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「でよぉ。
結局、中身は何だったんだ?」
ウィンベル王国王都・フォルロワ―――
その王宮の一室で、ギルド本部長にして
前国王の兄・ライオネル様が、現国王・
ラーシュ陛下に声をかける。
「そんなすぐにはわかりませんよ、叔父上。
ただ武器とか魔導具とか、そういう類のものは
見つからなかったようですが」
身分の高そうな、それでいて装飾の少ない
質実剛健なイメージの衣装に身を包んだ
三十代くらいの男性が、質問してきた
アラフォーの男に答え―――
「確かに、宝物庫とかそんな感じでは
無かったですね」
私が横から感想を挟み、
「狭い、ガランとした部屋があったような」
「埃が舞い散っておったしのう。
重要な物をしまっておいた場所とは思えぬ」
メルとアルテリーゼ……
二人の妻もまた、首を傾げながら見て来た
印象を語る。
例の『封印された扉』は、私の能力で無効化に
成功し、開ける事が出来たのだが、
すわ、お宝かと身構えた私たちの前にあったのは、
こちらの照明に照らされた、無味乾燥な空間で
あった。
「ウィンベル王国の王族の物には、
違い無いんだよな?」
「内部にも紋章が刻まれておりましたから、
間違いは無いかと。
今、ラファーガの爺さんにも確認をお願い
していますけど……」
それを聞いてライさんは座り直し、
「期待出来ねぇだろうな。
あの爺さん、鍛冶と酒とツマミにしか
興味ねーし」
「否定出来ないところがまた」
王族二名が呆れながら―――
自国のドワーフを正当に評価する。
「ああ、そういえば……
ちょっと前にミスリル銀のショートソードを
一振り頂きましたけど」
ラファーガさんの名前が出てきたので、
それに関する事を思い出し、話を振る。
「あー、確かジャンの野郎にやったんだっけ。
それがどうかしたか?」
すると黒髪セミロングの方の妻が、
「危な過ぎて使えないってー」
続いて同じ黒髪の長髪を持つ方の妻も、
「角河竜を縦に一刀両断じゃからのう。
我でもただでは済まぬぞ、アレは」
二人の話を聞いた叔父と甥は顔を見合わせ、
「マジかー、まぁアイツならそれくらい
出来るとは思うけど」
「『武器特化魔法』の使い手でしたよね。
ドラゴンの方すら、脅威に感じるとは……
しかしランドルフ帝国と敵対するかも知れない
このご時世―――
頼もしく感じます」
そこでふと、ラーシュ陛下がこちらを向き、
「ああ、そうそう。
シン殿は帝国に対する『おもてなし』を
相談するために、王都に来たんだっけ。
叔父上、何か面白そう……
もとい有益な意見は頂けましたか?」
「おう、そりゃもうバッチリよ!
今から連中が来るのが楽しみで仕方ねぇぜ」
王族二人は、まるで何かのイタズラを思いついた
かのように笑い―――
つられて私とメル、アルテリーゼも苦笑した。
「……そろそろ、会議が始まる頃でしょうか」
ランドルフ帝国・その王宮の一室で―――
紫色の長髪の女性が、空を見つめるような
視線でつぶやく。
「そうですな、お嬢」
赤髪の戦士のような筋肉質の体付きをした、
初老の男が受け答え、
「しっかし、報告者本人がいると客観的な
判断がつかめなくなるだの何だのと……
僕たちはともかく、ティエラ様まで
締め出すとは。
そんなに戦争したいんですかね、
軍部連中は」
細身のアラフォーの男性が、ボサボサの
ブラウンの短髪をかきながら不満気に語る。
「でも、報告書は通りました。
それも軍部だけじゃなく、皇帝陛下の
御前会議にまで、です」
ティエラは従者二人の方を向いて、
「それに、わたくしたちを締め出したという事は、
都合が悪いと認識したからでしょう。
後は報告した情報と―――
それを元に陛下を始め、上層部は理性的な判断を
下してくれるはず」
そこで彼女は、一人両目を閉じてうつむく。
「……?
