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みら

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次の日から。
九人は、本当に忙しくなった。
仕事があるわけでもない。
学校があるわけでもない。
誰かに急かされることもない。
それなのに毎日のように予定が入っていて、阿部は冷蔵庫に貼ったカレンダーを見るたびに笑った。
『みんなで買い出し』
『海』
『料理』
『アニメ』
『キャンプ』
『花火』
予定のない日の方が少ない。
「これ、休むための夢だったよね?」
ある朝、阿部が言うと。
目黒が隣でカレンダーを見ながら笑った。
「楽しそうだからいいんじゃない?」
「めめも結構予定入れてるからね」
「二人の日?」
「それ」
目黒は悪びれず頷いた。
「必要でしょ」
「一ヶ月しかないってずっと言ってるもんね」
「もう一ヶ月もないよ」
そう言われて。
阿部はカレンダーを見る。
最初に丸をつけた日から、すでに数日が過ぎていた。
「ほんとだ」
「早いね」
以前なら。
日が過ぎるのが怖かったかもしれない。
でも今は、少し違う。
阿部は今日の予定を見る。
『九人で海』
「じゃあ準備しないと」
「うん」
残りの日数を惜しみながら。
それでも、次の予定を楽しみにできていた。
海の日。
ラウールが一番張り切っていた。
「絶対泳ぐ!」
「まだ着いてもないよ」
渡辺が呆れる。
康二は到着した瞬間からカメラを構え、佐久間は砂浜を走り、深澤は日陰を探していた。
「ふっか、海来た意味ある?」
阿部が聞く。
「あるよ。景色を見る」
「泳がないの?」
「あとで」
そう言いながら、岩本が持ってきたパラソルの下へ座る。
結局。
一番最初に海へ入ったのはラウール。
その後を佐久間と康二が追い。
阿部も目黒に手を引かれて水の中へ入った。
「冷た!」
「気持ちいいね」
「最初だけ冷たい!」
波が来る。
阿部が少しよろけると、目黒がすぐに腕を掴んだ。
「大丈夫?」
「大丈夫」
目黒がじっと見る。
阿部はすぐに言い直す。
「本当に大丈夫。転びそうになっただけ」
「ならいい」
少し離れたところから渡辺が笑う。
「確認早」
「翔太が始めたんでしょ」
「俺は悪くない」
そんな話をしているうちに。
佐久間が勢いよく水をかけてきた。
「あべちゃん!」
「うわっ!」
「佐久間!」
阿部もすぐにやり返す。
そこへ康二とラウールも加わり、気づけば全員巻き込まれていた。
最後まで浜辺にいた深澤まで。
岩本に連れられて海へ入る。
「照! 待って! 俺着替える気なかった!」
「来たんだから入ろ」
「そういう問題じゃない!」
笑い声が。
波の音に混ざる。
康二は途中から濡れることも気にせず写真を撮り続けた。
夕方。
少し赤くなった空を背に。
九人で写真を撮る。
阿部は出来上がった写真を見て。
「これも持って帰れないんだよね」
と呟いた。
康二が隣で頷く。
「せやな」
少しだけ。
寂しい。
でも。
阿部はすぐに笑った。
「じゃあ現実でも海行こう」
「行こ!」
「また写真撮ってね」
康二も笑う。
「何枚でも撮るで」
別の日。
宮舘の提案で。
全員で料理をすることになった。
ただ。
開始五分で。
宮舘は少し後悔していた。
「翔太、それ切るだけだから」
「分かってる」
「大きさ揃えて」
「食べたら一緒でしょ」
「違う」
隣では。
深澤が玉ねぎを適当に切り。
岩本に止められている。
「ふっか、それ大きすぎ」
「煮れば小さくなるよ」
「ならないよ」
佐久間は。
なぜか必要以上に盛り付けへこだわり始めた。
ラウールは。
作っている途中からつまみ食い。
康二は。
料理より写真を撮っている時間の方が長い。
阿部は。
その光景を見ながら笑った。
「館さん大変そう」
目黒が隣で野菜を切りながら言う。
「でも楽しそうじゃない?」
確かに。
宮舘は注意しながらも。
ずっと笑っていた。
完成した料理は。
見た目も大きさも少しばらばら。
それでも。
九人で作ったものを。
九人で食べる。
「美味しい」
阿部が言う。
宮舘が自然に笑う。
「よかった」
