テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
羽海汐遠
15,677
うらうら
34
ruruha
924
おちゃ @卒業まであとわずか!
439
コメント
2件
作者コメント┊︎ ナターシャちゃんはブチ切れ案件
ナターシャがイリアを庇ったシーン、すごく胸にきました……自分を顧みず飛び込むところに、彼女の強さと優しさが一気に出てたなあ。後半のヴェルク、まさかのハンマー一撃で片付ける潔さに驚きました。味方と思ってた人のコピーが現れる展開、すごく緊張感があって続きが気になります…!
「……い、イリアが二人……?」
ナターシャが目の前の光景に、思わず声を漏らした。
「ど、どうなっていますの〜!?」
プリムローズも両手で頬を押さえ、混乱した様子で二人のイリアを見比べる。
「どうしたんですか〜……?」
騒ぎに気づいたラグドールが、顔を覗かせた。
「……なんですかこれ?イリアさんって忍者でしたっけ?」
「違います……。」
イリアが即座に否定する。
状況を理解する余裕もないまま、ただ困惑だけが先に立っていた。
「ツッコんでる場合じゃないって…。」
ミシェルが険しい表情で割り込む。
「イリアとプリムは早く離れて。」
「えっ?」
突然の指示に、イリアは戸惑う。
「えっ?じゃないよ、絶対ヤバい。」
「死んでもいいわけ?」
ミシェルの語気に、その場の空気が一段と張り詰めた。
「い、いや良くないですよ……!」
「なら早く……。」
ミシェルが続けようとした、その時だった。
「……。」
もう一人のイリアが、音もなくすっと距離を詰めていた。
「イリア先輩危ないっ!!」
プリムローズの悲鳴が響く。
「っえ……!」
反射的に動いたのは、ナターシャだった。
イリアを庇うように割って入り、その体が代わりに一撃を受ける。
「はぁっ……い、イリア……大丈夫……!?」
「………だ、大丈夫……です……。」
イリアは呆然としたまま、かろうじて声を絞り出した。
「っ…ごめんなさい……ぼーっとしてました……。」
自分を責めるように、震える声で謝る。
「な、ナターシャさん……血が……。」
プリムローズがはっと息を呑んだ。
ナターシャの腕から、赤い筋が伝っていた。
「……これくらい大丈夫……。」
「かすり傷だし……全然マシ……。」
ナターシャは平然と言ってのけるが、その傷は決して軽いものには見えなかった。
「ご、ごめんなさい……私がもっとしっかりしていれば……。」
イリアは唇を噛みしめる。
「早く治療しないと……。」
「イリアさん、治療は後ですよ。」
ラグドールが冷静に制する。
「うん、先にあいつを何とかしないと……。」
ミシェルの視線が、再びもう一人のイリアへと向いた。
「……。」
もう一人のイリアは、何も語らないまま、ただじっとその場に立ち尽くしている。
表情は乏しいはずなのに、そこから発せられる圧だけが、はっきりと肌を刺した。
「…こいつ、殺意ヤバいんだけど……。」
「あ…圧倒されそう……。」
ラグドールがわずかに後ずさる。
「…なんか……気持ち悪くなってきたかも……。」
イリア自身も、その気配に当てられたように顔を青くしていた。
「い、イリア先輩…!しっかりしてください!」
プリムローズが慌てて駆け寄る。
「わたくしの手を握ってくださいまし!」
差し出された手を、イリアはすがるように握った。
「も、もう…!いい加減にしてよ!!」
痺れを切らしたナターシャが、己の爪でもう一人のイリアの腕を引っ掻いた。
「早くどっかいって……!」
その一喝に、もう一人のイリアは少し食らったようにゆっくりと後退った。
「……。」
そのまま、まるで影が薄れるように、その姿は音もなく空間へと溶けて消えていった。
「……き、消えちゃいましたわ……。」
プリムローズが呆然と呟く。
「……ここまで荒らしておいてトンズラ……?」
ミシェルが呆れたように息を吐いた。
「なかなか性格悪いですね。」
ラグドールも肩をすくめる。
「イリア…だ、大丈夫……?」
ナターシャがようやく振り返り、イリアの顔を覗き込んだ。
「大丈夫です……あれ……あの私は……?」
イリアは今起きたことを整理しきれないまま、力なく呟いた。
「もう居ませんわ…!」
「…でもまだ死んでないっぽいし、また来るだろうね。」
ミシェルの言葉に、場の空気が再び重くなる。