お嬢、どうかしたんですかい?」
従者の言葉にティエラは目を開き、
「いえ、思ったよりも報告が上まで
上がったのはいいのですが。
ただ御前会議は最高意思決定の場所でも
ありますので……」
「あ……」
そこでもし開戦命令が下された場合、
その決定はどんな事があっても覆せない。
いわば博打のような要素も含んでおり、
一気に事が進んでしまう恐れもあった。
「いや、僕はそのへんは大丈夫だと
思っています」
「??
どういう事でしょうか、セオレム」
不安な気持ちを払拭するつもりもあったのだろう。
ティエラは聞き返すと、
「侵略されたとか弔い合戦とか報復とか、
そういう事態ならともかく―――
急がなければならない理由、
これが今のところ乏しいからです。
必勝の策があったとしても、それを説明しろと
必ず迫られます」
彼の言葉に、二人はうなずく。
「その説明は皇帝陛下の前で行われます。
そして報告した情報が事実だとしたら、
という仮定も含めて陛下を納得させなければ
なりません。
あの場において、報告をウソだと決めつけて
発言出来るヤツは少ないでしょう。
好戦的な連中ならともかく」
「そうですな。
上になればなるほど、言動は慎重になる。
ましてや陛下の御前―――
亡国とか差し迫った状況でも無ければ、
強行するリスクは取らんでしょう。
それが確認出来ない情報ならなおさら」
従者二名が補強するように考えを示し、
彼女はようやくホッと胸を撫でおろす。
しかし、一度心の中に浮かんだ疑念は晴れない。
もしこれで本当に陛下が開戦を決意したら……
そんなティエラの悩みを察したのか、カーバンが
口を開く。
「お嬢。
我々が何もしなくても、もし軍部が中心となって
話を進めていたら―――
開戦は時間の問題だったと思います。
引き返せないところまで計画を持っていった
上で、皇帝陛下を抱き込んでいたでしょう。
あの行動は、しなけりゃいけないもの
だったんです」
「……そうね。
ありがとう、カバーン、セオレム。
少しは気が楽になったわ」
彼女はそう答えると、再び視線を中空へと
戻した。
「では、これより御前会議を始めます。
議題は、ティエラ・ランドルフ様が潜入し
持ち帰った―――
ウィンベル王国およびその大陸の情報に
ついて、です」
豪華な家具に装飾が施された壁に柱。
その部屋の長テーブルに複数の人間が座る中―――
一人だけ立っている男が会議の始まりを宣言する。
両側には、初老からアラサーと思われる様々な
年代の男女が、
そしてテーブルの先端にはただ一人……
先ほど会議開始を告げた男を横に、六十代と
思われる男が座る。
「これは御前会議であると同時に、軍事に関する
話し合いでもある。
余の前であるとはいえ―――
正確かつはばかる事の無い議論を望む。
余、マームード・ランドルフ皇帝の名のおいて、
意見の自由を保障する。
活発に己が考えを述べるがよい」
その言葉に、両側に座る全員が一礼し、そして
配られた書類に目を通し始めた。
当初は静寂の他に、紙がこすれる音しか
しなかったが……
やがてざわつきが場を支配し始める。
「これは……」
「事実なのでしょうか」
そして最初に出るのは疑問の声。
それに対し皇帝の側に立つ男は、
「御前会議に出される資料です。
マームード陛下もご覧になられます。
確認出来得る限りの事はした上で、
お手元へ届けられているとご理解ください。
なお、この報告の元となったティエラ様および、
従者の2名は、ここに参席は出来ません
でしたが、
魔法による精神鑑定、洗脳、記憶操作等の
検査を受け―――
正常であったと付け加えておきます」
その言葉の後、しばらくの沈黙が続き、
「……兵器開発省、新機軸技術部門主任。
アストル・ムラト君。
万能冒険者―――
その妻となったドラゴン、
亜人・人外との共存。
これらは情報操作によるもの……
