう小さなドアがたくさんついたロッカーが並んでいる。


 反対側の左に顔を向ければそこが受付になっており、比較的小さな窓の向こう側には職員たちが机に向かいながら電話や書き仕事なんかをしているのが丸見えだった。ここが事務所なのだろう。


 一段上がった床の先には二階へと続く階段があって、その脇の案内板には『二階、研修室・図書館・復元科』『三階、イベントホール』とトイレのイラスト付きで描かれている。


「どうですか? 普通すぎてビックリしたでしょ?」


「ビックリし過ぎて、なんて言えば良いのか本当にわからないよ」


「別になにも言わなくていいんじゃないですか?」


「そうだね」


 なんて取り留めのない会話をしている横で、肥田木さんは背負っていた可愛らしいウサギのリュックサックから書類を取り出すと、窓口の窓を軽く叩き、


「すいませ~ん、肥田木ですけど~。報告書を持ってきました~」


「あぁ、はーい」


 軽く返事してトトトッと小走りに駆けてきたのは、眼鏡をかけた若い男性だった。


「伝書魔法でも良かったのに」


「いえ、書くところにわかんないところがあって、直接聞いたほうが早いかな~って」


「わかんないところ? どこどこ?」


「ここなんですけど~」


 ふむ、なんかどこでも聞ける普通の会話だ。


 さっきからここには普通しかないのか。


「私たちだって、そんなに普段から魔法ばかり使ってませんからね」


 釈然としない僕の様子を察してか、真帆がそう教えてくれた。


「基本的には魔法の存在は世の中から隠されてますから、表立って何かをすることもありませんし、日常生活の便利な道具、程度でしか普通は魔法使いたちも魔法なんて使わないんですよ。目立ってしまいますからね」


「……だから、真帆はいつも怒られちゃうわけか」


 思わず笑いながら口にすると、

「……ユウくんのイジワル」

 言って、真帆はおもむろに右手を僕に向け、僕の唇の手前で何かを抓むような仕草を見せると、横にすっと、その指を一文字に引いていった。


「むぐぐぐ――っ!」

 途端に僕の口が開かなくなる。


「そんなイジワル言うんなら、しばらく黙っていてください」


「んんん! んんんっんん! んん!」


 ごめん! ごめんってば! 真帆!


 と言っているつもりなのだが、なにせ口が開かないので、「ん」しか言えない。


「なに言ってるのかわかりませ~ん!」

 ぷぷっと噴き出すように笑う真帆。


 けれど、すぐに口封じの魔法を解いてくれる。


「……ごめん」


「これからはあんまりイジワルなこと言わないでくださいね?」


 そんなに意地悪だったかなぁ、と僕は小さく頭を傾げた。


 そこへ、


「――あれぇ? 真帆じゃん。シモハライくんにつむぎも?」


 玄関口に顔を向ければ、そこには榎先輩の姿があった。

魔女と魔法使いの少女たち

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