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公都『ヤマト』―――
その中にある『ガッコウ』施設。
そこの実習用の体育館のような建物で、
二十人ほどの生徒、そして彼らの保護者が席に
座り、壇上の人の祝辞を聞いていた。
「えー、君たちはこの『ガッコウ』において、
大変優秀な成績を収めました。
ここにそれを表し、卒業を認めます。
これからはその能力を大きく世に広め、
活躍してください」
そして一人一人卒業証書を受け取り―――
盛大な拍手の中、卒業式は終了。
そのまま、関係者と共に立食パーティーへと
移行した。
「お疲れ様でした、クーロウさん」
「ははは、緊張しましたよ。
しかし無事終わって何よりです」
私は、すっかり白髪となった短髪の、
六十代くらいの老人に労いの言葉をかける。
彼はクーロウ公都長代理だ。
いや、正確には『元』だが。
紆余曲折あったものの―――
(■37話 はじめての かんげい参照)
長年、ここの町長代理を務めあげ、公都に
なってからは公都長代理となり……
私にとっても、町の開発でいろいろと
お世話になった、関わりの深い人物である。
「すいません、いろいろとわがままを
聞いて頂いて―――」
「いやいや!
私が町長代理を続けてこられたのも、シンさんの
おかげです。
それに、この年で定期的な収入があるというのは
魅力的ですからな。
次の公都長代理につきましても、お力添えを
頂きましたし」
実はクーロウさんは、娘夫婦がこの公都に来たのを
機に、隠居する予定であった。
そして『ガッコウ』は―――
実質的な代表者が言い出しっぺかつ出資比率で、
私になっており……
そこでクーロウさんの隠居の話を聞いて、
『ガッコウ』の最高責任者になってくれないかと
頼み込んだのである。
また、公都長代理の後釜にはクーロウさんの
娘夫婦、その夫になってもらい―――
人脈も継続。
そして初の卒業式に、何とか間に合わせたので
あった。
「シンー」
「ここにおったのか」
「ピュッ」
そこへ私の家族が合流する。
「ああ、『ガッコウ』長に挨拶していたんだよ」
メルとアルテリーゼ―――
二人に取っても縁のある人物だ。
「あ、クーロウさん」
「我らの夫がいつもお世話になって―――」
「ピュウ」
妻二人も頭を下げて挨拶し、
「とんでもございません。
こちらの方こそお世話になりっぱなしで。
孫もラッチちゃんと仲良くして頂き、
感謝しております。
たまには、家まで遊びに来てくだされ」
社交辞令ではあるだろうが―――
子供同士仲が良いと言われて悪い気はしない。
「おー、『ガッコウ』長。
それにシンもお疲れ」
ふと、筋肉質のアラフィフの男に声を掛けられる。
「これはどうも、ギルド長」
「ジャンさん」
クーロウさんと私は彼と向き合い一礼し、
「そういえば、今年は20人ほど卒業という
事になりましたが……
彼らの進路先は決まっているんですか?」
「ほぼ決まっているぞ?
確か料理人として5人、米を炊くのがメインの
雑用・使用人として5人―――
この連中は豪商や貴族に雇われる。
ブーメランの使い手が3人ほど。
こっちは一応冒険者だな。
他は鳥や魚のトラップ魔法の使い手と、
氷魔法の使い手……
冒険者になるか業者になるかはわからんが、
引く手あまただからなあ」
おおよそ予想通りというか―――
なるようになったらしい。
実際、自分がブーメランやトラップをこの世界に
持ち込んだ際、冒険者ギルドでも、
・少しでも風魔法の素質がある
→ブーメランの使い手にする。
・これといった魔法の素質無し
→鳥や魚を捕まえるトラップ魔法の使い手にする。
というのが主な方針になった。
ブーメランに関しては、自分が風魔法を使える事が
条件と設定してしまったためで、
トラップ魔法も、魔力・魔法が前提のこの世界に
合わせて設定を作ったものだ。
真面目に勉強して料理を覚えればいろいろと
働き口が増えるし、それが一番なのだが……
「うまくお米が炊けるってだけでも、
どこの料理店も欲しがっているしねー」
「弱い火魔法しか使えない者でも、
それは出来るからのう。
むしろ調整出来る方が重宝がられる」
メルとアルテリーゼの言う通り、
今のところ、需要が供給を上回っている
状態だし―――
炊飯魔導具も高値にも関わらず、注文に
まったく追いついていないと聞いている。
しばらくは安泰のはず。
「炊飯魔導具も、この公都っつーか
ドーン伯爵領でも、たった3台しか
ねぇからなあ。
うまい米を食いたきゃ、まだまだ炊く技術者は
必要だ」
私の心を見透かしたかのように、ギルド長が
補足する。
「あれ?
