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104 ◇温子と哲司の話し合い
雅代が工場を辞めて実家に帰っていった。
そのため、哲司は今の場所にいる意味がなくなり、今度こそ、前々から考えていた
ことだが、全面的に関係のなくなった温子の実家を引き上げる決心をするのだった。
哲司は家を出るにあたり、温子の両親への援助ができなくなるので彼らを援助して
あげてほしいと温子の元へ頼みに行くことにした。
どういう反応で返されるのか戦々恐々ではあったが、自分だけで2家族を養っていくというのは現実的ではなく、このままでいいはずもない。
おそるおそる温子を訪ねて行くと心よくとまではいかないにしても、表面上はなんとかするからと言ってもらえた哲司は、安堵の吐息をもらした。
温子はこちらから父親たちを救済する気持ちはもちろんなかったのだが、哲司にはなんとかすると言ってやる。
だって、どう見ても……
世間からしてみても……
元夫の哲司が自分の両親を捨て置いて、温子とも別れ凛子には捨てられ、今や真鍋家とは何の関係もないというのに、元妻の両親にいわれるまま収入の大半を渡すなど、
聞いてあきれる……
へそで茶を沸かす……
ほどそれはおかしなことだから。
自分がすんなりと哲司の申し出を受け入れたことで、安心した体の哲司の様子を見ていて、少しばかり気になっていた雅代の話を振ってみることにした。
哲司が雅代の紹介をしてきたことと、
チラっと以前雅代が自分や珠代、絹のいるところで哲司の話になった時、工場勤務になる前は休日に時々会っていたような話を聞いていたこと、
などで前々からう~ん❔と感じていたこともあり……
もうこの先会うか会わないか分からない相手である哲司に、それとなく温子は雅代の話題を出してみた。
――――― シナリオ風 ―――――
〇製糸工場/応接室
何度か来たことのある工場の門をある決意を持ってくぐる哲司。
(N)
「雅代が工場を辞め、実家へ戻った。
それをきっかけに、哲司は温子の実家からも身を引く決意を固める。
娘を連れて、ようやく一歩を踏み出そうとしていた」
事務所や応接室のある建物に向かい、来訪を伝える。
この日も雅代が応対してくれる。
雅代に呼ばれて事務所棟に駆け付けた温子と共に応接室へと入る。
哲司(少し緊張して)
「温子さん……今までお世話になったけれど、俺はもう、こちら
家を引き上げようと思う。
ただ……これからは、君のご両親を支える余裕はなくなる。
どうか、力を貸してやってくれないか」
重い空気が一瞬流れる。
温子(冷静に、しかし穏やかに)「分かったわ。なんとかするから」
(N)
「心からの了承ではなかった。
だが――世間の目から見ても、元夫が義理の両親を養い続けるなど、あまり
にも奇妙に映る。
温子はそう判断して、静かに受け入れた」
哲司が小さく安堵の息を吐く。
◇雅代の話題
少し間を置いて、温子がさりげなく話題を切り替える。