テラーノベル
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旧港湾地区、第一倉庫街。川沿いに建つ半廃墟と化した赤レンガ倉庫の地下室で、俺はパイプ椅子に腰掛け、煙草の煙を薄暗い空間へ吹き出していた。
部屋の隅には、猿轡(さるぐつわ)を噛まされ、太いロープで固く縛られた二人の女子生徒が転がっている。恐怖に怯え、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、虫の鳴くような声で何かを訴えてくるが、俺にはどうでもよかった。
「静かにしろ。……三人目(ひとり)は昨日処分してやっただろ。次はどっちにするか考えてる最中なんだよ」
ガソリンとカビの匂いが充満するこの地下室は、俺だけの城だ。
作業着の右袖で、右頬にある大きなアザをかきながら、俺は冷笑を浮かべた。
計画は完璧だった。
防犯カメラの死角を選び、口留めも完璧。連れ去る瞬間を誰かに見られた形跡すらない。一人目のガキの遺体も、昨日の深夜、警察の捜査を撹乱するために遥か遠くの街外れに捨てる徹底ぶりだ。
警察どもは今頃、無関係な場所をウロウロしながら頭を抱えていることだろう。
身元を示すものも、足取りを辿る手がかりも、何ひとつ残していない。
俺の完璧な監禁部屋に、外部の人間が辿り着けるはずがなかった。
——ドンッ!!
突然、地下室の上階、重厚な鉄の扉が爆音とともに吹き飛んだ。
「ひっ……!?」
縛られた少女たちが短い悲鳴をあげる。俺は咄嗟に腰のナイフを引き抜き、跳ね起きるように立ち上がった。
「な、なんだ……!? 誰だ!?」
階段を駆け下りてくる荒々しい靴音。
暗闇から現れたのは、息を荒く乱した二人組の男たちだった。一人は柄の悪い革ジャンを着たベテラン風の男、もう一人はワイシャツを血と泥で汚した若い男。
二人とも、警察のバッジと黒い拳銃を俺に突きつけていた。
「動くな! 警察だ!! ナイフを捨てろ!!」
若い刑事の叫び声が、狭い地下室に響き渡る。
バカな。なぜだ?
なぜここが分かった!? 防犯カメラにも映っていない、何の接点もないこの廃倉庫を、なぜ特定できた!?
「な……なぜ……ここが……!?」
俺が狼狽しながらナイフを構え直すと、革ジャンの男——峯岸と呼ばれた刑事が、冷酷な笑みを浮かべて一歩を踏み出してきた。その目は、獲物を絶対に逃がさない肉食獣そのものだった。
「なんでここが分かったか、だと?」
峯岸は低く、地獄の底から響くような声で吐き捨てた。
「お前に殺されたあの子が教えてくれたんだよ。『川の近くの赤レンガ倉庫』、『右頬にアザのあるガソリン臭い男』ってな」
「は……? 何を言っている……!? あいつは死んだ! 誰にも何も話せるはずが——」
「話せるんだよ、俺たちのバディはな」
峯岸の言葉の意味が分からず、俺の頭は混乱で破裂しそうだった。死んだガキが喋るわけがない。警察のハッタリだ。きっとそうだ。
「ふざけるなッ! 警察がオカルトみたいな戯言抜かしてんじゃねぇ!!」
俺がヤケクソになってナイフを振り上げ、峯岸へ飛びかかろうとした、その瞬間。
「動くなと言ってるだろ!!」
バンッ!と乾いた銃声が地下室に轟いた。
俺の手からナイフが弾き飛ばされ、激痛とともに床へ転がり落ちる。撃ったのは、後ろで脚をガタガタと震わせながら、必死に両手で銃を構えていた若い刑事——佐藤だった。
「ぐあああッ……!?」
床でのたうち回る俺の頭上から、峯岸の影が覆いかぶさる。
胸ぐらを激しく掴み上げられ、壁へと叩きつけられた。首元を締め上げる肉厚な手のひらから、凄まじい怒りと殺気が伝わってくる。
「……あの子たちが味わった絶望と恐怖、それから命削ってここまで導いてくれた女子高生の涙の分だ。……壁に向かって死ぬまで反省しやがれ、クソ野郎」
「がっ……あ……っ……!」
ガチリ、と冷たい手錠が両手首にはめられる。
俺の完璧だったはずの王国は、一瞬にして崩壊した。
警察の捜査網すら潜り抜けたはずの俺の犯罪は、「死者の声」を聞く目に見えないバディの手によって、完全に暴かれたのだ。
倒れ込みながら見上げた天井の暗闇に、なぜか冷たい視線を感じて、俺は全身の毛穴が逆立つような恐怖に震え上がった。
前職は舞妓
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きょう
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コメント
1件
うわー、このエピソード、すごく引き込まれました…!犯人視点で始まるから、まさか途中から刑事たちが「死者の声を聞くバディ」って設定で来るとは思わなくて、鳥肌が立ちました。犯人の“完璧だったはずの計画”が崩れる瞬間のカタルシスがたまらなかったです。峯岸刑事のセリフ、一言一言が重くて、あの子たちの無念が報われた気がしました。続きが気になります!