でも炊飯魔導具って、ギルド支部と
宿屋『クラン』でしか見た事無いですけど」
「あと1台はドーン伯爵サマのお屋敷だよ。
公都にある王家専用施設に献上しようと
したそうだが……
『公都のいろいろな料理を注文したい』
って事で、ナイアータ殿下が辞退したそうだ」
それで伯爵家にいったという事か。
あそこもそこそこ人が多かったし―――
宝の持ち腐れにはならないだろう。
「しかし、20人ですか。
少し寂しくなりますね」
「あん? 何でだ?」
私の言葉に、すかさずジャンさんが聞き返し、
「いやだって、卒業生は貴族や豪商に
雇われるんでしょう?
王都行きなら、それほど遠くはないかも
知れませんけど」
すると彼はガシガシとその白髪交じりの頭を
かいて、
「半分は富裕層地区―――
ここの西地区行きだよ。
何人かは東の村、その中間地点、
それにブリガン伯爵領との中間に作った
開拓地に流れたが。
冒険者になるヤツも、ウチを希望しているしな」
えぇ……
せっかく習得した技術、各地に広めて欲しいのに。
「それじゃ一極集中になってしまいます……
国外までとは言いませんが、もっといろいろな
場所に行って欲しいなあ」
私が不満を口にすると、アジアンチックと
ヨーロッパふうの対照的な妻二人が、
「だってねー。
そりゃー仕方ないよ」
「よほどの物好きでも無ければ、働く場所は
ココ一択であろうのう」
「ピュウイッ!」
コホン、と中で一番年上であろう『ガッコウ』長も
話に入り、
「ここで育った子供たちは―――
自然とそうなりましょう。
まあ、各国から留学生も受け入れておりますし、
そちらは彼らに任せれば」
日本レベルに生活を引き上げたからなあ。
無理に出て行く必要は無い、か。
外に出る人には支度金や何かしら考えないと。
「あっ、ギルド長!」
「そろそろ児童預かり所へ行きますよー」
いろいろ考えていると、褐色肌の青年と
丸眼鏡の女性―――
レイド夫妻がこちらにやって来て声をかける。
「何か用事でも?」
「あー、卒業した中に児童預かり所にいた
チビどももいるんだよ。
そのお祝いもやる事になってるから」
あー、そうか。
確か『ガッコウ』施設は基本的に、この国の
成人年齢で卒業させるように設定したんだっけ。
それは同時に、児童預かり所を去るという事で……
「じゃあ、そっちは本当に寂しく
なっちゃいますね」
「とはいえ公都にいるのであろう?」
メルとアルテリーゼが気遣って話すと、
「いや、それがそうでもないんスよ」
「今回卒業したのは女子3人ですけど、
彼女たちはそのまま、児童預かり所と
冒険者ギルドの職員になりましたので。
住む場所が職員用の部屋に変わった
くらいですね」
そういえば各施設の職員寮も充実していたっけ……
何ていうか、生まれから墓場まで公都で完結しつつ
あるような。
新たに生じた悩みを抱え―――
私はそれを表に出さないよう、『卒業式』の
時間を過ごした。
「シン殿!」
「羽狐様の毛並みが変わったというのは、
本当ですか!?」
卒業式から数日後―――
予め、チエゴ国のルクレさんに手紙を送り、
『ほな近いうちに公都行くわ』という返信を
受け取った私は……
頃合いを見て羽狐たちの『魔力』を無効化させ、
五体全ての羽狐の毛並みは、見事にシルバーに
染まったのであった。
その報告を受けて、ゼンガーさんにミントさん、
同じ赤毛を持つ獣人族の兄妹が駆け付け、
「おぉお……!
