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「は?」
何度でも言う、は? 何言った? 今、此奴。
真剣な表情で、満月の瞳を鋭くさせて、告白するように……いや、これも一種の告白なのだが、告白してきたラヴァインは、私の目を見つめて「一目惚れ」と繰り返す。
(いやいや、ないない。また、からかって……そんな瞳で見つめられると、本当か持って思っちゃうけども)
嘘をついて、アルベドに化けて、それからも嘘と偽りで構築されて、それが張り付いて剥がれないような男だから、今の言葉を信じられずにいた。
後ろにいるリュシオルは眉をひそめ、アルバは、剣を抜いて今にも斬りかかりそうで、ブライトは、何を言ったら良いか言葉を探しているようだった。
「いや、一目惚れって、今言うこと?」
「今の方が良いかなあって思った」
「会ったときに……最初会ったときにいうもんじゃない?」
「いうタイミングを逃したんだよ。エトワールが勝手に話を進めるから」
私のせい?
私のせいにしてきた、ラヴァインを信じられないものを見るような目で見つめてやれば、またやれやれと言った感じに肩をすくめる此の男。何で私が悪者にされているのか、此奴が悪いんじゃないか、ラヴァインが。と、言えればよかったのだが、こっちも呆れてしまって、何も言えずにいた。
(……一目惚れ……ね)
前にも聞いた言葉な気がする。誰に言われたのかは覚えていないけど。何かそれっぽいことを言われた気がしたのだ。
でも、ラヴァインに限って私の事を好きになるだろうか。あまり、自分の事を好きでしょ、何て考えたくもないし、自意識過剰だとか思われるから、そういう風に人のことを見たくないんだけど、ラヴァインはそう言った。一目惚れと。
「頭ぶった?」
「何で、酷いなあ。まあ、頭をぶつけて、記憶喪失になったのかも知れないけれど」
「……一理あるわね」
「それは、分かってくれるんだね」
と、ラヴァインはなんとも言えない、微妙なかおをしていた。それもまた、こっちが悪いみたいな、理解力が無いなあ、と馬鹿にする顔をしている。矢っ張り、此奴の顔面に右ストレート打った方が良いんじゃないかと思えるぐらいに。
それでも、私が此奴を殴らないのは、暴力に訴えかける女だと思われたくないのもそうだけど、攻略キャラだし、アルベドがちらついて……いや、アルベドもたまに、変なこと言うから殴りたくなるんだけど、綺麗な顔を殴るということには抵抗があるわけで、手を出せずにいるのだ。
殴ったらスッキリするのかなあ……とは考えたことはあるけれど。
「アンタが、一目惚れとかする?そういうタイプ?」
「ねえ、矢っ張り教えてよ。前の俺の事。エトワールにとって、俺ってかなり嫌な奴になってない?記憶を失う前の俺、滅茶苦茶好感度低くない?」
「低いわよ。今も低い」
「何で」
「鬱陶しいから?」
そういえば、ラヴァインは少し傷ついた素振りを見せた。いや、何で分からないの? とこちらが聞きたいぐらいに。よかれと思って、行動してこれなのか、それとも、自分の素が、人にとって悪印象な事を知らないのかどちらかだ。どちらにしても、空まわって、悪いように捉えられてしまうことは事実な訳で。
(多分、元からこういう性格だったのよね……)
後からねじ曲がったという可能性は考えられるが、元から、そこまで良い子じゃなかったんだろう。別に私も良い子じゃなかった……良い子を演じていただけの、子供だったわけだし、そういうのがなければ、ラヴァインは元々、こういう人の心を考えるよりも先に、自分の考えを、心を優先する男なのかも知れない。そういう場合、何となくだけど、家庭環境に問題があるとか、ないとか。
(まあ、アルベドから聞くにあまり良い感じではなかったんだろうけどね……)
闇魔法の家門だから。
それを理由にするのは、よくないことだとは分かっているけれど、そういうことなんじゃないかとも思えてくる。アルベドは、闇魔法であろうが、光魔法であろうが、手を取っていける世界に……と、飛躍しすぎかも知れないが、要約しすぎればそんな思想を持っていたわけで、その思想のせいで、どちらからも嫌われ、孤立していた。それでも一人で戦っていたアルベドは、本当は寂しかったんじゃないかとか、だから、私と話すとき……本当に自意識過剰だと思われるかもだけど、心なしか楽しそうだったのかも。
私も、闇魔法であろうが、光魔法であろうが、どっちでもよかったから。何でそこで差別するのだろうかと。でも、現実問題、宗教とかそういう違いで戦争が起きるのだから、いがみ合っていても可笑しくはないと思う。でも、一方的に嫌われるのは可哀相だとも……
「俺、何かしたかな」
「人のこと考えずに行動するからじゃない?」
「えー考えてるよ。ちょっとは」
「だから、ダメなのよ。ちょっととか」
「でもさあ……人に合わせるのってつまらなくない?確かに、皆一緒の方向向くこととか、人に揃える、足並み揃えて、とか大切だとは思うよ。大勢の中で生きていくにはそれが重要だって事、そう心得ておいた方が良いって事ぐらいは分かる。でも、俺には、其れができないし、嫌だって」
ラヴァインは、そう言って嘲笑う。でも、それは、私達を馬鹿にしているものじゃなくて、人とは違う、自分を馬鹿にするような、そんな乾いた笑みだった。
「アンタ……」
「エトワールはどっちがいいと思う?人と同じように生きるか、自分の思ったように生きるか。エトワールだって後者じゃない?」
「……」
同じだろ?
