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私のことをベッドにおろした悠真くんはしみじみと呟く。
「床から結構、高さがありますね。……落ちないようにしないと。でもこれだけ横幅があれば、大丈夫ですかね」
「悠真くん、寝相いいから問題ないですよ。私のシングルサイズのベッドでも、きちんとお行儀よく寝ていましたから」
そう言いながら上半身を起こそうとすると、隣にいた悠真くんが腕を伸ばし、そのままその胸の中に抱きしめられ、ベッドに沈みこむ。
「どうですかね。僕、ベッドでは暴れん坊かもしれませんよ」
耳元でそんな言葉を囁かれ、思わずドキッとしていると、そのまま悠真くんは耳朶にふわりとキスをする。
「!」
驚いて声が出ないまま、悠真くんが着ている紺色のネルシャツをぎゅっと握りしめると、今度は頬にキスをされた。
「レモンみたいなスッキリした香りがしますね……」
「バスソルトがレモングラスの香りだったから、シャンプーとコンディショナーも瀬戸内レモンの香りを使ったのです。ボディクリームもレモンの香りにしたから……」
「甘い香りのアリスは食べたくなるけど、この香りだと……追いかけたくなります」
その言葉通り、悠真くんは頬から顔をずらすと、私の首筋に鼻を近づけ、そしてキスをしている。そのまま鎖骨に移動し、もこもこパジャマのパーカーのジッパーを少しおろすと……。
もう心臓がバクバクして、「ゆ、悠真……」と震える声を出してしまう。
谷間にキスをされていると気づき、目が回りそうになる。
「すごくいい香りです。アリス……」
え、もしかして、いきなりこのまま!?
「うーん……止まらない……けど、シャワー……風呂行ってきます」
アンダーバスト辺りに添えられていた悠真くんの手が離れ、ホッとするのと少し残念なような、いろいろな気持ちが頭の中でぐるぐるしている。
「アリスは明日、仕事ですよね?」
「う、うん。月曜日だから」
「火曜日も仕事で、火曜日は僕も仕事。水曜日はノー残業デイ?」
「はい」
「水曜日は……うーん、木曜日も……あ、金曜日! アリス、金曜日は?」
「12月は忘年会シーズンですよね。今週の金曜日は部署の忘年会で、来週の金曜日はチームの忘年会で、その次は……」
悠真くんがとても悲しそうな顔になっている。
「ど、どうしたの、悠真……?」
「やっぱり初めてって大切にしたいでしょ。でもアリスは12月、忘年会もそうだし、仕事、忙しいですよね?」
初めて……それって悠真くんと……ということ、だよね!?
そうだろう。そうだと思う。
「僕もクリスマス、年末年始で仕事は立て込んでいる……お正月は年越しライブ配信、初日の出ロケ……ダメです。特別なことをしている時間が……ないです」
悠真くんの顔が青ざめている。
***
私との初めてを特別なことと考え、ちゃんとお互いの時間がある時にと、悠真くんは考えてくれた。
その結果。
12月。
お互いに仕事も忙しかったこともあるが、ほぼ毎日のように同じベッドで休んでいるのに。
悠真くんが私に手を出すことはない。
キスをしたり、抱きしめたりはある。
でもそれ以上はない。
正直。
元カレがいたわけだし、アラサーなのだから。
そこまで特別視してくれなくても大丈夫なのに。
なんて思ってしまうが。
真面目なのだ、悠真くんは。
年齢的にはがつがつしていてもおかしくないのに、それ以上に私のことを大切と考えてくれることに……。
どうしたって嬉しくなってしまう。
クリスマス、悠真くんは仕事で、私は大学時代の友達の家で鍋パーティーを楽しんだ。年末年始、悠真くんは仕事で、私は実家に帰省していた。
こうして年が明け、三連休も終わった翌週。
悠真くんは土日でオフをもらった。
そして二人で温泉にやってきた。
昔は新婚旅行でにぎわい、最近、また盛り上がってきたという熱海。
私は何度か来たことがある。
でも悠真くんは初めてで、到着と同時にテンションが高い。
今日の悠真くんは、白のセーターに紺色のダッフルコートで、若々しく見える! 一方の私は黒のミニ丈のワンピースにロングブーツ、白のダウンで、少し若作り(?)していた。
ドラマのロケで有名なお店に行ったり、熱海城に足を運び、再び駅前に戻り、人気のプリンや温泉まんじゅうを食べたり。
観光を満喫し、そしてチェックイン時間にあわせ、ホテルへ向かった。
改装して一年も経っていないので、ホテルはどこもかしこも真新しい。
部屋も白と青を基調にファブリックが揃えられ、清潔感があり、落ち着く。
さらに大浴場があり、この時間もあいているという。
まずは温泉に入らないということで、大浴場へ向かうことになった。
「露天風呂もあるそうですよ。ただ……露天風呂に入るまでは、寒いかもですが」
「露天風呂! もう少し遅かったら夕焼けが見えたかしたら?」
「どうですかね? 方角的には……あ、朝日が見えるって書いてあります」
大浴場は地下にある。
エレベーターに乗ると、大浴場の案内がポスターのようにパネルで飾られていたが、朝風呂もおすすめと書かれていた。
「……本当はアリスと一緒に入りたいのですが」
男湯、女湯とそれぞれ書かれた暖簾の前で、悠真くんがとんでもない言葉を言うので、まだ温泉にも入っていないのに! のぼせたようになり、大変。
もう血流がよくなっているので、その勢いままで露天風呂に向かい、そこから見える山林を楽しみ、のんびり入浴を行った。まだ夕方には早く、外は明るい。