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羽海汐遠
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バガラジー
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空凪 せつな

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「この屋敷にコピーみたいな生命体が発生してる。」
誰も、すぐには返事をしなかった。
朝食の準備をしていたはずの食堂には、先ほどまでとはまるで違う空気が漂っている。
割れたガラスの破片。 乱れた家具。 そして、そこにいるはずのない「もう一人の自分」。
目の前で起きていることを整理しようとしても、情報が多すぎる。
「…あと、多分だけど、外部的要因。」
あまりにも淡々とした声だった。まるで、研究中に見つけた珍しい現象について話しているだけのような口調。
「…何者かがこの屋敷を襲撃しようとしてるってことですか?」
イリアが恐る恐る尋ねる。声には隠しきれない不安が滲んでいた。
「コピー」という言葉だけなら、まだ理解できる。
けれど、それが誰かによって意図的に生み出されたものだとしたら。この屋敷にいる全員が、狙われている可能性がある。
「多分ね。」
「な、なぜそんなことに……。」
プリムローズも青ざめた顔で呟く。
「知らない。一応原因を探ってみたけど無理だった。」
ヴェルクは軽く肩をすくめた。分からないことをそのまま口にする様子に、誰もそれ以上追及できなかった。
「そう……。そのコピーのいい対処方法はないの?」
ローラが冷静さを保ったまま尋ねる。
「さっきみたいに、直接だよ。」
あまりにあっさりとした返答に、プリムローズが息を呑んだ。
「そ、そんな……。」
直接。つまり、先ほどのように。
「……あ。あと……あのコピー、何故だか知らないけど、自分自身で処理しないと消えないっぽい。」
ヴェルクが思い出したように付け足す。その一言に、部屋の空気が一段と重くなった。
「え……?それって…。」
イリアの表情が強張る。
「自分のコピーは自分で何とかしないと一生消えないよ。」
自分たちと同じ姿をしたものを、自分たちの手で倒さなければならない。
その事実を改めて突きつけられ、食堂の空気がさらに重くなった。
「はぁ…?なにそのめんどくさい仕様……。」
ミシェルが苛立たしげに眉をひそめる。
「遊んでるんでしょ。」
ヴェルクは投げやりに続けた。
「じゃないと、こんな面倒くさいコピーなんて用意しない。」
「わ、私……あれを倒さないといけないんですか…?」
イリアの声が、かすかに震えていた。
「……そうですね。」
ラグドールが静かに頷く。慰めの言葉は見つからなかった。
「……。」
その返事を聞いて、イリアは小さく息を呑んだ。
「そ、そんなのダメ。何とかできないの…?」
ナターシャが思わず声を上げる。イリアを庇うような響きがあった。
「……。僕も方法を探してみるから。」
ヴェルクの表情はいつもとほとんど変わらない。
それだけ言うと、椅子を引いて立ち上がった。
「それじゃ。」
「え、ちょっとヴェルクさ……」
イリアが呼び止める間もなく、ヴェルクは踵を返した。
扉が閉まると食堂はしん、と静まり返った。
「部屋、戻っちゃいましたわね…。」
プリムローズが小さく呟く。
「…いつも通りですよ。」
イリアは力なく笑った。
そう答えたものの。こんな状況で「いつも通り」でいられることが、今は少しだけ羨ましかった。
(……せっかく全員で朝食だと思ってたのに、……なんか、めちゃくちゃになっちゃったな。)
胸の奥に小さな疲労が広がる。本来なら朝食を囲んで、今日もいつも通り一日が始まるはずだった。
それなのに。
たった一度の襲撃で、全部が崩れてしまった。
(まだ体調も万全じゃない……けど…切り替えなきゃ。)
それでも、いつまでも立ち止まってはいられない。イリアは小さく息を吐き、意識を切り替えるように顔を上げた。
「……イリア…大丈夫?」
いつの間にか、ナターシャがすぐそばまで来ていた。