そう言ってなかったかね?」
名指しされた、グリーンの短髪の三十代後半に
見える男は片手を挙げ、
「それは少々語弊があるかと。
ウィンベル王国におけるワイバーン騎士隊の
発足、これは事実ですし、
亜人である獣人や、半人半蛇、
半人半鳥の種族も実在します。
我が国では使役対象でありましたけどね」
新生『アノーミア』連邦では―――
かつて亜人差別撤廃を掲げた事があるが、
結果は大勢の餓死者を出し、溝を深めた
だけだった。
(■124話
はじめての いせかいじん(かこ)参照)
彼が捨て駒にしたズヌク司祭は、ラミア族の少女に
執着していたし、
またマルズ国首都・サルバルでのテロ行為には、
多くのハーピーが動力源として使われ……
後にその報復を受ける事となった。
(■111話 はじめての しょうめい
■115話 はじめての たいぐん参照)
続けて、アストルは一息つき、
「私が情報操作と見ているのは、
その亜人・人外と共存関係を築いている事、
それだけです。
またこの報告書によれば―――
ワイバーンは人型にもなって、人間と
意思疎通が可能なばかりか……
恋人にもなっているとの事。
さすがにこのおとぎ話を、鵜呑みには
出来ません」
「では、この報告は欺瞞、もしくは何らかの
工作だと?」
反論を受け、アストルは大きく息を吐く。
「人を騙すのは……
何も洗脳や幻影魔法だけが方法では
ありません。
実際に変化や変身する事―――
例えば擬態魔法でもいいのです。
いくつかの虚偽の中に事実を混ぜる。
こんな事は情報操作の基本ではありませんか」
「という事は、事実があると思っているのだな?」
皇帝の言に彼を始め、全員が息を止める。
「……そもそも、確認出来る事では
ありませんので。
ですが可能性を無視して計画を立てる
わけにもいきません。
問題はその意図です」
「意図とは?」
向かいの席からの質問に、アストルは咳払いし、
「戦力をこちらに見せつけた事です。
『万能冒険者』に『全属性』―――
特にティエラ様は模擬戦までしたそうで。
通常であれば同盟はおろか交流すらしていない
国の人間に……
そこまで見せる必然性はありません。
秘密保持の観点からでも、です。
という事は、逆に考えるとそれをわざわざ
見せる意図があったという事でしょう」
その説明に、同席者たちは顔を見合わせたり
小声で言葉を交わしたりする。
「考えられる事は、そうですね……
一つは戦力を誇示し、戦闘回避をこちらに
考えさせる事。
もしくは時間稼ぎです」
「時間稼ぎ?」
どこからともなく疑問の声が上がる。
すると将軍らしき鎧に身を固めた男が、
「帝国の情報を入手していれば、侵攻に備える
くらいはどこの国でも考えるかと。
もし開戦するのであれば、海を挟んでの
戦闘になりますからな。
防衛を固めるのであれば、時間はあれば
あるほど良い」
将軍に続いてアストルが、
「防御を固められたとしても、こちらの
飛翔体発射船とワイバーン用の滑走船が
あれば、優位は揺るぎませんが……
少々厄介な事にはなるでしょうね」
暗に、防衛に費やす時間を与えるな、と
開戦を望む声が言葉の裏に潜む。
「飛翔体発射船の事は聞き及んでいるが……
ワイバーンについてはどうなのだ?
ウィンベル王国を始め、向こうの大陸では
ワイバーンライダーという騎士が、
戦力として乗りこなしているというが」
その質問には将軍とは別の、制服組のような
男が、
「ライダーはともかくとして、訓練は順調に
行われております。
また、飛翔体よりは柔軟な攻撃が出来ます。
あと数ヶ月頂ければ、実戦投入は可能と
思われます」
「……ふむ」
その答えの後、皇帝がうなずき―――
全員が姿勢を正す。
「我が帝国のワイバーンの運用……
その詳細を聞きたい」
マームード皇帝の問いに、引き続き先ほどの
軍服の男が、
「は、ははっ!