「でも館さん一人で作った方が美味しいかも」
「それは言わなくていい」
渡辺が笑う。
宮舘も。
少しだけ困ったように笑った。
その日のノートには。
『九人で料理した。館さんは大変そうだった。』
その下に。
『帰ったら、また館さんのご飯を食べたい。』
と書いた。
佐久間とのアニメ一気見も。
本当に実行した。
朝から魔王ソファを占領し。
お菓子と飲み物を並べる。
「今日はここから動かない!」
佐久間が宣言する。
阿部も。
「最後まで見る」
と頷く。
最初は二人だけだったはずなのに。
途中からラウールが入り。
康二も座り。
深澤も何となく見始め。
夕方には渡辺までいた。
「翔太、長いって言ってなかった?」
佐久間が聞く。
「途中から気になっただけ」
「ハマってるじゃん!」
「ハマってない」
「じゃあ次も見る?」
「……時間あったら」
佐久間が嬉しそうに笑う。
阿部は。
そんな二人を見ながら思う。
帰ったあとも。
こういう日があるといい。
仕事がなくて。
何も考えず。
ただ全員で同じものを見る日。
忙しい現実では。
簡単ではないかもしれない。
それでも。
やってみたいと思った。
キャンプの日は。
天使に頼んだわけでもないのに。
少し離れた場所に。
都合よく山とキャンプ場ができていた。
「これ誰が作ったの?」
阿部が聞く。
天使は来ていない。
魔王も旅行中。
誰も分からない。
深澤が。
「夢だからじゃない?」
と答える。
「便利だね」
「今さら?」
結局。
九人は深く考えなかった。
テントを張り。
火を起こし。
ご飯を作る。
夜になると。
星が驚くほどよく見えた。
九人で。
焚き火を囲む。
いつもなら。
誰かが話し続けている。
でもその夜は。
静かな時間が長かった。
阿部は空を見ながら。
「現実の星もこんなに見えるかな」
と言った。
「場所によるんじゃない?」
目黒が答える。
康二が。
「帰ったら星撮りに行こや」
「いいね」
「九人で?」
ラウールが聞く。
阿部は。
迷わず頷いた。
「九人で」
その言葉が。
もう自然になっていた。
数日後。
目黒との二人の日。
どこへ行くか決めるのに。
結局かなり時間がかかった。
「旅行でもいいよ」
目黒が言う。
「一日で?」
「夢だから何とかなるでしょ」
「その考え方慣れてきたね」
阿部は笑った。
でも。
最終的に二人が選んだのは。
遠くでも。
特別な場所でもなかった。
少し離れた街まで出かけて。
買い物をして。
カフェに入り。
夕方まで歩く。
普通のデート。
目黒は。
それで嬉しそうだった。
帰り道。
二人で手を繋いで歩く。
「めめ」
「ん?」
「これでよかったの?」
「何が?」
「せっかく夢なんだから、もっとすごいところ行ってもよかったじゃん」
目黒は少し考えてから。
「これがしたかった」
「普通に出かけるの?」
「うん」
「一緒に歩いて」
「買い物して」
「ご飯食べて」
少しだけ阿部の手を強く握る。
「こういうの」
阿部は。
目黒を見る。
「帰ったらできるよ」
「うん」
「いっぱいしよう」
目黒が。
少しだけ寂しそうに笑う。
「夢のあべちゃんとこうしていられるのも、あと少しだね」
阿部は。
すぐに足を止めた。
「めめ」
「ん?」
「佐久間にも言ったけど」
目黒を見る。
「この俺も帰るよ」
目黒の表情が。
少し変わる。
「記憶なくした俺も」
「カフェで働いた俺も」
「めめをもう一回好きになった俺も」
阿部は。
繋いだ手を見る。
「全部俺だから」
「うん」
「夢が終わっても、いなくならない」
目黒は。
しばらく何も言わなかった。
それから。
「……うん」
と小さく頷いた。
「分かってる」
「ほんと?」
「二回聞く?」
「俺の真似しないで」
二人で笑う。
そのまま。
また歩き出した。
一ヶ月の真ん中を少し過ぎた頃。
天使が。
突然リビングに現れた。
「郵便でーす」
「何?」
阿部が見る。
天使の手には。
一枚のポストカード。
「魔王から」
「え?」
阿部はすぐに受け取った。
表には。
観光地らしき場所。
そこに。
知らない男が立っている。
「……誰?」
「魔王」
「これ?」
「人間の姿」
隣から目黒も覗き込む。