確かに、フェンリル様と同じく銀の毛並みに
なっております!」
「これでいつでも、フェンリル様に御目通り
出来ましょう!」
二人の話を聞いて、羽狐たちは満足そうな
表情を浮かべる。
「しかし、魔力を極限まで抑えたという
事だけど、大丈夫?」
メルが心配そうにたずねる。
彼らが毛並みを銀色に変える修行方法とは―――
体内の魔力を極限まで減らす事。
魔力が無くなって、すぐに死ぬという事は無いが、
生命活動を魔力で補うのが前提のこの世界……
言ってみれば私と同じ状態になったという事で。
「あー……
『すぐに腹が減ってしまう』と言っております」
「ですが、ここは食料が豊富にあるので―――
今のところ、これといった不便は無いそうです」
ゼンガーさんとミーオさんの通訳に、ホッと
胸をなでおろす。
「まあそうじゃな。
少なくともここで餓死するという事は
あるまい」
「ピューイ」
アルテリーゼも、納得しながら語る。
それに彼らは代わる代わる獣人族が世話して
いるし、その辺は大丈夫だろう。
「わかりました。
あと、羽狐さんたちに関してはすでに
アルテリーゼが、ルクレセントさんに
手紙を出したという事ですので。
もしかしたら、公都に彼女がやって来るかも
知れませんので、そこは留意しておいて
ください」
それを獣人族の兄妹越しに伝えると、
よほど喜んだのか、『クォーン』『ケーン』と
遠吠えのように声を上げる。
「それと、毛並みが無事変わったお祝いに、
私が何か作りましょう。
何かご希望の物はありますか?」
すると羽狐たちが集まり―――
真剣な表情でフンフンと鼻を鳴らし、
通訳のゼンガーさん、ミーオさんに何かしら
伝える。
「えー、はい。なるほど……
イナリズシ、油揚げの入ったうどん、
え? あー、それは天かすですね」
「天ぷら全般―――
唐揚げにフライも、後は……」
油ものに集中しているが大丈夫だろうか。
狐って食べちゃいけないものあったっけ?
犬ならチョコとかネギはダメだけど。
まあここは異世界。
他の亜人や人外たちも、何か食べて体が
おかしくなったという話は聞かないし、
基本、人と同じで大丈夫だろう。
そしてその日の夕方―――
私は羽狐たちのため、思う存分料理を
振る舞った。
「では、王都に行ってきます」
「おう、ライの野郎によろしくな」
ジャンさんの見送りを受けて、私とメルは
アルテリーゼの『乗客箱』へと乗り込むため
向かう。
羽狐たちの毛並みが銀色になってから、
一週間もした頃。
ウィンベル王国の王都・フォルロワ―――
冒険者ギルド本部から手紙が届いた。
差出人は本部長ライオット。
正体は前国王の兄・ライオネル様。
前々から言っていた、ランドルフ帝国の
使者の『もてなし方』について……
意見を聞きたい、との事。
その要請を受け、私たちは王都へ行く事に
なったのである。
「そういえば、お肉とかの買い出しはどうします?
帰りにまた運んできますか?」
「すっかり暖かくなってきたしなあ。
多分大丈夫だと思うが。
余裕があったら頼むわ」
まるで近所にちょっと用があるかのような
軽さで会話し、私たちは空へと飛び立った。
「シン殿、お待ちしておりました。
ではラッチ様をお預かりいたします」
「ライオットは本部長室でお待ちです。
それではラッチ様はお任せください」
ウィンベル王国冒険者ギルド本部に到着すると、
童顔の長い金髪を持つ女性と、眼鏡をかけた
秘書ふうの黒髪ミドルショートの女性が、
二人して出迎え、
当然のようにラッチを拉致するように受け取ると、
そのまま奥へと去って行った。
「サシャさんとジェレミエルさんは、
相変わらずだねー」
「まあラッチと会うのも久しぶりであろうし、
そこは大目に見てやろうぞ」
二人の妻も慣れたもので―――
周囲の人たちもまた、暖かい目でそれを
見ており、私たちは上の階へと向かった。
「ん? 何で案内も付けずに直接―――
……ラッチがいない、という事は……
あの2人は本当にもう」
本部長室に到着すると、部屋の主である
グレーの短髪に白髪交じりの頭をした、
アラフォーに見える男性が出迎える。
「ま、まあ―――
今回は意見を聞きたい、という事でしたよね?
別にそれだけなら」
一応フォローを入れ、本題に入る。
「おっと、そうだな。
だがその前に、ライシェ国から詫びの手紙が
届いた。
一応お前さんも知っておいた方がいい」
「お詫び、ですか?
