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前職は舞妓
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きょう
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読み終わりました……! 今回は本当に心臓が痛くなる回でしたね。渚が少女の霊に触れた瞬間の悲鳴、あれは読んでて息が止まりました。それでも「逃げない」って歯を食いしばる姿に、胸が熱くなりました。16歳であれだけの地獄を受け止めて、なお助けたいと願う強さ。峯岸さんの「ガキが命削って繋いだバトンだ」っていう言葉も痺れました。早く続きが読みたいです、渚の頑張りが報われてほしい……!
「次のヤマは……連続少女誘拐監禁事件だ」車内の重苦しい空気を破るように俺が吐き出すと、助手席の佐藤が跳び上がらんばかりに反応した。
「連続誘拐……!? 先輩、ここ数週間で近隣の市から女子中高生が三人消えてる、あの件ですか!?」
「そうだ。昨日、三人目の女子高生が姿を消した。防犯カメラの死角を突いた手慣れた口口(くちあわせ)なしの犯行……警察上層部も完全に手詰まりを起こしてる」
後部座席で静かに話を聞いていた渚が、リュックの紐をぎゅっと握りしめたのがバックミラー越しに見えた。同年代の少女たちが次々と連れ去られている。その恐怖は、いくら腹の据わった渚でも無関係ではいられないはずだ。
「……峯岸さん。被害者の女の子たち、まだ誰も死んでないんだよね?」
渚の声は少しだけ震えていた。
渚の能力は死者の霊と「会話」し「触れる」ものだ。生きている人間がどこに監禁されているかを当てるエスパーではない。生きているなら、渚の力は使えない——そう思っているのだろう。
だが、俺は首を横に振った。
「いや……捜査本部に秘匿されてる情報がある。三人目の少女が連れ去られた現場近辺で、昨日の深夜、身元不明の少女の『遺体』が発見された」
「ひっ……! 殺されてたんですか……!?」
佐藤が悲鳴をあげる。俺は煙草を指に挟み、低く言葉を続けた。
「遺体は、身元確認の結果……事件の『第一被害者』の女子中学生だった。残りの二人はいまだ行方不明。……つまり、犯人はアジトで少女たちを監禁し、用が済んだ、あるいは手に余った少女から順に処分し始めている」
車内に重い沈黙が降り積もる。
「第一被害者の女の子の霊は、遺体発見現場の路地裏にまだ留まってるはずだ。……渚、頼めるか?」
生きている二人を救うためのタイムリミットは刻一刻と迫っている。手がかりは、命を奪われた一人目の少女が遺した「死の記憶」だけだ。
渚はゆっくりと深呼吸をすると、冷たくなった右手を自分の胸元に当て、強く頷いた。
「……行く。助けられる命があるなら、なんでもする」
「よし。佐藤、赤色灯回せ。現場へ急ぐぞ!」
「は、はいっ!!」
◇
事件現場は、薄暗い高架下の空き地だった。
雨で濡れた泥の上に黄色い規制線テープが張り巡らされ、赤色灯の光がぬかるみを不気味に照らしている。
車を降りると、佐藤がブルッと身震いした。
「う……なんか、ここ、いつにも増して空気が重いです……」
「余計な喋りしてないで周囲の警戒してろ。……渚、行くぞ」
俺と渚は泥を蹴って規制線をくぐり、遺体が発見された草むらの前へ立った。
そこに、いた。
雨に濡れた制服を着た、14歳ほどの少女の霊。
膝を抱えて小さく丸まり、シクシクと泣いている。自分の死をまだ受け入れられず、恐怖と孤独で身体を震わせている姿は、見ているこちらの胸が引きちぎられるようだった。
「……渚」
「うん……大丈夫」
渚はぬかるみに膝をつき、震える少女の霊と同じ目線まで顔を下げた。
「ねえ、怖かったね。……でも、もう大丈夫だよ。私ね、あなたの声が聞こえるの。……おねがい、他の女の子たちがどこにいるか、教えて」