離陸・攻撃・着陸と―――
一連の単純な命令ならこなすように
なってきております。
た、ただ……
あくまでも一方的な空からの攻撃を想定した
ものであり、もし向こうのワイバーン騎士隊と
相対した場合、想定不能です。
奇襲であれば一定の効果を上げる事が
出来ると思われますが」
すると、皇帝は指先でトントン、とテーブルを
軽く叩き、
「もし―――
もしも、と仮定して、だ。
人の姿になれるドラゴンやワイバーンがいる。
そして結婚・恋人同士になるほど意思疎通が
可能……
その場合、戦力としてはどうなる?」
文官であろう一人が片手を挙げて、
発言の許可を求める。
「申してみよ」
「もしそれが事実とすれば、我々の思いも
よらない―――
いえ、考えうる限りの事が出来るでしょう。
そこまで意思疎通が可能であるならば、
どんなに複雑な任務もこなせます。
ワイバーンという、強大な火力と機動力を
持って、です」
さらに彼は言葉を継続する。
「さらに恐ろしいのは、人の姿になれるという
点です。
ドラゴンやワイバーンの大きさは……
発見されやすいというデメリットがありますが、
それすら解消してしまいます。
人間が歩ける、移動出来る場所ならどこにでも
出現し―――
いきなりドラゴンやワイバーンが暴れ出す。
王宮で、帝都で、街で、村で……
そのような悪夢が実現するのです」
いわばテロ行為だが、それはシンやジャンドゥ、
またウィンベル王国を始めとする同盟国のトップが
最後の手段、切り札として認識しており、
ランドルフ帝国の頭脳集団の一人は、それを
正確に分析してみせた。
仮定の話ではあるが―――
その『実現可能な脅威』に沈黙の時間が訪れ、
「マームード陛下。
わたくしは一度……
視察を兼ねた使者を正式に送るべきかと。
まず実情を知るべきでは―――」
「ハハハハハ……!!」
今一度、相手の真意・戦力を測るため、
人を送ろうとする意見を、高らかな笑い声が
中断させる。
それは先ほどの―――
鎧に身を包んだ将軍から発せられたもので、
「つまりウィンベル王国および向こうの大陸の
国々は、そのような脅威を飼い慣らしていると
いう事か!
そしてそんな強大な戦力を持ちながら、
ティエラ様を始め従者たちを脅しもせず、
ていねいに歓待しお土産まで持たせて帰らせて
くれたと。
ずいぶんとあちらは、平和主義のようですな!」
覇権国家であるランドルフ帝国に取って、
周囲は全て仮想敵国であり侵略対象である。
ましてや必勝の戦力を持っていながら、
領土的野心が無いという事自体―――
帝国軍人には理解の範囲外であった。
「陛下、発言よろしいでしょうか」
アストルが許可を求めると、皇帝はうなずく。
「私は新生『アノーミア』連邦の出身では
ありますが……
基本的にあの大陸は、大規模な船団や渡航能力を
有していない、というのもあります。
つまり現実的に海の向こうへの戦略という概念は
ありません。
そしてそれが―――
今のところ、帝国が有しているアドバンテージ
でもあります。
遠く洋上から誘導飛翔体を放つ飛翔体発射船は、
千を超える船が竣工目前です」
「うむ」
マームードが相槌を打つと、彼は続けて、
「そして―――
もしあちらに現時点で領土的野心が無かったと
しても、それが永遠に続くとは思えません。
私がランドルフ帝国に亡命してきたのも、
ワイバーン騎士隊を創設したウィンベル王国に
対抗するため、誘導飛翔体の開発継続を進言
したにも関わらず、無視されたからです。
皇帝陛下におかれましては、賢明な判断を
なにとぞお願いします」
「ふーむ……」
アストルの言葉に皇帝は大きく息を吐き、
「我が帝国のワイバーン部隊は、すぐに運用
出来るのか?」
軍服の男が弾かれたように反応し、
「は、ははっ!