お礼状とかではなく?」
私が首を傾げると……
彼は手紙をテーブルの上に置いて、
「ライシェ国の使者の1人に、ミマームっていう
女性がいただろ?」
「そういえばいましたね。
すごくグイグイ来る人でしたので、
印象に強く残っていますが」
本部長自らが出してくれた飲み物に、
私は口を付ける。
「彼女は―――
ライシェ国の宰相だ」
その言葉に、飲み物を一口飲んだ喉が
ゴクンと音を立て、
「宰相、って……
結構偉い人では?」
メルがおずおずと聞き返す。
「その反応じゃ、アルテリーゼ―――
何も話してないみたいだな」
「あやつも隠しておったからのう。
まあ、正式に伝えてきたのであれば、
もう秘密にしておく必要も無いが」
ライさんとアルテリーゼのやり取りに、
「え??」
「どゆこと?」
私とメルは疑問を表情と言葉で表す。
「まあ何だ。
だいたいの事は手紙に書いてきたからよ。
自分の口から説明してやった方がいいだろう」
そこでアルテリーゼから―――
彼女の『正体』について、聞く事になった。
「グリフォン、ですか」
「アルちゃん、ドラゴンだもんねえ。
そりゃそう言う知り合いもいるかー」
改めてアルテリーゼから、ミマームさんの正体を
聞いた私とメルは、状況を整理していた。
「人外の知り合いってもう他にはいないのか?」
私が問うと、彼女は両腕を組んで考え込み、
「そうは言われてものう。
そもそもあやつと最後に会ったのは、
もうずいぶん前になるし……
ただその時も宰相をしていたとは
聞かなかったから―――
恐らくその後、ライシェ国に関わったのだろう」
生きている時間が違うものなあ。
ルクレセントさんも五十年ぶりとか言ってたし。
「隠していた理由としちゃ、身分が低い方が
いろいろと動き回る事が出来て……
そっちの方が実態がわかると思ったらしい」
本部長が補足するように説明に加わる。
「しかし、グリフォンが宰相という事は、
ライシェ国は人間以外というか、人外に寛容な
国家なんでしょうか?」
「新生『アノーミア』連邦のように、嫌悪感は
特に無いって話だ。
ただ何百年も生きているグリフォンが国の中枢に
関わっているという事は―――
あちらでもトップシークレットだ。
当然っちゃ当然だが」
まあ、それはそうだろうな。
いかに人外に寛容とはいえ、それが政治に
関わっているとなると話は別だろう。
下手をすると、バレた時に反動が来る事も
あり得るし……
「ただまあ―――
折を見て近いうちに公表するという話も、
手紙に書いてあった」
「へー?」
「そうなのか?」
ライさんの言葉に、妻二人が聞き返す。
「新生『アノーミア』連邦では、ワイバーンの
ヒミコとエンレイン王子が、
チエゴ国ではフェンリルのルクレセントが、
ティーダと婚約発表している。
魔族・魔界とはユラン国が最恵国待遇を
結んでいて……
ウィンベル王国は言わずもがな。
これだけ各国が人外と交流していれば―――
そりゃ『話してもいいかな?』って流れに
なるだろうよ」
「まあ確かに……」
彼の言葉に、私も妻たちも納得してうなずく。
「でもさーアルちゃん。
どうしてミマームさんは、宰相やってたの?」
「さてなあ。
そこまでは聞いておらなんだが」
メルとアルテリーゼに続いて、本部長も
手紙をひょいと持ち上げ、
「そこんところは書いて無かったな。
気になるっちゃ気になるけど。
アルテリーゼがいるのなら、ひとっ飛びして
聞いてくればいいんじゃねぇか?」
「うーむ。
まあ、自分から公表すると言っておるのだし、
急ぐ必要もあるまい。
シンが望めばすぐにでも飛ぶが」
と、私に話が振られ……
すぐに首を左右に振って断る。
そんな軽々と各国の重鎮の間を行き来しないで。
私平民。一般人。
「じゃ、まあ話を元に戻そう。
ランドルフ帝国から正式な使者が来た場合だが、
まず王族や重臣で案を考えてみた。
一通り目を通してくれ」
彼が別の書類を取り出し、私たちに差し出す。
私と両隣りに座るメルとアルテリーゼも、一緒に
内容を視線で追い、
「楽団で出迎え―――
ああ、公都『ヤマト』でやった、結婚式のように
するんですね?
軍事演習の見学、これもやった方が
いいでしょうね。
練度や戦術を知ったら、それに対する対応も
考えなければなりませんから」
「あと、使者の一団と軽食を踏まえて会談、
最後は国王と使者の最高責任者の……ん?」
私の後にメルが続いたが、そこで言葉が止まり、
「国王との会談のところに、何も書いておらぬが」
アルテリーゼの指摘にライさんが頭をかき、
「そこを悩んでいるんだよ。
『普通』の使者なら、最高級の部屋に家具で
国威を見せつけて終わりなんだが。
異世界からの客人に、ご意見願いたい」
ええ……
かなりの無茶ぶりだなあ。
そもそも自分、役人でも何でも無いし。
でも確か、陛下が国賓を迎える際―――
「では、いっその事こうしてはどうでしょう」
私が話し始めると、本部長はテーブルの上に
上半身を乗り出した。
「なるほど……
そんな手もあるのか。
確かにごちゃごちゃと飾り付けするより、
そっちの方が相手の度肝を抜けるかも知れん」
両目を閉じ、両腕を組みながら―――
前国王の兄は何度もうなずく。
「シンがよく言っている、逆転の発想ってヤツ?」
「深読みしてくれれば、こちらの思うつぼじゃ」
妻たちも賛同してくれた。
さて、これで一通りの用件は終わったが……
「あー、他に何かご用件とかありますか?