と、そう言ってきているようだった。私の心の中にまで入り込んできて、見透かすように言う。同じだと、自分と同じだろうと。
確かに、私は、人と同じようにいきられなかった。だから、中学時代、皆から違う、自分たちとは違うと言って、そんな理由で虐められた。虐められる理由が分からなかった。ス奇異な物を、好きと言って何が悪いんだと。何で皆と同じじゃないといけないのだと。中学生活は地獄だった。義務教育だからか、皆一緒、足並みを揃えようって煩くて。
個を潰されている気がして、嫌だった。そうして、個性が削られていくのを、押し込められていくのが耐えられなかった。
自由に生きて何が悪い。
好きなものを好きだと言えない世界が憎い。
そう思ったことは、一度や二度じゃない。だからか、ラヴァインの言っていることは理解できたし、その通りだと頷けてしまう。でも、ラヴァインのは自由がいきすぎているのだ。
自由の範囲が、人の自由にまで影響を与えて荒らしている。
「それでも、私は、自分勝手すぎるのはよくないと思う。生き方……とかは、自由だけど、人の生き方にまで首を突っ込むのも、土足で踏み荒らすのも、それは違う気がする。ラヴァイン……多分、アンタのこと、嫌いなのは、私と似ている部分があるけれど、理解しえないところがあったから」
「じゃあ、理解してよ」
そう、ラヴァインは間髪入れずに言ってきた。駄々をこねる子供のようだとも思う。
押しつけるだけじゃ、受け入れられないことを知っているだろうに。それでも、自分の事を見て欲しいと、駄々をこねている。
(理解しようとしたけど、勝手に何処かに行って、踏み込むなって言っているようだったじゃん)
確かに、記憶を失う前のラヴァインのことを理解しようとは思わなかったし、そんな努力はしなかった。その弊害が今ここで現われていたとしても、それはまた違う気がする。
ラヴァインという人間を理解したいと、今は思っている。でも、此奴を好きにはならないだろう。恋愛的に。
「なるべく、理解はしようと思ってるし、だから、アンタの記憶を取り戻そうって手伝ってるの」
「でも、エトワールは、その先を望んでいるんでしょ」
「何を……」
「俺が失った記憶の中に、エトワールの思い人……大切な人がいるから、俺に手を貸してるって、そういう風に見える……というか、そうなんでしょ?そういう目で俺の事見てることぐらい、分かるよ」
甘く見ないで。と、笑ったラヴァインは、本当に理解しているようだった。自分が誰かと重ねられていることを知りながら、私にこんなことを言ってきたのだ。度胸があるというか、何というか。矢っ張り、此奴のことは怖いと思う。
「私、矢っ張り、アンタのこと怖い」
ぽろっとでた言葉に、ラヴァインは鼻で笑った。
「そっか、エトワールは、俺の事怖いか」
「底が知れないから……かな。子供みたいだと思ってたのに、たまに大人っぽくなるというか、何というか。何考えているか分からないから……かな」
「そう?考えていることは単純だよ。でも、普通は理解できないかも」
ラヴァインはそう言うと足を組んだ。その態度が大きくて、むかついたけれど、こういう奴だ、と受け入れたらそこまで思うことはなくなった。態度が大きいのは変わりないけれど。
(簡単だと思っていた。ラヴァインを理解する事って……だからこそ、こんなに怖くて、また彼から離れようとしてるのかも)
私は見誤っていたのかも知れない。ラヴァインという男を理解すること。彼の記憶を取り戻す手伝いをすると言うこと。
気持ちの悪い空気が、客間に流れ初め、私はゴクリと固唾を飲み込んだ。