テラーノベル
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#恋愛
#長編
求愛紋を得て世界が一変した──なんてことはなかった。私にはルティとの繋がりを感じる証というぐらいで、もちろん魔法も使えない。ルティの九つの尻尾は、ふさふわで、いつにも増して上機嫌だ。そんな私はモフモフの尾が気になってしまい、ルティに言って抱きつかせてもらっている。
「モフモフ具合は最高」
「シズクからの求愛……」
「そうなの?」
「尾に触れる、毛繕いは恋人や伴侶の特権なのです。……シズクからの求愛」
右も左もモフモフに包まれて温かい。最近、眷族のシロとハクが私にべったりしているのが気に入らなかったのか、代わりにルティが私にべったりだ。
冬毛だからモフモフ具合がすごいけど、艶もあって綺麗だし、いつもハーブの香りが鼻腔をくすぐる。
「シズクが大胆になって嬉しいですが、私の尻尾ばかりではなく私も構ってほしいです」
「んー、それなら耳掃除でもする?」
「膝枕もセットですか?」
「もちろん」
二人用のソファにゴロンと横になるルティは、いつになくデレデレして、なんだか可愛らしい。
「おお……。なんというか、一日で随分な変わりようだな」
「カシミロ殿下……! そうでした! おもてなしもできずに、昨日はすみませんでした」
立ち上がろうにもルティが全力で……というか尻尾も使って巻きつくので、動けなかった。
小国ペルニーアの王子カシミロ殿下は、黒ズボン、ブーツ、白いシャツに厚手のカーディガンを羽織って、だいぶラフな格好で現れた。
「シズク、その男に遜る必要はありませんよ。それと私の頭を撫でるほうが大事なのでは?」
「ルティ、でもこの方はお客様で…………。そうでした。私が襲われそうになった時に放置した方でした」
「それなら放置して問題ないだろう」
「それは……」
昨日のことを思い返し、王族だけれど傅く必要ないような気がするという結論に至ってしまった。見殺しにされた恨みは根深いのだ。
「その件に関しては大変申し訳なかった!」
「(あっさり頭を下げるなんて……)ええっと、……そういえばルティが追い出した不法侵入者はどうしたの?」
「冒険者ギルドの前に縛って放っておきましたよ。まあ、死んではいないでしょうが」
おお、ちゃんと冒険者ギルドに届けるなんて素晴らしい。てっきり凍死させて殺してしまったのかと、少し焦ったのだ。
カシミロ殿下は深々と頭を下げて謝罪したので受け入れ、座るように促した。ルティ様は「シズクが優しすぎる」とぼやいていたが、一応一国の王子相手にあまり不遜な態度は禍根を残す。そうなると面倒事が増える可能性もある。
そう耳打ちしたら「シズク。耳元で名前を呼んでほしい」と、照れながら斜め上の返答が返ってきたので「後で」と言い聞かせた。
「……謝罪を受け入れてくれて感謝する。話を纏めると、ベルキとチェフは冒険者ギルドにいるのだな」
「そんな名前でしたかね。シズクに襲いかかった時点で、死よりも辛い悪夢魔法も掛けておきました」
(そんなことまで……)
「あの二人。元冒険者で指名手配されていたようだが、どういう経緯で雇った?」
ルティは私以外には、王族であろうと横柄な物言いっぽい。ちょっと雰囲気が違って、なんだかヴィクトル様を彷彿とさせる。
(私の時とは話し方が少し違うのがなんだか新鮮でいいな)
カシミロ殿下は今回の経緯を改めて話してくれた。なんでも騎士団と共に旅をしていたが、事故による土砂崩れで分断された途中で、彼らを雇ったのだとか。
「我が国ペルニーアは小国だがカラクリ技術が発達していて、林檎農園もありそれなりに裕福だ。帝国とも協定を結んでおり、国交を開いていたが一年前に父──国王陛下が病に倒れ、現在は叔父上と王位継承争いで揉めている。おそらく騎士団も叔父上の側近あるいは、一派の手の者だろう」
「そうか(どうでもいい)」
「(ペルニーア小国、聞いたことがないけれど、どの辺なのかしら?)王族も大変ですね……」
前世王女だった私と、天狐国の次期国王だったルティ、そして王位継承争い中の王子。なんともすごいメンバーが揃っている。まあ今はただのシズクと、ルティだが。
「シズク殿、今回の非礼として、王家に代々伝わる懐中時計を献上したい」
「わっ、すごい。年代物だわ」
「シズク。それぐらい私がいくらでも買って上げますので、その男からもらった物は捨ててください。いえ、受け取らないでください返品です」
ルティは何故かカシミロ殿下に対して辛辣なようだ。昨日は冷静じゃなかったけれど、今日は棘のある言葉が目立つ。
カチリ、と開いた懐中時計から、オルゴールが流れた。
「あ」
コメント
1件
うわぁ、ルティのデレデレがすごい…! 求愛紋ができてからさらにべったりになって、毛繕いや耳掃除のやりとりがもう甘々で仕方ないですね🥺💕 でもカシミロ殿下へのあの塩対応、ギャップが面白いです。“シズクの耳元で名前を呼んでほしい”なんて斜め上の返し、完全にシズクに夢中ですね(笑) 懐中時計のオルゴールが流れたところで終わってて、何か起きそうな気配…続きが気になります。