30騎程度であればいつでも―――
あと1年半、いえ1年頂ければ300騎からなる
運用が、ワイバーン用の滑走船と共に可能に
なりましょう!」
「8ヶ月だ。
それまでにワイバーン部隊の最大運用を
可能にせよ。
飛翔体発射船の増産も許可する。
向こうの大陸へは一度使者を送ろう。
無論、軍の準備、新兵器の開発は全力で
進めるように」
「「「ハハッ!!」」」
マームード皇帝の一声で御前会議は決し、
その方針に向けて帝国は動き始めた。
「へえ、もう王都産のプルランの肉が
流通し始めているんですか」
ミスリル坑道の問題を解決した翌日―――
私は冒険者ギルド本部で、公都『ヤマト』へ
持ち帰るための肉の調達をお願いしていたのだが、
あの魔物鳥『プルラン』の養殖が軌道に乗り始め、
王都ではすでに食用肉が出回っていて、
(■104話 はじめての まおうほうもん参照)
それをいくらか融通してくれるとライさんから
説明された。
「フォルロワに来る時に上空から見えなかったか?
いくつか、石壁で囲まれた施設が王都周辺に
あっただろう。
あれがプルランの養殖施設だ。
お前さんの言う『リスク分散』?
その通りに作ったんだよ」
一ヶ所に集中すると、病気や何らかの原因で
全滅した時、そこで終わってしまうからな。
ちゃんとそれを考慮してくれたらしい。
「ありがとうございます。
意見を取り入れてくださって―――」
「甥っ子はかなりノリノリでやってたぜ?
それにお前さんの言っていた……
卵が銅貨1枚で、2、3個買えるように?
ってヤツか。
当面はそれを目指して頑張っているようだ」
そう言えば、そんな事を言った記憶があるな。
あれ? でも―――
ラーシュ陛下にそれを進言した事があったっけ?
と考えていると、
「『万能冒険者』―――
シンさんはここですか!?」
「ン? 確かにシンはここにいるが」
と、明らかに騎士ふうの男が、冒険者ギルド本部に
転がり込むように入ってきた。
「何ナニ?
何かあったの?」
「もう肉を詰め込んで帰るだけかと思ったのだが」
「ピュウ~?」
場所を応接室へと移し家族も合流、
その青年から話を聞く。
「じ、実は王都近辺の上空で、騎士隊の訓練を
行っていたのですが……
参加していたニコル・グレイス伯爵と、
一緒にいたアリス・ドーン伯爵令嬢から
緊急連絡が入りました」
「あの2人か。
確か、航空管制の試験飛行だったはずだが」
青年はギョッとして私たちの方を見る。
軍の機密を、平民である私たちにバラされたと
思っているのだろうけど。
「安心しろ。
そもそもワイバーンたちとの縁を繋いだのが
ここにいる『万能冒険者』だし、
上空からの範囲索敵や、その航空管制も
シンからの提案だ」
ライさんの説明に、青年は今度は目を丸くする。
「あの、それで―――
緊急事態なんですか?」
私の方から話を振ると、
「は、はい!
何でも連絡によりますと、巨大な飛行物体の
接近を確認したと。
それで、ちょうど『万能冒険者』殿が王都に
いるとの事で……
すぐ報せるようにと本部から命じられました!」
私は、メル・アルテリーゼと視線を交わすと、
「場所はどこ?」
「ちょっとひとっ飛びしてくるわ。
ラッチを頼む」
と、小さなドラゴンをライさんに任せ、
その騎士と共に冒険者ギルド本部を飛び出した。
「あ、あれです!」
その後、一人のワイバーンライダーに案内され、
上空を飛行していたのだが、
(『乗客箱』ではなくメルと直乗り)
そこには一体のワイバーンが、コンテナのような
箱を吊り下げ、
そしてそこから四方に百メートルほど離れた
場所に、メガホンのような赤い物体が浮いていた。
正確には糸でコンテナと繋がっており―――
その糸はアラクネのラウラさんの糸で、
魔力の伝導性も高く、糸電話のように通話する事を
目的としている。
「あれがアリス様と、ニコル様が乗っていた……
ええと何だっけ」
「航空管制機だな。
あの四方に浮いている道具で、内部との
通話が可能だ」
メルの質問に私が答える。
あの中には範囲索敵を持つニコル様がいて、
状況を把握し、
物体浮遊魔法を持つアリス様が、
四方に通話用の道具を浮かせ、
もう一人、情報分析を担当する人間が乗り込み、
適時指示を与えるというものだ。
その浮いている道具の一つに近付き、
「あーあー、アリス様、ニコル様。
シンです。聞こえますか? どうぞ」
私が話し掛けると、
『シ、シン殿ですか!?』
『来てくれたんですね!
