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「ブリジットが死んでから……西の森に?」
「いいえ。50年ぐらいは心が壊れてしまい、ずっと眠っていました。それから地上に降りて世界を巡り歩いて、そこで海竜魚族の《高魔力保持者》に会い、他種族が安全に暮らせる場所を作ろうと、西の森領域を全て私の管理下に収めました。……ここに住んでまだ180年ぐらいでしょうか」
「ひゃ……」
「君が生まれ変わるまで、だいたい360年経っています」
「さんびゃくろくじゅう……」
「ふふっ、驚いた顔も可愛いですね。……ブリジットという《片翼》を得たことで、私の寿命は飛躍的に延びたのです。それにブリジットに、私の角を譲渡したことで、魔力質量が落ち着き、魔力の淀みもなくなったのです」
説明している時のルティは毅然としてとっても凜々しいのだけど、話し終わると私にべったりでキスをしてくる。
(嬉しいのだけれど、本当に我慢しているのかしら?)
「他に質問もないなら──」
「幼馴染みと義弟は、あのあと結局どうなったの?」
「最終的には天上の神々が魂を回収していった。歪みきった魂にはふさわしい場所がある、と言ってね」
今でも実の弟に対して激怒しているようで、額に青筋を立てているのが見えた。私も許す気は無い。
「天上の神々曰く魂までも壊して無に返したので、永劫転生することはないそうです」
「あ、はい……(満面な笑みなのが、逆に怖い)」
「他に聞きたいことは?」
ルティはぐいぐい来る。もうルティは隠しごとを止めようと思ったのだろう。だから私は大事なことを尋ねた。
「……360年辛いことや悲しいことは、ありませんでしたか?」
その言葉にルティは泣きそうな顔を見せた。
「ブリジットを失った以上に、悲しいことはありませんでした。それに『片翼殺し』という名は多種族の《片翼》と関わる機会にも恵まれましたし、人族の感覚を肌で感じる時間も悪くはなかったのです」
「友人はできました?」
「ええ。……海辺の近くに住んでいる友人がいます。他にも遠方ですが……」
「今度、紹介してほしいわ」
「そうですね。少し遠いですが、春になったら……」
そう言ってくれるルティに、口元が緩んだ。
「今思えば、天上の神々の采配は見事だったと思うの。……再びこの世界に転生しても、同じような悲劇が起こっていたと思うわ。異世界という特殊な世界で生活して一通りのことが自分でできるようになって、様々な価値観、多彩的な強さ、異世界の知識や経験があったからこそ……。春夏秋冬雫だからルティを好きになれた」
「シズク」
回り道だったかもしれなかったけれど、そこには意味があったのだ。そう思えるようになったのは、ルティと一緒にいる今があるから。
「……シズク。他に質問がなければ……触れてもいいですか?」
「触れ……!? 今も十分過ぎるほど密着して触れ合っている気がするのですが?」
「うん……でも、この夢のような今が、本物だと……思いのです……」
(うう……。そりゃあ、両思いになったので吝かではないけれど、展開が早すぎるというか、性急というか心の準備が……)
甘い声音に、何度もキスをしてくる。ルティは本気だ。けれど私が「まだしたくない」と言ったら、引き下がるだけの理性は残していると思う。
「求愛紋を施したい」
「ルティ、そのええっと…………ん、求愛紋?」
「シズク?」
お互いに「?」というのが頭上に浮かんだ。
「求愛紋って……ええっと、伴侶になる証?」
「そうです。別に教会じゃなくても、双方の承諾があればできるのですが、……やっぱり早計でしたでしょうか」
「…………っ」
自分でも驚くほど盛大な勘違いをしていたことに気づき、全身の熱が一気に上昇した。てっきりこのまま番うのかと思っていた自分が恥ずかしい。
(ひゃああああああああ! な、なんて勘違いを!! 触れたいっていうからてっきり……ああああああーーー! 恥ずかしい!)
「え? ……ハッ、もしかして私が触れると言ったから、その……初夜的なことまですると……」
「ひゃあああ……わかっていても口にしないでください! 恥ずかしさで辛い……ルティ、三分前の記憶を捨ててください!」
「絶対に嫌です」
「即答!?」
「……つまりは私とそうなることまで想像して、照れたというのでしょう。どうしてそんな素敵なことを忘れなければならないのですか」
「私が恥ずかしくて死にそうだからです!」
「可愛い。絶対に忘れません。日記に──」
「──って、求愛紋を刻んだら半年以上、ルティの名前が呼べなくなるのでは? それに……その魔力炉とか形成するために……その……とにかく私の考えは的外れじゃないのでしょう?」
前世の記憶とジーナ王女たちと話していた内容を繋げると、私の想像は間違いではない。
(危なかった。危うく前世と同じような展開になるところだったわ。いやまあ、両思いなのはいいけれど……夜の時間が長くなり過ぎるのは、抵抗がちょっとある。また器としてしか求められなかったら、前世以上に絶望しそうだもの)
ルティは小首を傾げつつ、何のことか察したようだ。
「ん? ああ、本来ならそうですが、シズクは違いますよ」
「ファッツ?」
「私の角を魔力炉として使えるように、術式をかけておいたので、シズクとして生まれた時から、魔力炉と魔力回線が形成するようにしておきました。転生した肉体に負荷が掛からないように体の成長と共にできあがっています。これなら求愛紋を施しても、前世のように名前呼びができなくなることや、夜の生活……夜……私としては、シズクが良いと言うまでは、そのできるだけ我慢します……」
「ひゃい」
「情熱的な夜の時間は幸福でしたが、ブリジットの毒を解毒したいとか、魔力炉を形成するためと焦っていたのも事実です。……ですので、シズクのペースに合わせたいのです」
「ルティ」
ルティの言葉を聞いて心から安堵した。私と同じように今の生活スタイルを大切にして、考えてくれていたのだと分かると不安など消えてしまった。
その日、私は心からルティの《片翼》として、求愛紋を施して貰った。胸元に刻まれた紋様は前世よりもハートに似た紋様が色濃く、そして輝いていた。
コメント
1件
ええ〜!?360年も待ってたの!?😭💕 しかも全部シズクのためだったって…ルティの一途さに泣ける… あと「絶対に忘れません」「日記に──」の流れ、ちょっと笑ったけどめっちゃエモい〜! 勘違いしちゃうシズクも可愛すぎるし、お互いのペース大事にするってとこが尊すぎる…! 求愛紋の刻みシーン、胸が熱くなったよ…✨
#恋愛
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