心配そうにこちらを見上げている。
「あっ…ナターシャさん、私は大丈夫ですよ…!」
イリアは少し慌てたように笑う。
そして、ナターシャの腕へ視線を落とした。先ほどコピーとの戦闘で傷ついた場所。
「……そうだ!腕のお怪我治しましょうか。」
「ううん…もう治ったから大丈夫。」
ナターシャは軽く腕を見せる。傷口はすでにほとんど塞がっていた。
「あ…半神の皆さんはそうでしたね。でも一応包帯だけ巻いておきましょうか。」
「………わかった…。」
ナターシャは素直に腕を差し出した。
「はぁ…コピーね……。」
少し離れた場所で、ローラが小さく息をつく。
「コピーのヴェルクさん…全く本物と見分けがつきませんでしたわ。」
プリムローズが不安げに呟いた。
「…行動がおかしかっただけで、見た目だけなら全然わかんなかったし。」
ミシェルが腕を組みながら続ける。
「いつ本物とコピーが成り代わってても、場合によっては気づかないかもね。」
「そうですね〜……。」
ラグドールも同意するように頷いた。
「こ、怖いですわ…。」
プリムローズは自分の体をそっと抱きしめる。
「わたくしのコピーも、この屋敷に……。」
その可能性に思い至った瞬間、声が小さく震えた。
「……よし、これで大丈夫です。」
包帯を巻き終え、結び目を整える。イリアが満足げに手を止める。
「……ありがと…。」
「いえ…私こそ、ありがとうございます。」
「……うん。」
ナターシャは短く頷き、腕をそっと下ろした。
「……ふぅ、これで一段落…でしょうか…?」
プリムローズが周囲を見回しながら呟く。
「そうですね…。」
イリアは周囲を見渡す。
「……あ…割れたガラスの掃除もしないと…。」
食堂の床には、まだガラスの破片が残っていた。このままでは危ない。
「ララビットさん、そこら辺ガラスが……。」
声をかけたところで、その様子に違和感を覚える。
「……ごめん、イリア。ちょっと…私、部屋戻る。」
ララビットの声は、いつもより低く、力がなかった。俯きがちで、こちらと目を合わせようとしない。
「ララビットさん…?」
イリアが思わず手を止める。
「大丈夫ですか〜?顔色悪いですけど…。」
ラグドールも心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫、すぐ戻るから。」
ララビットは早口にそう言うと、逃げるように背を向けた。
「…ララビットさん、どうしたんでしょう?」
プリムローズが不安げにその後ろ姿を見送る。
「分かりませんね。私、何かしましたかね?」
ラグドールも少し眉を下げる。露骨に目線をそらされたことがショックだったようだ。
「私、ちょっと様子を見てくるわ。」
ローラが静かに立ち上がった。
「何かあったら呼んでちょうだいね。」
「あ、私も…。」
イリアも腰を浮かせかけるが。
「大丈夫よ、イリアちゃんはここにいて。」
ローラに柔らかく、そして少し厳しく制され、動きを止める。
「わ、わかりました…。」
ローラはそう言って、ララビットの後を追う。
残された一同は、しばらく無言で扉を見つめていた。
「あんま首突っ込まない方がいいんじゃない?」
ミシェルが扉の方を横目で見て、無関心そうに言う。
「……そうですよね。」
イリアは静かに頷き、そう答える。
イリアの視線は、しばらく閉じた扉から離れなかった。 胸の奥に、嫌な予感だけが残っていた。
窓の外では、何事もなかったかのように、穏やかな朝の光が差し込んでいた。
コメント
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作者コメント┊︎ イリアちゃんにとってはクソゲーですね
ゑぬ。さん、こんにちは〜みぅです🤍🥀 第四十三話『擬態者』読みました。 コピーは自分で倒さないと消えないっていう設定、めっちゃ重いですね……自分の姿した相手と向き合わなきゃいけないって、心理的にキツすぎる。ヴェルクさんの「めんどくさい仕様」って一言が全てを物語ってる気がしました。 イリアが「いつも通り」って言いながら、実はそれができてない切なさ。ララビットさんの異変も気になります……。まだまだ波乱の予感がしますね🌙 次話も静かに読みにきますね。ありがとうございました。