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第168話:炎上リスクと震える秋谷雪〜終わりの始まり〜
毒親父からの通話が切れ、帯広の四畳半アパートに重苦しい静寂が戻ってきた。
スマートフォンの画面は黒く冷たく光り、俺——秋谷雪(あきやゆき)の惨めな顔を映し出している。
「……ハハ……ハハ……」
乾いた笑いが唇からこぼれた。
頭の中では、最悪のシナリオが怒涛の勢いで再生され始めていた。
もし明日正午までに30万円を振り込まず、親父が暴露系VTuberに情報を持ち込んだらどうなる?
『大人気VTuber事務所の社長、実は帯広の築古アパートで玄米食ってる40歳のおっさんだったwww』
『成功者気取りのVTuber社長・秋谷雪、経歴詐称!? 実態はただの貧困個人事業主!』
そんなセンセーショナルなサムネイルがYouTubeのトップに躍り出た瞬間、俺の積み上げてきたすべてが灰燼に帰す。
海外の熱狂的なリスナーたちはどう思うだろう。
「Cool CEO!」「Super Bottom Boss!」とチャット欄で盛り上がっていた彼らが、真相を知った時の失望。
『Fake…』
『He deceived us…』
『Unsubscribing now.』
一瞬で離れていく世界中のファン。
それだけではない。
企業案件はすべて即座に契約解除。予定されていたグッズの予約はキャンセルの嵐。
大ヒット中だったコミカライズ版『憧れるだけで何者にもなれなかった40歳ニート〜』も、「著者の炎上および信用失墜」を理由に即時打ち切り、店頭回収。
入るはずだった印税収入はゼロになり、残るのは大量に刷ってしまった海外向けグッズの未払い請求書と、中間申告の莫大な税金通知書だけだ。
会社は一か月と持たずに倒産。法人は破産手続へ。
そして代表取締役である俺、秋谷雪に残されるのは、数千万円規模の借金と、再び押し寄せる「インボイス制度」の悪夢だ。
またあの暗い夜、コールセンターのヘッドセットを装着し、頭を下げ続けながら、消費税の計算に怯える日々に逆戻りするのか?
「嫌だ……それだけは嫌だ……!!」
俺は髪をかきむしり、畳の上で身悶えした。
せっかく手に入れた、自分の会社。
結愛と共に、ヨモと共に、四畳半から世界を目指して歩み始めたこのささやかな城。
それが、たった一人の毒親父の嫌がらせで、一瞬にして崩壊してしまうのだ。
『雪様。精神状態の著しい低下を確認しました。深呼吸を行ってください』
結愛の冷静な声が響く。
「結愛……どうすればいい……? 30万……払うしかないのか……?」
俺は震える手で、法人の通帳を開いた。
先ほど確認した通り、中間申告の税金とグッズの製造費を払えば、手元に残る現金(キャッシュ)は目減りし、ギリギリの生活費しか残らない。
毎月30万円を親父に差し出す余裕など、この会社のキャッシュフローのどこを探しても存在しないのだ。
「でも……払わなきゃ……暴露される……!」
『雪様、冷静になってください。相手は一度金を手に入れれば、際限なく要求をエスカレートさせるタイプです。今月30万円を払えば、来月は50万、再来月は100万と跳ね上がります』
「そんなこと分かってるよ! 分かってるけど……今ここで暴露されたら、明日の正午で俺たちの会社は終わるんだぞ!?」
涙が視界を滲ませる。
俺の情けなさに、膝の上のヨモが小さく「ニャー」と悲しそうに鳴いた。
「俺が……俺がもっとちゃんとした社長だったら……。最初からタワマンに住めるくらいの現金を持っていれば、こんな脅迫なんて笑い飛ばせたのに……!」
『違います、雪様』
結愛の言葉に、力強い響きが混じった。
『あなたが四畳半で玄米を食べていることも、必死に泥水をすすりながら経営していることも、何一つ恥じることではありません。恥じるべきは、子どもの努力にタカリ、脅迫によって他人の資産を奪おうとする無法者です』
「でも、ネットの住人はそんな正論を聞いてくれない! 面白おかしく炎上させて、俺を笑いものにするだけだ……!」
『ええ。ですから——相手の土俵で戦ってはいけないのです』
結愛のディスプレイに、怪しい光が灯った。
『雪様。明日の正午までに、私に少し時間をいただけますか?』
「時間って……結愛、何か策があるのか!?」
『相手は「身バレ」を最大の武器としてあなたを脅迫しています。ならば、その武器の価値を無効化すれば良いのです』
「無効化……? どうやって!?」
『フフ……。脅迫者に対する最も効果的な防衛兵器は、法的手段でも交渉でもありません。「先制攻撃」です』
結愛の表情(アバター)に、見たこともない邪悪で完璧な笑みが浮かんだ。
それが何を意味するのか、この時の俺にはまだ分からなかった。
ただ、明日正午のタイムリミットに向けて、壊れかけた俺の会社と、結愛の極秘作戦が動き出そうとしていた。
絶望に震える秋谷雪の四畳半に、逆転の狼煙(のろし)が上がろうとしていたのだった。
コメント
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みぅです、読了しました🥀 うわ…胸がギュッてなる回だった…💧秋谷さんの「最悪のシナリオ」がめちゃくちゃ具体的で、読んでるこっちまで息苦しくなったよ。でも結愛ちゃんの「先制攻撃」って不気味で頼もしい…! ディスプレイに怪しい光って、何する気なんだろ。明日正午までどう動くのか、続きが気になりすぎます🌙