無ければまた、王都でお肉とか買って
いきたいんですけど」
すると本部長は書類をしまいながら、
「そうだなあ。
時間はあるのか?」
「はい。これと言って他に予定は―――」
「じゃあちょっとでいいから、国王に付き合っちゃ
くれねぇか?
何でもこの前、ミスリル鉱山の坑道を改めて
補強している時に、封印? 閉鎖? された
部屋が見つかったっていうんだ。
出来ればお前さんの力で『無効化』を
試してきて欲しいんだが」
『ちょっとそこのソース取ってもらえる?』
みたいなノリで、国のトップオブトップと
国家機密に関わりそうなんですがそれは。
私が微妙な気分になっているところへ、
ノックの音がして、
「あの、本部長。
王宮から馬車が回されてきましたが……」
「おう、そうか。
じゃあシン、悪いけど来てくれ」
すでにそうする事は確定していたようで、
私と妻二人はそのまま、馬車で王宮へと
連行された。
「あっはっは。
悪いねシン殿。
どうせこの不良王族に、無理やり連れて
来られたんだろう?」
金の短髪、中肉中背の三十代くらいの
男性―――
豪華というより、ビシッとしたスーツのような
印象を受ける衣装に身を包んだ男性が、私の肩を
叩きながら地下の坑道を歩く。
ラーシュ・ウィンベル国王陛下、その人だ。
「うっせえ。
せっかく叔父が可愛い甥のために動いて
やったんだ、感謝しろっての」
「ははは……
あの国際会議以来ですね、そういえば」
彼とは初対面ではなく、ランドルフ帝国に
対抗するための国際会議で一度会っている。
(■125話 はじめての さみっと参照)
「えっと……こんなに気さくな感じ
でしたっけ?」
メルはさすがに緊張しているのか、
おずおずとたずね、
「堅苦しいよりはいいがのう」
アルテリーゼは余裕の表情で流す。
ミスリル坑道はそれこそ、王族か採掘に関わる
人間しか入れないので、護衛もごくわずか。
その人たちも『やれやれ』といった顔をしていた。
そして歩く事、三十分ほどして―――
「……明らかに人工物ですね」
高さにして三メートルほどの扉が、坑道の奥に
突如現れた。
今回は王宮地下から出発したけど、それでも
距離にして二・三キロ程度のはず。
「調べた学者によると……
150年ほど前のモンだって話だ。
ただ凄まじい魔力で魔法封印されている上、
さらに何らかの感知魔法とセットらしく―――
人でも物でも近付いた途端に作動しやがる」
「ウィンベル王国・王家の特徴や紋章を
確認したから、祖先がこれを作ったのは
間違いない。
問題は百年以上も、これだけ厳重に封印する
何かがあったのか……」
ライさんとラーシュ陛下が、扉を見ながら
しみじみと語る。
そして叔父の方が護衛の人たちに向かい、
「おし、お前らは少し下がっていろ。
ここから先は『万能冒険者』に任せる」
「ハハッ!」
彼らは五メートルほど後退し、そこでまた
整列し、待機する。
私は一人、扉の前へ出て―――
「(罠とかも考えた方がよさそうだな。
坑道そのものを崩されたらどうにもならないし。
爆発や殺傷能力のある隠し武器、毒ガスとかも
考えられる。
……魔王・マギア様の封印と解いた時のように、
一応、考えられる限りの『無効化』をしておいた
方がいいか)」
(■85話 はじめての ふういん参照)
そして片手を扉に向け、精神統一のように
目を閉じる。
「(魔力による爆発など
・・・・・
あり得ない。
魔力による毒など
・・・・・
あり得ない。
魔力による呪いなど
・・・・・
あり得ない。
魔力による仕掛けなど―――
・・・・・
あり得ない)」
小声でつぶやくと、金属がこすれ、きしむような
音がして、
「お、おおっ」
「ひ、開くぞ!」
「これが『万能冒険者』の『抵抗魔法』……!」
ギャラリーがどよめく中、扉はゆっくりと
迎え入れるように、こちら側へと開かれた。