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おれはナイフを振り下ろした。
…確かに、振り下ろしたはずだった。
ナイフの刃に、切れる感覚は無い。
血飛沫も無ければ、グシャっという微かな音だって無い。
“当たらなかった”というよりは、”止められた”という表現の方が合っているだろう。
🌟「ふふっ、驚いた?笑」
彼の表情は暗くて見えないけど、その声色は明らかに笑っていた。
予定外の出来事だが、ここでおれが慌てると彼に勝てると思われてしまう。
おれは冷静に言った。
🌸「…へぇ、よく止めたね」
🌟「そりゃあ僕は今まで、瞬発力と拳で何とかしてきたからね」
🌸「ほんっと人間らしくない」
🌟「それはさくらもだよ、その体であの力、人並みじゃない」
🌸「でも止められてるし、意味ない」
🌟「…一応言っとくけどさ、」
おれは両手で持っていたナイフを奪われた。
彼はそれを床に捨てたと思えば、片手でおれの両腕を捕まえた。
🌟「さくらに僕は殺せないよ?」
🌸「…、?」
その瞬間、視界が180度変わった。
先程までおれの下にいた彼が、今度は上にいる。
簡単に言えば、彼に押し倒された。
片手で捕まえられたおれの両腕は、頭の上に抑えられ、もう片方はおれの頬をそっと触れた。
🌟「でもね、さくら。それは逆も然り。
僕にさくらは殺せないの」
そう言って彼はおれの額にキスを落とした。
🌟「可愛い、」
暗くて何も見えないはずなのに、彼はそう小さく呟いた。
🌟「あ、言ってなかったかな。僕の青い瞳はね、暗闇でも見えるんだよ。その代わりに光には弱いから、ただの照明でも眩しく感じちゃうんだよね、ほんっと困る。」
多少不満そうに言う彼の話を聞けば、どうやら光に弱いのは本当らしい。
だけど、暗闇でも見えるなんて、たまったもんじゃない。
今のおれの表情だって見えてるとか、。
🌟「まぁとにかく、俺を殺そうとした罰は受けてもらうよ。…初めてだからって、手加減とかしねぇから。」
その瞬間、彼の声色が変わったのが分かった。
ここから逃げようと思えば、きっとおれならできるだろう。
数年前に、そういう訓練もしたことがあるから。
だけど体は逃げようとはしなかった。
それは、逃げると彼に二度と会えなくなるかもしれないからか、はたまた別の理由か。
どっちにしろ、おれは逃げるという選択を選ばなかった。
🌟「ふふっ、笑」
深夜ニ時過ぎ、部屋中に甘ったるいほどの声が響いた。
?「やだよさくら、僕離れたくない、(泣)」
🌸「ダメだよ、もう決まったことなんだから」
?「そうだけどさ…(泣)」
🌸「こんなところで育ったら、おれみたいに悪い人になっちゃうよ。」
?「さくらは悪い人じゃないもん!」
🌸「ううん、おれは悪い人だよ。おれみたいになって欲しくないの。」
?「でも…」
🌸「そろそろ時間だね。遠くの町でも元気にしててね、”ゆぺくん”」
🌸「……」
目が覚めた。
それと同時に、おれは昔の記憶を思い出した。
“ゆぺくん”と称した少年は、おれの弟的存在。
別に血の繋がりも無いから、本当の弟ではない。だけど、おれを見つけるといつも近くに寄ってくるその姿は、子供らしくて可愛らしい。
身長もおれより小さく、仲間のマフィア達がいるとすぐにおれにくっつき、後ろに隠れる。
そんな可愛い少年とは、おれがこの地を去るように言った。
こんな毎日争うような場所、あの子には危険すぎるし、おれみたいな人にはなって欲しくないから。
…あれから、もうあの子を見ることは無くなる思っていた。
🌸「…そっか、君だったんだね、。
思い出せなくて…ごめん、」
おれは小さく呟いた。
おれの腕の中で眠っているそれは、なんだか幼く見える。
あの頃の面影が、重なって見えた。
その姿がなんだか可愛くて、自然とその綺麗な紫色の髪を撫でていた。
🌟「…ふふっ、さくらに撫でられるの、久しぶりだなあ」
まだそこまで起きていないのか、目を瞑ったままゆぺくんはそう言った。
その姿は、昔と何一つ変わっていない。
そんな事実に多少笑みが溢れる。
🌸「…そうだね、久しぶりかも、笑」
…だけど、困ったことになった。
おれがゆぺくんを殺せるのか。
普通はマフィアに友情や恋愛などの感情は抱いてはいけない。
そうしてしまうと、裏切られる可能性があるから。
実際、味方に警戒心を持たず、強いのに殺されたというケースもよくあることだ。
血の繋がりがあろうと無かろうと、おれはゆぺくんを信用してはいけない。
そしてボスに命令された以上、おれはゆぺくんを殺さなければならない。
そんなことをおれにできるのか。
朝の働かない頭で考えても、答えが出ることは無かった。
🌟「そういえば、さくらは覚えてる?」
🌸「…?」
🌟「昔さくらが僕に、”絶対結婚しような”って言ってくれたこと」
🌸「あー…あったね、そういえば、。…だけど、あれは…」
子供騙しの嘘だよ、そう言う前にゆぺくんが言った。
🌟「あれ、僕は信じてるから。」
何も嘘を吐いていないと、一目で分かる澄んだ青い瞳がおれを映した。
そしてニコッと微笑んだかと思えば、ゆぺくんは力強くおれを抱きしめた。
🌸「ちょっ、くるしっ、」
🌟「もう二度とさくらと離れたくない」
🌸「…分かった、分かったから離して、」
🌟「やだ」
🌸「やだじゃなくて、!」
朝になると甘えん坊になるところも、昔と変わっていないみたい。
むしろ、悪化している気さえした。
私最近書きながら思ってるんです。
🌟さん視点の小説も書けば、もっと面白いんじゃないか、と。
気が向いたら書きます、可能性低いですが(
そして、この小説を書き終わったら一週間後にはフォロワー限定にしようと思ってます!
もしweb版で読んでいる方がいるのであれば、今のうちに読むか、ログインするかにしてください🙏
以上です、スクロールお疲れ様でした!🫶🏻