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「じゃあ、付き合ってくれるか?」

 

「ほええ?」

 

あまりの驚きに頭が白くなる。

 

「添い寝、付き合え」

 

「へっ、そ……添い寝?」

 

亮介は体を離すと、手を引いて未央をベッドに寝かせ、布団に潜りこんできた。

 

「ぐっ、郡司くん……」

 

「未央、ぎゅっとしろ」

 

「……っ」

 

言葉にならなかったけど、未央は亮介のシャンプーの香りにクラクラだった。首に手をまわしてぎゅっと抱きつく。

 

──すーすー。

 

亮介の寝息が聞こえる。この状況で手を出されないのもなんだか悲しいが、彼の胸に顔をうずめる。温かい。

 

こうして抱きしめられているとうれしい。郡司くんだからかな。未央はお亡くなりになったさっきのブツに感謝して、眠りについた。翌朝、未央は朝食を用意していた。ごはんと味噌汁とほうれん草のおひたしに目玉焼き。いつもはおにぎりやお茶漬けで済ませることも多いけど、ちょっとだけはりきって。

 

寝ている亮介を見て顔がにやける。寝てる姿も美しいってどうなの。

 

「うー……」

 

「郡司くん、おはよう。朝ごはん食べれそう?」

 

亮介は起きあがってベッドに座り、顔を手で覆ってうんうんうなっている。

 

「大丈夫?」

 

「ごっ……ごめんなさいっ!!」

 

ベットから勢いよく降りて正座して、亮介は頭を下げてきた。

 

「どうしたのいきなり?」

 

「すみません、きのうのこと……」

 

「大丈夫、誰にも言わないから」

 

「ほんとにすみません。僕……、口調変じゃなかったです?」

 

「え? 口調?」

 

そういえばずいぶん俺さまだったような。

 

「ごめんなさい未央さん。僕、実は──」

 

亮介はポツリポツリと、自分の秘密を話し始めた。

 

 

 

 

3亮介の秘密

 

 

 

「読書をすると人格がかわる?」

 

朝ごはんを食べながら、亮介はちいさくうなづいた。

 

「人が変わると言うのか、その本の主人公や、気に入ったキャラクターになりきってしまうんです。だからなるべく夜読むようにしてるんですが、昨日は極道系のマンガを読んでいて……」

 

「だから、きのうの夜は、俺さまキャラだったわけね」

 

「はい……、本当に申し訳ありません」

 

「自覚はあるの?」

 

「あります、一人だとそれを楽しめるんです。だから家に帰って読書して、その人になりきって過ごすのが小さい頃から楽しくて」

 

「そうだったんだ……」

 

「寝たら、リセットされて普段の自分になるんですけど、読んだすぐ後はどうもその人格が抜けなくて……」

 

「なるほど」

 

「本当にすみませんでした」

 

「ちなみに、ゴキ……を見たときの黄色い声は……」

 

「あれは……素です」

 

あれは素なんだね、うん。

未央はなんだかよくわからないけど亮介があまりに落ち込んでいるので、かわいそうになってきた。

 

「でもさ、面白いじゃん? 色んな人になりきるのって。きのうだって、口調だけはそのキャラクターでも、中身は郡司くんでしょ?」

 

「はい……そうですね」

 

「そのままでいいんじゃない? 無理してなおさなくても。あなたのままで。ただ、自分でコントロールできるようにした方がいいかもね」「未央さん、本当にそう思いますか?」

 

亮介はうれしそうに、目をきらきらさせる。引かれると思ってたのだろう、きっと。

 

「うん、いいと思う! きょうも縁側で話そうよ、元に戻る練習もかねて。なんか面白そう」

 

「いいんですか?」

 

「うん、話したい。聞かせてよ」

 

「わかりました。極道系マンガを読んでる途中なので、たぶんそんな感じだと思います」

 

「いいね!! じゃあ約束ね」

 

未央はニコニコっと笑った。昼間の王子さまからは想像もできないお悩み。口調は変わるけど中身は郡司くん……つまり王子さまなんだよね。

 

いや。それってむしろ最強なんじゃないか? 悪役だけど態度は王子さま? 魔王的な? あ、でも少女マンガを読んだらそれっぽくなるのかな? うーん、見たい。見せてほしい……。

 

もう、あきれたのを通り越してワクワクしかない。

 

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