「…そうですか……。」
イリアは静かに目を伏せた。
「……ご、ごめん…殺した方がよかったよね……。」
ナターシャが自分の判断を悔いるように呟く。
「そんなことないですよ……。」
イリアはすぐに首を振った。
「…あの時ナターシャさんが庇ってくれなかったら、無事では済まなかったですし……。」
「……。」
ナターシャは何も言わず、ただ小さく俯いた。
「……あ、あの…イリア先輩、具合はもう大丈夫でしょうか?」
プリムローズが心配そうに顔を覗き込む。
「あっ、はい…!もう全然大丈夫です!」
「心配かけちゃいましたね……すみません……。」
イリアは無理に笑顔を作って見せた。
「よ、よかったですわ〜……。」
プリムローズがほっと胸を撫で下ろす。
「ふわぁ……。」
すると、欠伸を噛み殺しながら、ローラが廊下からのそりと姿を見せた。
「……イリア…水って……。」
その後ろから続いたララビットが、途中で言葉を止めた。
「っうわ…、なにこの惨状……!?」
床に飛び散った血痕と、ただならぬ空気に、ララビットは思わず声を上げる。
「……なぁに?…随分派手にやったわね……。」
ローラも眠気の抜けきらない目を、わずかに見開いた。
「あ、そこ危ないので近づかない方がいいですよ!」
ラグドールが慌てて二人を止める。
「……。」
ララビットは黙ったまま、皆の様子を見つめていた。
「……これ、血痕よね?」
「ただの事故じゃないわよね。何があったのかしら?」
ローラが眉をひそめて尋ねる。
「わ、わたくしもよく分かっていないのですが……。」
「とりあえず説明いたしますわ……!」
プリムローズが慌てて経緯を語り始めた。要領を得ない部分もありながらも、一通りの出来事が伝えられていく。
「イリアちゃんが二人……。」
話を聞き終えたローラが、ぽつりと繰り返す。
「全くわからないわね……。」
「ですよね……。」
ラグドールも同意するように頷いた。
「そもそも、なんで急にイリアが分身したわけ……?」
ミシェルが腕を組み、誰にともなく問いかける。
「元凶がいるとしか思えないんだけど……。」
「そうね…私もそう思うわ。」
ローラも頷いた。その言葉に、誰も明確な答えを返すことはできなかった。
沈黙が食堂に落ちる。誰もが、この異常事態の意味を測りかねていた。
――と、その静けさを破るように、階段の方から足音が響いた。
「……。」
のっそりと現れたのは、ヴェルクだった。寝起きなのか、髪は少し乱れている。
「……何これ。」
床の血痕と、集まった一同の張り詰めた顔を見比べ、ヴェルクは眉をひそめた。
「え、ヴェルクさん……?」
イリアが戸惑ったように、階段を下りてきたヴェルクを見つめる。
「……。なにか面倒事起きてる。」
その声には、寝起きにしては珍しく、はっきりとした緊張が滲んでいた。
「……あ、あそこにも……ヴェルクさんがいますわよ?」
プリムローズが震える指で、食卓の椅子を示した。
そこには、寸分違わぬ姿のヴェルクが、何事もなかったように座っていた。
「……。」
降りてきたばかりのヴェルクは、椅子のそれを一瞥すると、表情も変えないまま懐に手を入れた。
次の瞬間、その手には見覚えのない大きなハンマーが握られていた。
まるで最初からそこにあったかのように、迷いのない動きだった。
「…えっ?ちょっ、ヴェルクさ…」
イリアが止める間もなかった。
振り下ろされたハンマーは、椅子ごとコピーの体を叩き潰す。
木片の砕ける音と、何かが弾けるような気配が一瞬で入り混じり、次の瞬間には座っていたはずの姿ごと、跡形もなく消え去っていた。
「……うっわ。」
ミシェルが思わず顔を引きつらせる。
「これでいいよね。」
ヴェルクはハンマーを下ろし、淡々とそう言った。
今しがた起きたことなど、取るに足らない日常の一コマだとでも言うような静かさだった。
「………い、いいけれど……。」
ローラが呆気に取られたように呟く。
躊躇の欠片もないその手際に、驚きを隠しきれていない様子だった。
「あ、あのヴェルクさんは偽物だったんですの……?」
プリムローズが恐る恐る尋ねる。
「…そう。僕も詳細はよく分かってないけど。」
ヴェルクは短く答えると、皆の顔をゆっくりと見回した。
「分かってるところだけ説明する。」
その声には、いつもの気だるさとは違う、わずかな真剣さが滲んでいた。皆の視線が、自然とヴェルクへと集まっていく。