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受け入れ準備万端で足を開いている私が言っても説得力なんかないが、それでも、後悔されたくない。がっかりもされたくない。
匡は、ふっと笑った。優しく、穏やかに。
そして、私の膝裏を持って押し上げる。
「このチャンスを逃す方が、よっぽど後悔する」
そう言った匡の表情は、さっきの、作ったキメ顔なんかよりよほど格好いいのに、彼自身は認めない。
誰が見ても胡散臭い作り笑顔が格好いいと思っている。
だから、写真写りが最悪だ。
悪いホストを演じている俳優か、悪いホストにしか見えない。
もしくは、結婚詐欺師を演じている俳優か、結婚詐欺師。
彼自身も写りの悪さはわかっている。
だが、キメ顔が間違っているとは思わず、シャッターを押すタイミングがズレていると本気で思っているのだ。
そういう、ちょっとズレたとこが好きだった……。
過去に想いを馳せている間にも、蜜口に熱い楔が当てられ、狭い入り口をゆっくり、確実に押し開く。
痛い。
出産経験があっても、長らく誰も迎え入れなかったソコは、驚くほど狭くなっているのだろう。
初体験の時でさえ、こんなに痛かったかと思うほど。
「せま……」
匡が眉をひそめて言った。
彼も痛いのかもしれない。
そう思ったら、身体から力が抜けた。
「いい年をして、何をしてるんだろ……」
私も痛みに眉をひそめて、言った。
昔はいいと思えた身体の相性も、時を経て合わなくなっているのかもしれない。
「匡、やっぱり――」
「――お互いに、セカンドバージンってやつだな」
「は?」
腰を押し進めるのを止め、匡が言った。
こめかみに汗を滲ませて、ははっと笑う。
「セカンドでも、千恵のバージンもらえて嬉しいぞ?」
黙っていれば割と爽やかなイケメンなのに、喋るとイケメンさが激減する残念さとかギャップは、相変わらず。
私も笑った。
「千恵と初めてした時、千恵の初めての男になりたかったって、思ったんだよな」
「男って、初めての男になりたがるって何かで見たけど、ホントなんだ」
「ん?」
「男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる」
私は、記憶にある誰かの有名な言葉を口にした。
「俺は違うかな」と言うと、匡はぐいっと無理矢理に腰を進めた。
「……んっ」
痛い、が、ゆっくりと受け入れる。
次第に脳が、身体が、思い出す。
ソコにオトコを迎える悦びを。
「俺は、千恵の唯一の男になりたかった」
奥まで満たされて、痛みやら気持ち良さやらの、とにかく刺激に腰が震える。
匡の言葉は耳に届いているのに、何も返せない。
「は……あ……っ」
身体が憶えている。
これから訪れる甘く蕩ける刺激の気持ち良さを。
「千恵に触れる、最初で最後の男になりたかったんだ」
腰を抱かれ、逃げられないようにされてから、さらに奥へと腰を進められる。
「最初は無理だったけど、最後にはなれるよな?」
私は顔の横でシーツを掴み、痛みに耐え、快感に備えた。
「千恵? 大丈夫か?」
「大丈夫じゃ……ない」
「痛い?」
私は頷く。
「やめないけどね」
「さい……て……」
「俺はめちゃくちゃキモチイイ」
ぐりぐりと腰を押し付けられ、互いの下生えがじょりじょりと音を立てて擦れる。
「あーーーっ! 帰ってきたってカンジ」
痛みに耐える私を無視して勝手なことばかり言う匡に我慢できず、私はグッと歯を食いしばって、お腹に力を入れた。
「おかえりとか言わないから!」
「ははっ! うん、いいよ。俺が言うから」
腰を押し付けたまま身を屈めると、匡は私の肩を抱いた。
「おかえり」
「なんで私が出てったみたいになってんの!?」
「いいじゃん! 地元に? おかえりってことで」と言って、匡がケラケラと笑う。
「よくない!」
「いーんだよ。今、こうやって合体できてることに意味があるんだから」
「酔った弾みに意味なんて――」
私の言葉は匡の口の中に消え、同時に痛みも快感にかき消された。
勢いよく引かれた腰が、今度は勢いよく最奥まで押し込まれる。
「ふっ――」
素直に声を上げるのが悔しくて、思わず息を止める。
匡はふっと息を弾ませると、きつく結んだ私の唇にキスをした。
「変わってないな」
「なに……が」
「相性。俺たち、身体の相性良かったろ」
子供はしないことをしておきながら、子供みたいに嬉しそうに顔を綻ばせる匡に、私は素直に頷く気になれなかった。
相性の良かった私を捨てたのは、匡だ。
「忘れたわ」
「じゃあ、思い出せ」
今度は意地悪に口角を上げると、容赦なく腰を打ちつけた。何度も。何度も。
「あっ、ん。んんっ――!」
