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ゆうき あきや
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厚揚げ衣
20
なんたろ
1
いちご@ホロオタ×ぴちりす
295
第48話:さらば、俺の八十四万円(※予定の五十万を大幅に超えて)〜消えた残高と、深夜のオンライン葬儀〜
四月下旬。
帯広市の空が白み始め、スズメの鳴き声がチュンチュンと長閑に響き渡る早朝。
俺は四畳半のボロアパートで、一睡もできずに血走った目をひん剥き、スマートフォンの画面を凝視していた。
オンラインバンキングのアプリを開き、画面を下にスワイプして「更新」をかける。
くるくると回るロードアイコン。
「……こい。まだだ、まだ行かないでくれ。俺の諭吉……」
パッ、と画面が切り替わった。
『預金残高:1,905,140円』
「…………あ」
俺の喉から、間の抜けた声が漏れた。
昨日まで、確かにそこにあった『2,750,340円』という誇り高き数字。それが今、無惨にも頭の「2」を削り取られ、「1」というひ弱な数字に成り下がっていた。
震える指で「取引明細」をタップする。
そこには、冷酷無比な明朝体で、こう印字されていた。
『−845,200 フリカエノウゼイ』
「……あぁぁっ……!」
スマホが手から滑り落ち、畳の上にゴトッと鈍い音を立てた。
消えた。
俺の血と汗と涙の結晶、そしてリスナーたちが投げ込んでくれた愛の塊である八十四万五千二百円が、電子の海を渡り、国税庁という名の巨大なブラックホールへと吸い込まれてしまったのだ。
「い、逝っちまった……。俺の金が、一言の挨拶もなく……っ!」
俺は万年床の上に突っ伏し、冷たくなったスマホを抱きしめて嗚咽を漏らした。
頭では分かっていた。これは国民の義務であり、俺の金ではなく国の金なのだと。だが、いざ物理的(データ上)に口座からこの大金が消滅したという事実は、四十歳の貧乏性の心に、隕石直撃レベルのダメージを与えていた。
その日の夜。
俺は、三十一万八千五百円のゲーミングPCの電源を入れ、かつてないほど重い足取りで配信の準備を始めた。
『【オンライン葬儀】さらば、俺の八十四万円。皆で黙祷を捧げましょう』
配信画面は、俺のアバター(イケメン)以外、すべてを白黒のモノトーンに設定した。
BGMは、著作権フリーの悲しげなピアノ曲『別れの曲(ショパン)』だ。
配信開始からわずか数分で、同接(同時接続者数)は二万人を突破した。
リスナーたちは完全に空気を読み、いつもの「おっさんチワッス!」という挨拶の代わりに、チャット欄を数万個の『🙏(合掌)』の絵文字で埋め尽くしていた。
「……本日は、お足元の悪い中、俺の愛した『八十四万五千二百円』の葬儀にご参列いただき、誠にありがとうございます」
俺はマイクに向かって、本物の葬儀委員長のように、低く、掠れた声で語りかけた。
「あいつは……俺の口座にやってきた時は、本当に輝いていました。スーパーチャットや案件で、少しずつ、少しずつ積み重なってきた、俺の人生の希望そのものでした……っ」
『🙏』
『南無阿弥陀仏』
『おっさん、泣かないで』
『立派に国のために散っていったよ』
『アーメン』
「思えば……最初は『税金なんて五十万くらいだろ!』と甘く見ていました。それがどうだ。お前らアリス騎士団が『英雄に借金はさせねえ!』とか言って狂ったようにスパチャを投げたせいで、累進課税が跳ね上がり、気づけば八十四万という化け物みたいな税額に育ってしまった……!!」
俺は白黒の画面の向こうのリスナーたちに、恨みがましい目を向けた。
「全部お前らのせいだぞ! お前らの投げた金が、俺の五十万を八十四万に変異させたんだ! 俺の計画(プロット)を返せ!! なんで葬式代まで値上がりしてんだよ!!」
『wwwwwwww』
『突然の責任転嫁で草』
『俺たちのせいかよww』
『育てたのはおっさんの利益率だろww』
「笑うな! 俺は今、本気で悲しんでるんだ!」
俺は画面共有をオンにし、銀行の口座番号をモザイクで隠したうえで、あの『フリカエノウゼイ』と刻まれた無慈悲な明細画面を、二万人の前にデカデカと映し出した。
「見ろ! これがあいつの……八十四万の、最期の姿(遺影)だ! 国税庁っていう死神に、有無を言わさず連れ去られたんだよ! 頼むお前ら、あいつのために、一分間の黙祷を捧げてやってくれ……!」
俺が深く頭を垂れると、リスナーたちもそれに呼応した。
『黙祷』
『黙祷』