ありがとうございます!
早速ですが状況を伝えます、どうぞ』
すぐに返事が返ってきて、情報分析担当と
思われる男性が、現在判明している情報を
伝えてくる。
『……というわけでして。
高度はやや下、方向は今話しているメガホンの
反対側から、巨大な飛行物体が迫っています。
すでに訓練中だったワイバーン騎士隊を2名
向かわせました、どうぞ』
「状況はわかりました。
相手の狙い等はわかりますか? どうぞ」
すると一瞬の沈黙の後、
『残念ですがわかりません。
正確な位置を教えますので、先導してきた
ワイバーン騎士隊に交代お願いします、
どうぞ』
そこで同行して来たワイバーン騎士隊に向かって
片手を挙げ―――
交代を促した。
彼は何度かやり取りした後、こちらに向かって
片手を挙げ、ある方向へと飛行する。
それを見てこちらも、彼の後方を追尾する
事にした。
「うわ、何あれおっきい」
「鳥か!?」
十分も飛行すると―――
アルテリーゼの背から、先行するワイバーン越しに
巨大な何かが見えてきた。
よく見ると両側にワイバーン騎士隊も見え、
それと同じかやや上回る大きさに圧倒される。
「ん? あれは……
ペリカン?」
「えっ?
シンの世界にもいるの、あんなの。
あれ、『丸飲み』、もしくは『大喰らい』って
呼ばれる鳥の魔物だよ」
メルの説明に、よくぞそれだけピッタリな
名前を充てたと感心する。
動画で見た事があるが、ハトでも何でも
丸飲みにする鳥だ。
もっとも、あんな大きさは規格外だが。
「フム。メルっち―――
他にはどんな特徴があるのだ?」
私たちを乗せているアルテリーゼから質問が来て、
「何でも食べるんだけど……
その中でも好物が、他の鳥なんだって」
そういえばハトの他に、他の海鳥や下手すると
共食いもするって話だけど……ん?
行先=王都。
王都にいる鳥……?
「え、待ってシン。
もしかして狙いが王都って―――」
「もしかしなくても、そうであろうのう」
王都周辺にある魔物鳥『プルラン』の
養殖施設……
狙いはそれだろう。
そこへ、今しがたまで巨大ペリカンと
やりあっていた、ワイバーンの一騎が
近付いて来て、
「『万能冒険者』殿でありますか!?
あの巨鳥、思ったよりも羽毛が固く、
ワイバーンの爪による攻撃をほとんど
弾いております!
火球での攻撃許可があれば……!」
基本、火球による攻撃はほとんど行われない
らしい。
何故なら、周囲に火事を誘発する恐れが
あるからで―――
緊急事態か水魔法の使い手と一緒でも無ければ、
ワイバーン騎士隊には認められていないようだと
聞いた事がある。
「いえ、こちらで何とかします。
落とした後、王都まで運んで頂きたいので、
いったんあれから離れください」
「は? え?
わ、わかりました」
そこで、まだ巨大ペリカン近くを飛行していた
一騎に彼はその事を伝えに飛び―――
彼らが離れると、邪魔者がいなくなったと
思ったのか、魔物鳥は悠々と羽ばたく。
こちらはその後方に回り込み、
「その巨体で、その体と翼のサイズ比で……
空を飛べる鳥など、
・・・・・
あり得ない」
私が小声でつぶやくと、
「ブオォオオッ!? ブオォッ!!」
と、前方で悲鳴のような鳴き声がし、
巨大ペリカンのその身は、地上へと
吸い寄せられるように落ちていった。