こうなっては意地もなにもない。
気持ち良くて勝手に涙が溢れる。鏡に映る自分の姿を恥ずかしいと思う余裕もない。
声を我慢するどころか、呼吸の度に甲高い悲鳴のような嬌声が漏れる。
「やっ、あ、んっ……!」
激しく揺さぶられ、視界が乱れ、匡の表情もわからない。
ただ、私の声の合間に聞こえる弾む息遣いや、唸るような声は、彼が感じている証拠だと思う。
「も……無理!」
爪の先ほど残った理性と気合で、意味のある言葉を発した。が、聞こえなかったのか、聞こえているのに無視したのかはわからないが、匡の動きは止まらない。
「あーーーっ! キモチイ……」
やけくそのようにそう言い捨てた匡は、上体を起こして私と直角になる体勢になると、ピタッと腰を止めた。
私はようやく大きく深く酸素を吸い込む。
二人の荒い息遣いが部屋に響く。
汗でシーツが湿って冷たい。
「も……、終わらせて……」
声になったかは微妙な、乾いて掠れた音が出た。
「千恵」
「なに」
「おかえり」
「は……?」
『何言ってんの!?』と言いたいのに、喉の粘膜が渇いて貼り付き、声が出ない。
「おかえり」
私の気持ちとは反対に、嬉しそうに微笑む匡。
意味がわからないが、聞き返せるほど呼吸が整うには、もう少し時間が必要だ。
言葉の代わりにキッと睨むと、匡はふんっと鼻を鳴らして笑った。
「俺たち、身体の方がよっぽど正直だな」
そう言うなり、再び腰を揺らす。
「んっ――」
私は身を捩って顔の横のシーツを握った。
すると、片足がぐいっと宙に浮いた。
匡は私の足を持ち上げ、自分の肩にのせる。
私の身体は寝がえり途中のような半端な角度で止まる。
匡が腰を押し付けて、そのまま少し伸びをするように私の腰を浮かせた。
「ひゃ――」
変な角度に腰を捻りそうだ。
だが、すぐに腰は落とされた。
匡がシーツの上の私の片足を跨ぎ、もう片方の足を肩に担ぐ体勢で、目にかかる前髪を掻き上げた。
記憶の匡と変わらない仕草。
記憶の匡より大人の男の色香を感じる。
悔しいが、やはり格好いい。
「足、痛いんだけど」
「足より腰じゃないのか?」と、匡がニヤリと笑う。
年を取ったな、と笑われた気がした。
「お互い様でしょ? 体力も瞬発力もなくなったんじゃない?」
「はあ? 言ったな」
若い頃の、私の悪い癖だ。
どうしても、言われたら言い返してしまう。
匡が相手だと、なおさら。
別れた旦那と付き合うようになって、自制するように気をつけた。
思えばずっと、神経すり減らして生きてきた。
別れた旦那は、気が弱いくせに見栄っ張りで、私に貞淑な妻を求めるくせに甘えたがった。
ちゃんと愛していた。
自分勝手なところもあったけれど、私を愛して可愛がってくれる彼を、信じていた。
あの頃の私を殴りたい……。
「なに、やってんだろ……」
別れた旦那のことを考えると、急速に身体の熱が引いた。
「え? セックス」
「じゃなくて!」
「セックスだろ? 最高に気持ちイイの」
匡のとぼけた言葉に気が抜ける。
「はいはい。わかったから、さっさと終わらせ――っ、ちょ――」
担いだ足を抱き、腰を振り始めたかと思えば、繋がっているトコロを空いている手で撫でた。
「匡! それ、ダ――」
「――知ってる。お前、コレ、すぐイクんだよな?」
クリクリと指先で膨らみを捏ねられながら、最奥を突かれれば、私じゃなくてもイクと思う。
「あっ、あんっ、んんっ――!」
「締まってきた。イキそ?」
「ふぅ……ん。んっ……」
「ちょ――、早くイケよ。俺の方が……やば――っ」
そう聞けば、意味不明な対抗心が燃えた。
私より先にイカせて、ニヤけた顔を歪ませてやりたくなる。
が、激しく貫かれて、気を抜くと簡単にイキそうな状況で、私が出来ることなどない。
だからといって早々にイクのは嫌で、ぐっと下腹部に力を入れた。
「バカッ! そんな――」
ぐちゅっと、生々しい蜜音がして、匡が腰を突き上げ、止めた。
膣内のカレがびくびくと跳ね、熱い精を吐き出しているのを感じる。
耐え抜いた私は、勝った、なんて思った。
イケなくて不完全燃焼なくせに。
匡は私の足を抱いたまま首をもたげ、吐精の快感に支配されていた。
匡の言う通りなのは悔しいが、いい加減腰が怠い。
「匡、足、はな――あ……っ~~! 」
力を抜いた途端、下生えに隠れて油断していた膨らみを激しく擦られ、無抵抗にイカされてしまった。
匡を咥えたまま下腹部が痙攣し、腰が丸くなる。
「めっちゃうねってる。こん中でイキたかったのに」
憎らしい笑みを横目に、私は残っていたアルコールと絶頂の高揚感に身を任せ、ゆっくりと瞼を下ろした。
だから、聞こえた言葉が現実か幻聴かは、判断できなかった。
「おかえり、千恵。もう離さない……」