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「美希、そろそろ起きろー!」
「んん……あと5分……」
「昨日もそれ言って遅刻しかけただろ」
「うぅ……」
朝からお兄ちゃんの声が響く。
いつもと変わらない朝。
……のはずだった。
「ほら、早くしないと置いてくぞ」
「わかったってば!」
私は慌ててベッドから起き上がった。
昨日見つけた手紙のことが、ずっと頭から離れない。
『美希が大きくなったら、いつか本当のことを話さなければならない。』
本当のことって、何なんだろう。
私には、何か秘密があるの?
「……美希?」
「えっ!?」
気づくと、湊が不思議そうに私を見ていた。
「今日、なんか変じゃね?」
「そ、そんなことないよ!」
「……ならいいけど」
湊は少し心配そうな顔をしたあと、部屋を出ていった。
……やっぱり、かっこいい。
って、今はそんなこと考えてる場合じゃない!
*****
「美希、おはよ!」
教室に入ると、花音が駆け寄ってきた。
「おはよー!」
「ねえねえ、昨日の話なんだけどさ」
「……昨日?」
「湊先輩と血が繋がってるのかって話!」
「あっ……」
そうだった。
昨日、花音に言われたこと。
「……何もわかんないよ」
「そっか……。ごめんね、変なこと聞いて」
「ううん、大丈夫!」
私は笑ってみせた。
でも、本当は不安だった。
もし、花音の言うとおりだったら?
もし、私と湊が本当の兄妹じゃなかったら?
……いやいや!
そんなわけない。
私は必死に考えを振り払った。
*****
放課後。
私は日直の仕事を終え、廊下を歩いていた。
すると、教室の前で女子たちが集まっているのが見えた。
「湊先輩、今日もかっこよかったよね!」
「わかる! さっき生徒会室の前で見かけたんだけど!」
「しかも、めっちゃ優しかった!」
……まただ。
湊は本当にモテる。
私なんかとは違って、何でもできて、誰からも好かれている。
そんな湊の隣に、いつか彼女ができるんだろう。
そう考えただけで、胸が苦しくなった。
「……帰ろ」
私は小さく呟き、昇降口へ向かった。
すると――。
「美希!」
後ろから声がした。
振り返ると、そこには湊がいた。
「……え? お兄ちゃん?」
「今帰り?」
「う、うん」
「じゃあ、一緒に帰るか」
「……いいの?」
「何が?」
「だって、生徒会は?」
「今日はもう終わった」
そう言って、湊は私の隣に並んだ。
久しぶりに、二人で帰る。
それだけなのに、心臓がうるさい。
「……なあ、美希」
「な、なに?」
「最近、なんか悩んでる?」
「……え?」
「朝もぼーっとしてたし、今日も元気ないし」
湊は私の顔を覗き込んだ。
「俺でよかったら、話聞くけど」
……ずるい。
そんな優しいこと言わないでよ。
もっと好きになっちゃうじゃん。
「……何でもないよ」
私は笑ってごまかした。
「……そっか」
湊は少しだけ寂しそうな顔をした。
「無理すんなよ」
そう言って、私の頭を優しく撫でた。
……本当に、ずるい。
*****
家に帰ると、珍しく母がリビングにいた。
「おかえり、美希」
「ただいま! お母さん、今日早いね?」
「うん。今日は少しだけ早く帰れたの」
母は笑顔で答えた。
そのとき、私は思い出した。
あの手紙のこと。
「……ねえ、お母さん」
「ん? どうしたの?」
「……私に、何か隠してることある?」
母の表情が、一瞬だけ固まった。
「……え?」
「……私に、秘密とか」
沈黙が流れる。
母は困ったように笑った。
「……どうして、そんなこと聞くの?」
「……何となく」
本当は、手紙を見たことを話したかった。
でも、なぜか言い出せなかった。
母は少し考えたあと、私の頭を撫でた。
「美希。あなたには、いつか話さなければならないことがあるの」
「……っ!」
やっぱり。
何かあるんだ。
「でも、今はまだ……ごめんね」
母は申し訳なさそうに微笑んだ。
「もう少しだけ、待っていてくれる?」
私は何も言えなかった。
ただ、頷くことしかできなかった。
*****
その夜。
私はベッドの中で、何度も考えていた。
お母さんが隠している秘密。
そして、湊との関係。
もし、本当に血が繋がっていなかったら……?
そんな期待をしてしまう自分が嫌だった。
だって、もしそうだったとしても。
湊が私を妹としてしか見ていないことに、変わりはないのだから。
「……好きだよ、湊」
誰にも聞こえない声で呟いた。
そのとき。
廊下から、母と父の話し声が聞こえてきた。
「……もう、美希に話したほうがいいんじゃないか?」
父の声だった。
「……そうね。でも、湊の気持ちも考えないと……」
「……あの子たちも、もう大きくなったからな」
……湊の気持ち?
どういうこと?
私は息を潜め、二人の会話に耳を傾けた。
すると、母が小さな声で言った。
「……美希と湊は、本当の兄妹じゃないんだから」
「…………っ!?」
頭の中が、真っ白になった。
今……何て?
本当の兄妹じゃない?
……嘘でしょ?
私は布団をぎゅっと握りしめた。
ずっと当たり前だと思っていた家族の関係。
それが、今。
音を立てて崩れ始めていた。