サングラスをかけ。
妙に観光客らしい格好で。
かなり楽しそうに写っている。
阿部は。
無言で裏返した。
『楽しい。あと二週間くらい。』
それだけ。
「……」
「何て?」
目黒が聞く。
阿部は無言で見せた。
目黒も。
少し黙る。
「あと二週間?」
「旅行始めてからの二週間じゃない?」
「多分」
「予定より伸びてない?」
「伸びてるよね」
阿部は。
額を押さえた。
「呼んで」
「無理」
天使が即答する。
「なんで!?」
「楽しそうだから」
「理由になってない!」
その日の夜。
九人のグループチャットに写真を送る。
数秒後。
渡辺。
『腹立つ』
深澤。
『めっちゃ旅行満喫してる』
康二。
『写真ええやん』
阿部。
『そこ?』
佐久間。
『お土産あるかな!?』
阿部。
『帰るために必要な人なんだけど』
ラウール。
『でも楽しそう』
阿部は。
スマホを見ながら笑った。
結局。
怒っているのは。
自分だけかもしれない。
それからも。
日々は過ぎていった。
朝までゲームをして。
次の日、全員寝不足になった。
花火をして。
佐久間がはしゃぎすぎて、渡辺に怒られた。
九人でちゃんと歌とダンスを合わせる日も作った。
今度は遊びではなく。
岩本が中心になって。
何度か練習した。
最初は。
夢の中だから。
と思っていた。
でも。
合わせれば合わせるほど。
阿部の中に。
違う気持ちが生まれる。
もっとちゃんとやりたい。
もっと揃えたい。
もっと歌いたい。
曲が終わったあと。
阿部は息を整えながら言った。
「これ」
「うん?」
岩本が見る。
「帰ったら、ステージでやりたい」
誰も。
驚かなかった。
岩本が。
普通に笑う。
「やろう」
佐久間も。
「やろ!」
康二も。
「絶対やろな」
阿部は。
それだけで嬉しかった。
大げさに喜ばれなかったことも。
当然の未来みたいに。
みんなが受け止めてくれたことも。
嬉しかった。
カレンダーは。
少しずつ埋まっていく。
丸。
写真。
小さなメモ。
佐久間が勝手に描いた絵。
康二が貼った小さな写真。
ラウールの落書き。
いつの間にか。
最初よりずっと賑やかなカレンダーになっていた。
そして。
ある朝。
阿部は。
日付を確認して。
手を止めた。
「めめ」
「ん?」
「あと一週間くらい」
目黒が。
冷蔵庫の前へ来る。
二人で。
カレンダーを見る。
予定通りなら。
魔王が帰ってくるまで。
残り一週間。
「早かったね」
目黒が言う。
「うん」
阿部は。
カレンダーに並んだ予定を見る。
たくさん遊んだ。
たくさん笑った。
写真も増えた。
約束も増えた。
夢の中で。
まだやりたいことはある。
きっと。
探せばいくらでも出てくる。
でも。
それ以上に。
現実でやりたいことが増えていた。
阿部は。
残り一週間の日付を。
指でなぞる。
「最後の一週間だね」
目黒が。
少しだけ寂しそうに笑う。
「多分ね」
「魔王がちゃんと帰ってきたら」
「そこなんだよね」
二人で笑う。
夢を終わらせることが。
怖くなくなったわけではない。
寂しくないわけでもない。
それでも。
阿部は。
最後の一週間を見ながら思った。
ここに残りたいから。
大切にする一週間ではない。
ちゃんと帰るために。
大切に過ごしたい。
そんな一週間に。
変わっていた。
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お疲れ様です。 一気に読みました。 一気にみんなで帰ろうになりましたね。 全部持って9人で 奥の奥にはまだ燻りはあるのかも知れないけど それでも おもっいっきり楽しんで この先へ… 続き待ってます♪
後19話で終わってしまう寂しさを感じる😭
第52話、読み終えたわ…。もうね、一ヶ月の終わりが見えてきた寂しさと、それでも現実でやりたいことが増えていく温かさが混ざってて、胸がいっぱいになった。特に「全部俺だから」って阿部ちゃんが言ったところ、泣きそうになったよ。めめの寂しそうな笑顔も刺さる。そして魔王のポストカード「あと二週間」、笑ったわ。最後の一週間を「帰るために大切にする」って心境の変化、すごくよかった。みらさん、素敵な夢をありがとう😢