テラーノベル
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#独占欲
#ワンナイトラブ
扉の外で、控えめなノックの音が響いた。
「失礼いたします」
セドリックの声に続き、静かに扉が開かれる。
自然と、視線がそちらへ向いた。
(やはり、そう来るか)
最初に姿を現したのは、リリアンナではない。
当然のように彼女を守るようにリリアンナの一歩前に、ここの城主にして辺境伯・ランディリック・グラハム・ライオールの姿があった。
客人を迎える城主として、何一つ不自然ではない立ち位置。
だが――。
(……今日僕は、リリアンナ嬢へ会いに来たはずなのに)
配役が完全に入れ替わっている。
セレノの訪問の意図をちゃんと汲んでくれているならば、リリアンナが前、その半歩後ろがランディリックであるはずだ。なのに、実際は逆になっていた。
葡萄酒色の髪。
孔雀石色の瞳。
変わらないはずの色が、ランディリックの背後でどこか遠く感じられた。
ランディリックが一歩進む。
「お待たせいたしました、セレノ皇太子殿下」
低く、落ち着いた声音。
礼節に則った、完璧な挨拶。
「此度はうちのリリアンナのためにわざわざご足労いただき、光栄に存じます」
「突然の訪問にもかかわらず、丁重な出迎えに感謝いたします、ライオール侯爵」
セレノもまた、穏やかに応じる。
互いに一分の隙もない言葉。
だが、その奥では――明らかにお互いの腹の探り合いが展開されている。
空気が、わずかに張り詰めているのを、この場にいる誰もが感じていた。
「リリアンナ嬢」
セレノは、意識的にその名を呼んだ。
ランディリックではなく、あくまで彼の背後に隠れるようにして立つリリアンナに視線を向ける。
「お久しぶりでございます、殿下」
ここまであからさまに視線を向けられては、背後にいるわけにはいかなくなったのだろう。リリアンナが一歩進み出て、丁寧にスカートの裾をつまんで膝折礼をした。
それが終わるなり、ランディリックが同じだけ距離を詰め、またしてもリリアンナを自分の背後へ隠してしまう。
自然な動きだ。
――未婚の、年頃の女性を守る保護者としては嫌みなくらいに適切な動きに思えた。
これは……以前一緒に王都へ出向いた時とは自分の身分が違っているからだろうか。
(いや……)
それすらリリアンナをセレノへ近づけないための口実にされている気がするのは、恐らく気のせいではないだろう。
(……わざと……だな)
「リリアンナ嬢、お願いだ。顔を上げてくれないか? そんなにかしこまられると……少し寂しい」
柔らかく言葉をかける。確かに今はマーロケリー国皇太子セレノ・アルヴェイン・ノルディールだが、気持ち的にはセレン・アルディス・ノアール――辺境の侯爵家三男坊だったころと何ら変わりない。
身分が、リリアンナとの距離を隔てるというのなら、彼女にだけは田舎貴族の三男坊と思われている方がマシに思えた。
「ですが……」
「僕はセレンの時と何ら変わりない気持ちでキミに接しているんだけどな?」
少し弱音をにじませるように言えば、わずかに間を置いて、リリアンナが顔を上げた。
コメント
1件
なんか空気が不穏でドキドキする!