『安らかに眠れ、845,200円』
『次の舞台(公共事業)でも輝けよ』
『道路や橋になって俺たちを支えてくれ』
悲しげなピアノの旋律の中、二万人が帯広市の四畳半から配信される『税金の明細』に向かって黙祷を捧げるという、VTuber界隈はおろか、インターネット史上でも類を見ない、あまりにもカオスでシュールな光景が広がっていた。
だが、この厳かな(?)お葬式が、そのまま平穏に終わるはずがなかった。
『ポロロンッ!』
静寂を切り裂くように、画面の右端から極彩色のエフェクトが飛び込んできた。
俺のチャンネルの悪き伝統、いや、リスナーたちの「愛の形」である。
『スーパーチャット:10,000円(香典です。ご愁傷様でした)』
「……っ!」
俺はピクッと肩を揺らしたが、今は黙祷中だ。耐えろ。ここで怒ったらお葬式が台無しになる。
だが、その一万円の「香典」を合図に、参列者(リスナー)たちのタガが完全に外れた。
『スーパーチャット:50,000円(御霊前! アリス騎士団より!)』
『スーパーチャット:10,000円(和尚、これでうまいラーメンでも食って元気出して!)』
『スーパーチャット:5,000円(来年の税金のお葬式も楽しみにしてます!)』
『スーパーチャット:10,000円(お供え物置いときますね!)』
「だァァァァァァァァッ!!!」
俺はたまらず、三万円のゲーミングチェアから立ち上がり、マイクに向かって絶叫した。
「だから!! 何回言わせんだバカヤロウ!! お葬式で課税対象(スパチャ)を投げるなァァァ!!!」
『wwwwwwwww』
『喪主がキレたwww』
『香典(今年の売上)』
『悲しみを金で埋めるスタイル』
『税金の無限ループ葬』
「お前らが今投げたこの香典はな! 非課税じゃねえんだよ!! バッチリ『今年の事業所得』にカウントされるんだよ!! これ以上俺の売上を増やしたら、あいつ(八十四万)の死が完全に無駄になるだろうが!! お前ら、あいつを弔う気なんて最初からねえだろ!!」
俺が血涙を流しながら叫べば叫ぶほど、リスナーたちは腹を抱えて笑い、さらに大量の『香典(赤スパ)』を投げつけてくる。
白黒のモノトーンに設定したはずの配信画面が、スパチャのド派手なエフェクトによって、パチンコ屋のネオンサインのようにチカチカと輝き始めた。
「やめろォォ! 色彩が戻ってきちゃう! 葬式なんだからもっと静かにしろォォ!! 鈴木さん! もし見てるならこいつらを止めてくれェェェ!!」
俺は帯広の空に向かって、あの鉄面皮の公務員の名前を叫んだ。
もちろん、彼女が配信上で助けてくれるはずもない。俺はただ、容赦なく降り注ぐ「善意という名の税の種」を、全身で浴び続けることしかできなかった。
一時間後。
嵐のようなお葬式(スパチャ合戦)が終わり、配信の終了ボタンを押した俺は、汗だくになってゲーミングチェアに深く腰掛けた。
部屋には再び、静寂が戻ってきた。
「……はぁ。疲れた」
ふと、画面の隅に表示されている今日の『推定収益』に目をやる。
リスナーたちが投げた香典の額は、八十四万には届かないものの、またしても恐ろしい金額になっていた。
「バカな奴らだ、ほんとに」
俺は呆れたように笑いながら、大きく伸びをした。
あんなに恐れていた、大金が消え去る恐怖。
だが、こうしてリスナーたちとバカ騒ぎをして、思い切り叫んで、見送ってやった今。
俺の心の中にあった「税金に対するどす黒い執着」は、不思議とスッと消え去っていた。
「……まぁ、いっか」
俺は、すっかり残高が軽くなったオンラインバンキングの画面をそっと閉じた。
八十四万は確かに痛い。だが、残りの百九十万は、正真正銘、誰に文句を言われる筋合いもない、俺が自分の力で手にした『俺だけの金』なのだ。
窓の外からは、夜明けを告げる帯広の冷たくも清々しい風が吹き込んでくる。
四十歳の新米個人事業主は、大金を失ったはずなのに、なぜか今までにないほどの『心の軽さ』を感じながら、深く、安らかな眠りへと落ちていくのであった。
コメント
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いやっ、第48話、まさかのオンライン葬儀回で草ww 白黒画面で黙祷捧げてるのに、スパチャで色彩が戻ってくるの、シュールすぎて笑ったわ。おっさんの「税金はお前らのせいだ!」って責任転嫁からの逆ギレ、最高すぎる。でも、八十四万消えたのに最後に「まぁいっか」って受け入れてるのが、なんかじんわり来た。読んでておっさんのこと、好きになっちゃうわ。次も楽しみにしてる🔥