渚がそっと、少女の霊の透けた肩に手を伸ばす。
その瞬間——。
「……ッ!!???」
渚の口から、今まで聞いたこともないような悲鳴が漏れた。
渚の身体が激しく硬直し、目を見開いたまま泥の上に倒れ込む。
「渚!?」
俺は咄嗟に渚の身体を抱き起こした。渚の全身はガタガタと打ち震え、呼吸は浅く荒くなり、目は虚空を彷徨っている。
「渚! しっかりしろ! 何が見えた!?」
「ひ、……っ、あ……あぁぁっ……!」
恐怖。凄まじい狂気と虐待、そして死の瞬間の苦痛。
監禁されていた暗闇の部屋で、犯人から受けた残虐な仕打ちの記憶が、濁流となって渚の脳内に直接流れ込んでいるのだ。
「渚ちゃん!!」
離れた場所で警戒していた佐藤も飛んできて、渚の顔を覗き込む。
「先輩、ダメです! 渚ちゃん、ショックで意識が……!」
「渚! 戻ってこい! 渚!!」
俺は渚の肩を強く揺さぶり、必死に呼びかけた。
あいつにこんな地獄を追体験させてしまった罪悪感が、俺の胸を強く締め付ける。やっぱり16歳の子供に背負わせていい重さじゃない——そう思い、渚の手を少女の霊から引き剥がそうとした、その時だった。
渚の冷たい指先が、俺のスーツの袖を力任せに掴み返した。
「……が……はっ……!!」
渚は血の出そうなほど強く唇を噛み締め、涙で濡れた目をカッと見開いた。
「……逃げ……ない……ッ!」
「渚……!?」
「まだ……中に……二人……いるの……! 私が……耐えなきゃ……あの子たちが……殺される……っ!」
激痛と恐怖に顔を歪ませながらも、渚は少女の霊から絶対に手を離さなかった。
16歳の少女の、命をかけた執念。
「……見えた……! 水の音……大きな川の近く……! 赤いレンガの倉庫……! 鍵のついた……地下室……!」
渚は途切れ途切れに、だが確実な情報を絞り出す。
「犯人は……ガソリンの匂い……大きなツナギを着た男……右のほっぺたに……大きなアザがある……っ!」
「大きなアザの男……川沿いの赤レンガ倉庫か……!」
俺は手帳を取り出すまでもなく、頭の中で管内の地図を高速で走らせた。旧港湾地区、一年前廃業になった製油所の倉庫街だ!
「佐藤! 本部に連絡してレスキューと応援を要請しろ! 場所は旧港湾の第一倉庫街だ!」
「は、はいっ!」
「渚、もういい! 手を離せ!」
俺が抱きかかえると、渚は糸が切れたように少女の霊から手を離し、俺の胸の中でぐったりと体重を預けてきた。過呼吸で胸を上下させながら、必死に俺の顔を見つめてくる。
「……峯岸さん……助けてあげて……あの子たちを……」
「任せろ」
俺は渚を優しく抱き上げ、車の後部座席へと寝かせた。毛布をかけ、佐藤に言い渡す。
「佐藤、お前はここで渚についてろ。救急車も呼べ」
「えっ!? 先輩、一人で行く気ですか!? 犯人は拳銃や刃物を持ってるかもしれないんですよ!?」
「だからどうした」
俺は革ジャンを羽織り直し、腰のホルスターに収まった拳銃の感触を確かめた。
「16歳のガキが命削って繋いでくれたバトンだ。……遅れたら、俺が刑事やってる意味がねぇだろ」
「……っ、先輩! 俺も行きます!」
佐藤が涙目になりながら、警察手帳を強く握りしめて前に出た。
「渚ちゃんがここまで頑張ったのに、俺が怖がって逃げてられるかよ! 渚ちゃんの護衛は現場に向かう応援の警察官に任せます! 俺も連れて行ってください!」
俺は一瞬驚き、それからニヤリと口元を緩めた。
「……へっ、少しは刑事らしい顔になったじゃねぇか。来い、新人!」
俺たちはパトランプを光らせ、夜のバイパスを旧港湾地区へと猛スピードで突っ走らせた。
バックミラーに映る、遠ざかっていく現場。
そして、命をかけて真実を届けてくれた渚の強い瞳。
待ってろよ、犯人のクソ野郎。
少女たちの絶望も、渚が流した涙も、全部まとめて叩き返してやる。